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未来の会

病院の「建て替え」で考慮すべきこと

々な物、バラ

医療機関においては、30〜40年に一度、自施設の建て替え時期が巡ってくる。病院の建て替えは、経営者にとって最大の意思決定の一つであり、最大の投資が必要な正念場でもある。

 患者は、医療のアメニティーについて大きな関心を寄せるようになっている。

 そんな中、「建築物の耐震改修の促進に関する法律の規定に基づいて、都道府県においては所管する区域の「要緊急安全確認大規模建築物」及び「要安全確認計画記載建築物」の耐震診断の結果を実名で公表している。ここで耐震性能が劣ると見なされた建物は、安全性を問題視されて、利用者の足が遠のいていく可能性もある。

 例えば、「倒壊・崩壊の危険性が高い」と公表された徳島厚生連の阿南共栄病院(阿南市)は、阿南中央病院と統合され、阿南医療センターとして、2019年3月に移転整備を進めている。

 しかしながら、昨今の病院建設を巡る周囲の環境は殊の外、厳しい状況にあるのも事実だ。

東京五輪を前に建設コストは上昇の一途

 18年度診療報酬・介護報酬の同時改定まで半年を切ったが、診療報酬の改定率はこの20年間、ゼロ改定もしくはマイナス改定が続いており、病院の利益は長らく圧縮され続けている。さらに、そこから半年先の10月には、消費税率10%への引き上げが予定されている。

 20年に東京五輪が決まって以降、建設コストは右肩上がりに上昇の一途を続けており、医療・福祉関連の建設単価は、この5年で約1.5倍に膨れ上がったとされる。それでも首都圏では、オリンピック需要が一段落すれば落ち着きを取り戻すと見込まれているが、建設作業員の人手不足の状況は、なかなか先行きが見通せない状態が続いている。

 一方で、介護型の療養病床は17年度末で廃止されるため、3〜6年の経過措置期間を経た後で受け皿になる、新たな3類型(施設基準が「介護療養病床」に相当するⅠ型、「介護老人保健施設」に相当するⅡ型、医療外付け型)の新施設への転換を余儀なくされている病院もあるはずだ。

 新病院建設が、“やりたいことが何でも実現可能な状況”でなくなっていることは間違いない。限られた予算、時間的制約、さらには政策の影響も強く受ける中で、どのようにして、サービスやアメニティーの充実を図っていけば良いのだろうか。

 急性期病院であれば、手術室や設備を拡充したり、高度な医療機器を導入したいと考えるのは当然のことだ。また、自費診療を拡充したいという思惑もあるかもしれない。さらに、患者の相談室、あるいはスタッフ用に会議室、休憩室、更衣室などを広げたいという希望もあるかもしれない。これらを調整して絞り込んでいかなければ、建物への過剰投資となることは、目に見えている。

 また、留意すべき点は、現場の要望を吸い上げ、スタッフの知らないところで計画が進行していると受け止められないにしながら、機能、建物、そして財務の三者のバランスを取っていくこと。何より慎重さが必要とされる。

 実際に、新築移転を考えた場合、例えば200床規模の中小病院であっても、設計に8カ月以上、施工には1年以上の期間が費やされることになる。

 もし、実際に、そうした設計・施工段階に入れば、専門の業者がスケジュールを管理してくれることになるはずだが、まずそれに先立つ事業計画の段階で十分精査していくことが不可欠だ。

 というのも、事業計画の段階であれば、変更は比較的容易に行え、柔軟性が高いが、基本設計、実施設計とフェーズが進んでいくにつれて、計画の変更にも大きなコストがかかることになるからだ。

 最近の大型病院の建て替えの例では、東京都立広尾病院(渋谷区、478床)がある。都病院経営本部は7月、同院の整備基本構想案をまとめて公表し、現在パブリックコメントを募集中である。同院は当初、設備面の老朽化に伴い、23年までに渋谷区の「こどもの城」跡地に移転して、首都災害医療センターとして開院する予定だった。

 しかし、医療関係者の反対にあったため、小池百合子都知事が16年12月に白紙化を表明した。有識者で構成する委員会の意見を踏まえた基本構想案により、移転が撤回され同敷地内で建て替える方針へ変更された。

 基本構想案においては、同院の設備面の老朽化に加えて、患者のニーズに即した療養環境が確保出来ていない点、災害時に多数の患者を受け入れるスペースが不十分な点が指摘されていた。

 そして、基幹災害拠点病院機能を維持し、工事中の診療への影響を最小限に抑えつつ、現在地で診療を継続しながら建て替える方針が示された。

 新病院の病床数は、現状の病床利用率が7割弱である点を踏まえて、一般病床370〜380床、精神病床30床を想定し、現状から400床程度にまでダウンサイズする。敷地内の看護学校を病棟に転用することが出来るよう一体的に整備して、災害時には2倍の約800床に増やせるようにする。

 当然ながら、新病棟は、首都直下型地震の発生に備えた免震構造を採用する。また、急性期リハビリテーション実施体制を強化して患者の早期回復に繋げる、退院後に地域に移行した患者の症状急変時にも対応するため救急の受け入れ体制を確保する、といった方針も盛り込まれた。

個別の制約条件を踏まえて対応

 診療機能を一切止めることなく、さらに低下も最小限に抑えながら建て替えることは、多くの病院が直面する課題だと思われる。複数の建物がある場合は、例えば、新しい耐震基準を満たさない建物から順次建て替え、改築していくなど、3年、5年と長期にわたる綿密な計画が必要になるだろう。

 そして、地域によっては、建て替えと同時に機能の縮小という選択肢も考えられる。

 まず、人口動態に基づく患者の動態を踏まえて、厳密な需要予測をしてみれば、将来的に病床が余剰になるという結論に行き着くことも少なくないはずだ。そのような場合、漸次、病床を減らしていくということが、最善の選択という場合もあり得る。

 規模がどうであれ、医療政策の大きなうねりの中で、地域で期待される役割を果たしつつ、職員の雇用を維持し、かつ医療サービスを高めていくことが、医療機関の使命であることには変わりはない。

 様々な制約がある中、建て替え期を迎えるのであれば、どのような病院建築が可能か、腰を据えて考えていかなくてはならない。

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