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未来の会

第87回 「大企業信仰」故に社会的に許容される「訳あり薬」

第87回 「大企業信仰」故に社会的に許容される「訳あり薬」
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 日本の消費者には、一種の「大企業信仰」が染みついている。手を変え品を変え、湯水のように多額の金額を広告費に注ぎ込めるから、そうした企業の商品にはあたかも「高品質」や「安心感」が保証されているかのような錯覚を与えているためだ。広告費の恩恵にあずかれるメディアも、「優良顧客」のイメージを落とすような報道は控えるのが常だ。そのため、ますます「大企業信仰」は揺るがなくなる。

 だが、世間的なイメージがどうであれ、企業としての評価や製品の質、社会的規範への配慮度といった要素は、当然ながら資本規模や広告費の支出額と正比例しているわけではない。あたかも正比例しているかのように見られるのは、それだけこの国の消費者の成熟度が満足出来るような水準に達していないからではないか。そうした「大企業信仰」の典型例として、武田薬品を挙げることにさほどの異論は出ないように思える。

毀誉褒貶激しい「アリナミン」

 例えば長年、日本の大衆薬の「顔」として君臨しているのが、武田の「アリナミン」だが、この商品ほど毀誉褒貶が激しい例は他に見出せないだろう。以前から広告に故三船敏郎やアーノルド・シュワルツェネッガーといった内外の大スターやアイドル、スポーツ選手をカネにあかせてこれでもかというほど注ぎ込んで起用、近年でも吉瀬美智子や滝川クリステル、唐沢寿明、深田恭子といったお茶の間受けする芸能人が関連商品のCMで目白押しだ。

 だが、既に1960年代から東大の講師だった故高橋晄正によってアリナミンの「無効」説、さらには「有害」説が厳密な基礎研究に基づき唱えられたのは、当時を知る世代なら記憶に留めているだろう。これに対し、武田側から有効な反証が加えられた形跡はないに等しい。

 それどころか、「アリナミン」は再評価の結果、発売当初80種類も羅列されていた適応症に、科学的な根拠が認められなかった。結果的には、ビタミン B1欠乏の疑われる神経痛、筋肉痛、関節痛だけには、1カ月に限って使用が認められることで落ち着いたのだった。

 もう40年以上前の話題とはいえ、本来企業にとっては一大ダメージになるはずの顚末がありながらも、「アリナミン」の大衆薬としての「ブランドイメージ」は今日も不動のように思える。無論、メディアがまともに報道しなかった事実に加え、繰り返しになるが広告という一種の大衆への「刷り込み」が、日夜続いているためだ。

 本誌でもお馴染みの浜六郎医師は、「アリナミン」を素っ気なくも「危険・無効・不要」の薬品の部類に入れているが、それでも数年前に、武田は「アリナミンが効くというデータを示す」と、そのデータをウェブサイトで公開している。だが、そこでは被検者を、それぞれ試験薬とプラシーボを与える二つのグループに分け、結果を推計学的に判定する「二重盲検法」が不在で、何と対照群さえない。つまり、公開したところで、データとしては無価値なものなのだ。

 もう居直って、効こうが効くまいが、原価はたかが知れているから莫大な広告費を使えば十分儲かる「ブランド商品」である以上、従来と同じやり方を続けていくということなのか。こうした誠実さを欠いた態度は、武田の宿痾なのかと疑いたくなるが、戦後の記憶を呼び覚ます負の事例はまだある。サリドマイド薬害事件や薬害エイズ事件と並んで、戦後の製薬関連訴訟事件として悪名高いスモン訴訟だ。

 武田は、整腸薬のキノホルム剤の使用によって下半身まひを伴う神経炎(スモン病)や失明などの重篤な障害を被った患者に対し、当初は責任を否定していた。自分達は「提携していたスイスのチバ・ガイキー社からキノホルム剤を預かり、卸に配給して代金を集金するだけの中間業者にすぎない」という言い分だった。

 だが、実際には武田はチバ・ガイキー社から製造権を移譲してもらい、自社でキノホルム剤を製造・販売していた。当然、安全性確認義務は生じており、訴訟に持ち込まれた9裁判所で、いずれも敗訴している。その結果、武田はチバ・ガイキー社ら他の2社と共に責任を認めるところまで追い込まれた。79年には、スモン病被害者との間で、「確認書」を交わしている。

