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未来の会

中小病院が地域で活躍出来る医療制度を ~地域に根差した急性期と在宅を繋ぐ医療~

中小病院が地域で活躍出来る医療制度を ~地域に根差した急性期と在宅を繋ぐ医療~
猪口雄二(いのくち・ゆうじ)1955年東京都生まれ。79年獨協医科大学卒業。同年同大学病院リハビリテーション科。87年医療法人財団寿康会理事長(現)・寿康会病院院長(〜2005年、15年再任)。98年江東区医師会理事。99年東京都病院協会常任理事(現)。03年全日本病院協会常任理事。07年同会副会長。17年同会会長。現在、地域包括ケア病棟協会副会長、全日病医療保険・診療報酬委員会委員長、四病院団体協議会医療保険・診療報酬委員会委員長、日本病院団体協議会診療報酬実務者会議委員、厚生労働省保険局中央社会保険医療協議会委員、社会保障審議会医療部会委員などを務める。

2018年度には診療報酬と介護報酬の同時改定が行われ、医療と介護は新たなスタートを切ることになる。日本では病院の大多数を占めているのは民間の中小病院で、超高齢化社会を迎えた今、これらの病院が日本の地域医療の中心的な役割を担うことになる。また、少子化が進み、人口が減少していく日本では、医療においても、少ない人材を出来るだけ有効活用していくことが求められている。日本の医療の進むべき道について、全日本病院協会(全日病)の新会長で中央社会保険医療協議会(中医協)委員も務める猪口雄二氏に話を伺った。


——6月に全日病の会長に就任しました。抱負をお聞かせ願えますか。

猪口 全日病の会員病院は、民間病院で100床、200床といった中小規模の病院が多いのが特徴です。近年、制度改革が進むことによって、基幹病院や公立病院ばかりが中心に位置付けられ、民間の中小病院が弾き飛ばされるようなことが起こりかねない状況になっています。民間の中小病院の多くは、長年にわたって地域に根差した医療を行っていることが多く、それが強みとなります。地域に密着していることを活かせる制度作りをしていくことで、おのずと全日病の立ち位置がはっきりしてくると思います。それを強固なものにしていくことが必要だと思っています。

——日本の医療をどのように見ていますか。

猪口 これからの日本は人口が減少していきます。昔の人口に戻るだけとはいえ、人口構成は全く違っていて、かつてはこれからの人が大多数を占めていましたが、今後は既に社会生活から引退した人が大多数を占めるようになります。少子高齢化によって、例えば、100万人が250万人を養う時代の医療はどうあるべきか、ということを考える必要があるでしょう。いろいろなアイデアを持たなければ駄目だと思います。大切なのは、医療や介護を効率良く提供していくことです。私は中医協委員として、新しい薬の認可などにも関わっていますが、ものすごく高価な薬剤がどんどん登場してきています。現在の保険制度の中でどう扱っていくべきなのか、どうすれば今の保険制度を守っていけるのか、しっかり考える必要があります。

次期診療報酬・介護報酬同時改定に向けて

——日本の中でも地域によって抱えている問題は違うのでは?

猪口 全日病の各支部でも、事情はいろいろ違っています。先日、島根県の会員の人達が東京に来た時に話をしたのですが、地域の抱えている問題は全く違いました。島根県のある2次医療圏には、病院が三つあり、人口は7万人程度ということでした。そういう中で、どのように仕事を分担していくかが重要な問題になります。一方、私の病院がある東京都江東区の場合、2次医療圏の抱える人口は150万人で、そこに60の病院があります。こういった違いがあるのですから、話し合う内容や手順が同じであるはずがありません。全日病としては、地域によっていろいろ事情は違いますが、そういうことをきちんと吸い上げる構造を作っておく必要があると思っています。

——2018年度は診療報酬・介護報酬の同時改定があります。診療報酬はどうあるべきと考えますか。

猪口 細かいところはともかくとして、診療報酬がものすごく複雑になっているという問題があります。『診療報酬の手引き』は数千ページという厚さです。そのうちの半分くらいを、届け出とか通知とか告示とかが占めています。とにかく複雑で、何かをしようとしてもなかなか分からない。複雑になってしまったことで、いろいろなところで無駄が生じていることは間違いありません。これを出来る限り簡素化してほしいということは、常に訴えています。

——診療報酬を増やしたい部分は?

猪口 求めていきたいのは、モノではなくて、人にお金を付けることです。モノより人。これを基本路線にしていきたいと思っています。現在は薬剤も医療機器も非常に高額になっていて、そういうところにばかり報酬が回っている傾向があります。例えば、C型肝炎の治療薬が認可されたことで、一昨年は医療費がポンと上がっています。それがある程度行き渡った昨年は、医療費が下がりました。そういうことが起こるくらい、モノにはお金が付いているのです。しかし、これからは人にお金を付けるべきです。日本では、もう若い人が増えることはありません。医師を含めた医療人も、その少ない人達でやっていかなければならないのですから。

——人を有効活用する必要はありますね。

猪口 現在の診療報酬は、何か加算を取ろうとすると、専従の職員が必要ということが多いのです。だから、加算を取ると売り上げは上がるのですが、専従職員を雇うために人件費が上がってしまい、結局マイナスになってしまいます。これが病院経営の現実の姿です。例えば、医療安全のために専従の看護師を配置すると、その看護師は他の仕事は一切出来ません。人材活用ということを考えると、なんとも無駄が多いのです。医療安全の仕事には責任を持つけれど、他の仕事も出来るという仕組みにしていく必要があると思います。マルチタスクと言っていますが、複数の仕事を出来るようにすべきです。それが、人を大事にし、人を効率良く活用していくことに繋がります。

地域包括ケア病棟を活かす

——具体的な問題として重視しているのは?

猪口 地域包括ケア病棟が本来の役割を果たせていないという問題があります。地域包括ケア病棟というのは、急性期の治療を終えた患者が、リハビリなどを受けるために入院し、良くなったら在宅に帰すという役割を持っています。もう一つ、在宅の患者が悪くなった時に受け入れ、良くなったら返すという役割もあります。ところが、中医協などの資料を見ると、急性期からの受け入れがほとんどになってしまっています。つまり、急性期の後のリハビリのための入院ばかりになってしまい、もう一つの役割を果たせていないのです。地域包括ケア病棟をどのように位置付けるのかが、今回の改定の大きなポイントだと思います。

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