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第18回未来の会

第25回 【アメリカ】トランプ政権下での医療の行方

第25回 【アメリカ】トランプ政権下での医療の行方
トランプ氏の大統領就任

 2016年11月の米国大統領選挙において、共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。トランプ氏は立候補してから過激な発言を続けた。いわく「移民の防止のために、メキシコ政府のお金でメキシコとの間に壁を立てる」「全てのイスラム教徒の米国入国を拒否する」「日本が攻撃されたら守る義務が米国にはあるのに、日本が米国を守らないのは不公平」等々。

 医療保険についても同様で、「オバマケア(医療保険制度改革)の廃止」を訴えた。しかし、トランプ氏自体は伝統的な共和党政権の小さな政府の路線とは異なり、低所得者層にも配慮するということを打ち出したため、今回の大勝に繋がった。

 トランプ氏はオバマケアの廃止を訴えていたので、今後の医療制度の展開に変化が起きる可能性がある。

トランプ大統領誕生の背景

 トランプ氏が大統領に当選した背景には、図1のように米国の長期的にわたる経済的な地位の低下がある。そして、このことに対する米国人の焦りがある。

 さらに、図2に示すように、白人の人口の減少、ひいては経済的な地位の低下がある。比較的高収入を得てきた米国の白人層に訪れた変化と危機感が、トランプ氏を勝利させた。

 もちろん、大統領当時のバラク・オバマ氏もこの変化に無関心であったわけではない。「ラストベルト」と言われ、鉄鋼業や自動車産業で昔繁栄したエリアの中では、新規の産業として金融や医療で蘇ってきているエリアもある。

 例えば、ピッツバーグ(ペンシルべニア州)、クリーブランド(オハイオ州)などが、それである。また、以前述べたテキサス州も医療で盛り返していると言えないこともない。

トランプ氏の医療に対する考え方

具体的な主張は下記の通りである。

 ①オバマケア撤廃:保険に加入したい人以外は、保険に加入する必要はない。

 ②州をまたいでの医療保険販売の規制緩和をする。

 これは、保険者同士の競争を促す方針であり、競争からいい質が生まれるという共和党的な考え方でもある。

 ③個人の医療保険の保険料を税金控除の対象にする。

 ④医療貯蓄口座(Health Savings Account;HSA)を導入する。

 ③と④は、社会保険の連帯という意味合いよりも、保険そのもののリスクに対する備えを強調する政策である。米国でも、徐々に広がりつつあるHSAをさらに進める方針である。こういった政策を取っている代表例としてシンガポールがある。

 ⑤全ての医師や診療所や病院などの医療機関は、価格を明瞭に示す。

 ⑤はシンガポールなどで行われていることで、消費者への透明性を高めるという共和党的な方向ではある。

 ⑥各州のメディケイド(低所得者向けの公的医療保険制度)予算の使い方の詳細は各州に任せる。

 メディケイドは州の管理なので裁量権が大きいのであるが、それでも連邦政府の方向性には従っていた。自由度を増すことで、保守的な州は差別的な支払いにしたり、メディケイドの支払いをオバマケアとは逆に厳しくしたりすることも考えられる。それによって無保険者が増える可能性が考えられる。

 ⑦海外の薬を輸入し、自由に販売することを許可する。

 規制緩和して競争をさせようという方向性の話であろう。

 ただ、具体的には未知であるので、これ以上詳しく議論することは避けたい。

 言えることは、医療保険の仕組みが変わっても、病院などの医療提供体制の改革の方向性は変わらないと思われる。

 つまり、オバマケアとして知られる政策のうち、2000万人のオバマケアでの新規医療保険加入者の行方は未定であるが、現時点でのトランプ政権の医療改革に対する私の予想は、提供体制についてはあまり変わらず、予防やIT、医療・介護分野の費用抑制と質向上の両立に挑戦しているACO (Accountable Care Organization)などの地域ケアの重視は変わらないと思う。

 しかし、保険については、上述した政策の他に、メディケア(高齢者向けの公的医療保険制度)の民営化をさらに推し進めたり、皆保険への動きを止めていくのではないかと思われる。

注:世界のGDPに占めるシェアは、購買力平価ベース、2010年までは実数値出所:エコノミスト編集部『2050年の世界』文藝春秋、2012年(原典:アンガス・マディソン、IMF、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット)



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