 そこでは、「スモン患者とその家族に対し衷心より遺憾の意を表明するとともに深く陳謝する」と前置きし、「これを機会に、医薬品の製造販売などに直接携わるものとして、医薬品の大量販売・大量消費の風潮が薬害発生の基盤ともなり得ることを深く反省し、医薬品の有効性と安全性を確保するため、その製造販売開始時はもとより、開始後においても、副作用の発見および徹底した副作用情報の収集につとめ」云々と、神妙な調子で「国民全体に表明する」とある。

海外では危険視されている現状

 だが、こうした「反省」は本物だったのか疑わしい。「危険・無効・不要」の「アリナミン」とは比較にならないが、新しい記憶でいえば、糖尿病治療薬「アクトス」の例があるからだ。「アクトス」は「発がんの危険性を十分説明していなかった」として、米国で製造物責任訴訟を起こされ、2015年大多数の原告と和解を余儀なくされた。

 和解金は最終的に約27億ドルとなったが、武田側はアクトスとがんとの因果関係そのものについては否定。訴訟が長引けば「企業イメージ」が悪化するのを危惧し、和解を選択した模様だ。

 それでも11年6月段階で、フランス保健製品衛生安全庁が、「アクトス」の新規処方差し止めを通達している。当局の研究で、「アクトス」投与患者約16万人中、ハザード比1・22で膀胱がんの発症率が有意に高い結果が得られたからとされ、その直後にドイツ連邦医薬品医療機器庁も、同じように「アクトス」の新規処方差し止めを通達している。

 だが、武田は特許期限が切れた「アクトス」をジェネリック医薬品専門の子会社・武田テバ薬品からこの5月以降、資産移管して販売させている。しかも、「アクトス」とスルホニルウレア系薬剤の合剤である2型糖尿病治療薬「ソニアス配合錠」もだ。

 これは、果たして妥当なのか。あるいは、「大企業信仰」故に社会的に許容範囲と認識されているのか。無論、大手メディアからは疑問らしき声も一切聞こえてはこない。(敬称略)

COMMENTS & TRACKBACKS

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  1. 貴誌が長谷川閑史の経営に関して、きめ細かい調査と分析を重ねておられる事に敬意を表する者の一人です。長谷川が新薬メーカーである武田薬品の経営者として不適であることは、ジェネリックメーカーのNycomedに1兆1千億円超もの金額を投じて買収し、未だにその収支を実質的に何ら明らかにしていない事を指摘するだけで明らかです。このような無謀とも言える経営を長年にわたり許してきた背景には、いろいろ有りますが、一つには長谷川をCEOに指名した、前任者である武田国男とその補佐役であった長澤秀行の責任も大きいと言えるでしょう。

    武田国男は、本人と子供が共に海外に5年以上居住すれば無税で譲渡出来る特別税法(ご存知の通り、現在では改定されましたが…)を利用してシンガポール(子供はアメリカ)に転居して、多額の資産を殆ど無税で子供に譲渡しています。このやり方は貸金業の元オーナーも利用し、国税局と最高裁まで争われ、新聞紙上を賑わせたことはご存知の通りです。こんな人間が経団連の副会長になったり全ての国民から徴収された健康保険料によって支えられている新薬メーカーのトップであったことは呆れるばかりです。

    なお、10年以上前の話ですが、武田が保有している光工場の土地の処分にあたり国男やそのごく近くに居た者が、某大手不動産会社から裏金を受取った事について、当時の大阪の業界紙で指摘された事もありました。なお、そんな事を見ている長谷川が、Nycomed買収に際して、M&A業界では常識となっていると言うコミッション(1〜5%とも言われる…)をスイス銀行を舞台として受け取っているのではないかとの噂もあるようです…。

    そんなことも有ってでしょうか、武田国男や長澤は長谷川に対する発言力を失い、長谷川の無能な経営に対して当然、発言しブレーキをかけるべき役割を全く果たしていません。他にもいろいろ有りますが、長くなりますので、今回はこの辺で失礼します。今後とも貴誌のご活躍を、心から期待し応援させて頂くとともに、その記事を楽しみに拝読させて頂く所存です。
    以上。

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