SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「臍帯血移植事件」で露呈した自由診療の〝抜け穴〟

「臍帯血移植事件」で露呈した自由診療の〝抜け穴〟
ブローカーの存在が違法治療の拡大を助長

破綻した臍帯血バンクから流出した臍帯血が、高額な自由診療の食い物にされていた。他人の臍帯血を国に無届けで投与したとして、愛媛など4府県警の合同捜査本部は8月、再生医療安全性確保法違反の疑いで、「表参道首藤クリニック」(東京・渋谷区)院長の医師、首藤紳介容疑者(40歳)ら6人を逮捕した。移植医療の専門家は「怪しい自由診療を野放しにしていてはいけない。徹底的にやってほしい」と憤る。厚生労働省は今後も法律を駆使して悪質な自由診療を監視するというが、その効果には疑問符も投げ掛けられている。

 全国紙記者が解説する。

 「事件の発端は2013年12月、高知市の女性が、今回逮捕された坪秀祐容疑者(60歳)が経営する「京都健康クリニック」で、末期がんの治療として臍帯血移植を受けたことだった。500万円ほどを支払ったが、女性は3カ月ほどで亡くなった。不信感を募らせた遺族が警察に相談して発覚した」

規制対象外の民間バンクから流出

 当時は、今回の逮捕容疑となった再生医療安全性確保法の施行前。実際に治療が行われていたため、詐欺罪などの別罪を問うことも出来ず、この案件は刑事事件化されなかった。しかし、さらに別の医師法違反事件の捜査で、愛媛県松山市の健康食品販売会社が坪容疑者のクリニックに多くの顧客を紹介していたことが判明する。クリニックは「臍帯血移植」を売りにしており、警察がその入手ルートを調べたところ、09年に経営破綻した茨城県つくば市の民間の臍帯血バンク「つくばブレーンズ」の存在が浮かび上がったのである。

 つくばブレーンズが保管していた臍帯血の一部は、今回逮捕された篠崎庸雄容疑者(52歳)が社長を務める臍帯血販売会社「ビー・ビー」に流れていた。篠崎容疑者は入手した臍帯血を全国の医療機関に販売、その一部が患者に投与されていた。警察と情報共有しながら入手経路の調査を進めた厚労省は今年5〜6月、無届けで他人の臍帯血を患者に投与したとして、表参道首藤クリニックなど全国11カ所の医療施設に、他人の臍帯血を使った再生医療の一時停止を求める緊急命令を出した。

 再び全国紙記者の話。「臍帯血バンクには日本赤十字社などの公的バンクと民間バンクがある。公的バンクは出産する女性が善意で第三者の治療のため臍帯血を提供するもの。一方、民間バンクは子供や血縁者の将来の病気に備え、自身で金を払い、臍帯血を保存するもの。民間バンクの臍帯血が第三者に流れるというのは想定外の事態だった」

 公的バンクは造血幹細胞移植推進法で臍帯血の品質保持などを求められているが、民間バンクはこの法律の適用外。自身や血縁者のために臍帯血が使われるのであれば自己責任と言えようが、今回のように第三者に投与される事態は起こり得る。

 もっとも、民間バンクを取り締まる法律が何もないかというとそうではない。「美容などが目的の自由診療であっても、臍帯血移植という医療行為には届け出が必要。他人の臍帯血であれば、感染症や免疫拒絶反応などのリスクも高く、再生医療安全性確保法が定める第1種再生医療となる」と厚労省担当記者。つまり、臍帯血を無許可で治療に使うことは出来ないのだ。「届け出があった医療行為は厚労省の審議会で議論され、効果と安全性が認められたものが許可されるが、現時点で臨床に許可されているものはない」(同記者)。

 これだけを聞くと、臍帯血移植には効果がない、ほとんど行われていないと誤解しそうになるが、造血幹細胞移植推進法は臍帯血移植が出来る疾患、すなわち有効性があると認めた疾患として急性白血病などの27種を定めている。いずれも高い医療技術が必要で、移植前には抗がん剤や放射線で患者のがん細胞をなくすなどの前処置が必要となる。

 しかし、今回の事件で行われた「臍帯血移植」ではそうした処置は行われず、注射で臍帯血を注入するなど杜撰な医療だった可能性が高い。「移植」の明確な定義がないため、体内への投与で「臍帯血移植が行われた」と見なし、再生医療安全性確保法違反を適用した。

事件化が危うかった裏事情

 捜査関係者によると、厚労省は今回の事件を重くみて、どうやって事件化出来るかを警察とともに知恵を絞って考えたという。その結果、最初の事例の時は施行されていなかった再生医療安全性確保法に違反するとして、初の立件に繋げた。ただ、これは逆に「臍帯血ではない効果が不明なものを体内に入れたり、温熱風呂のような科学的に効果が証明出来ない自由診療が行われたりしても、取り締まれないことを意味するのではないか」(都内の医師)という声も上がる。

 事実、今回の事件の容疑者たちは、再生医療安全性確保法の施行を認識した上で、法の抜け穴を利用したとの指摘がある。

 「捜査関係者によると、首藤容疑者らは患者のカルテに、国に届け出をしなくても臍帯血移植が可能な27疾患の名前を書いていたようだ。例えば白血病の治療を行うことにすれば、治療として国に届け出ずに臍帯血移植を行える。こうしたことを指南したのは、篠崎容疑者だったとされている」(全国紙記者)。

 臍帯血移植に適用される二つの法律を熟知した上で、その穴を狙って高額な〝治療〟を行っていた容疑者達。一方で、「アンチエイジング」など本来の治療目的が書かれていたカルテもあったというから、事件にはならないと高をくくっていたのか。

 「首藤容疑者を知る人達は、一様に『真面目な人だった』と言う。故小林麻央さんの乳がんの治療をしたことでも注目されたが、派手なやり手医師というより真面目な人物という評が多い」と語るのは、本人を知る医療関係者だ。とはいえ、やっていた医療は「美容はまだしも、がん治療として行われていた自由診療の数々は、がん患者を食い物にしたと言われても仕方がない」(同)。

 真面目さ故か、首藤容疑者は臍帯血の納品や使用の証明となる書類をきちんとクリニックに残していたとされている。「立件出来たのは、こうした物証がきちんと残っており患者のカルテにもどのくらいの量を投与したかが書かれていたから。逆に言うと、そうした記述のない杜撰なカルテだった場合は立件出来なかったかもしれない」と捜査関係者は打ち明ける。

 事件を受け、日本医師会の横倉義武会長は民間の臍帯血バンクなどを厳しく監視する必要があるとして、国に規制を求める考えを示した。

 がんの治療を行う大学病院の医師は訴える。「自由診療だからといって、何でも許されるわけではない。何年たっても効果が証明出来ない医療は実施を規制すべきだし、患者の側も見極める目を持ってほしい」。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top