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第18回未来の会

医師の「人事評価制度」を考える

医師の「人事評価制度」を考える
うま用すば病方をを収

生労働省が医療機関の経営状況などを調べた「医療経済実態調査」(2010年度)によれば、勤務医の年収は国立病院が1468万円(前回調査より1.2%増)、民間病院は1550万円(1.0%減)だった。開業医が多い診療所(医療法人経営)の院長2755万円(0.5%増)に比べれば開きがあるが、公立病院では概ね待遇が改善していることが示された。

医師の人事評価制度導入は5割弱

 働き方改革が盛んに叫ばれているが、勤務医の負担軽減策として、例えば医療クラークを導入している病院も増加している。前回診療報酬改定では、救急、外科、産科、小児科、医療技術などに手厚い評価がなされたが、医療機関の医業収入にはプラスになっても、個々の勤務医の処遇改善には繋がらない。さらに、各医療機関で、医師に対して適切な人事評価がなされているかについては、なお不十分な部分も多いようだ。

 民間のシンクタンクである産労総合研究所では、14年に「病院における人事考課制度導入に関する実態調査」(有効回答163 病院)を実施している。人事考課制度の導入病院は76.1%(124病院)に対し、未導入病院は23.9%(39病院)。しかし、導入職種を見ると、事務職(78.2%)、コメディカル(75.8%)、看護師(75.0%)などでは比率が高かったが、医師は57病院(46.0%)と低い傾向にあった。人事考課制度を導入しない理由として、考課制度の構築の難しさや効果への疑問の声が挙げられた。一方、人事考課制度を導入した目的は、「人材の育成」「職員の意識改革」「公平・公正な処遇」「組織の活性化」「収益改善」の順で、「収益改善」は124 病院中11 病院で8.9%に留まった。

 一般に医師は年俸制も少なくなく、人事評価制度には否定的な傾向がある。また、従来は、導入に大きな困難が伴った。人事評価をするために評価基準を設定しようにも、医療現場における業績評価の設定根拠が不明確で、客観的なデータも乏しかったのだ。しかし、DPC/PDPS(診断群分類別包括支払い制度)の導入によってこの点が克服され、臨床データのベンチマーク分析を活用して、業績目標を設定出来るようになった。

 人事評価制度をうまく運用すれば、医師にもメリットがもたらされるとされ、病院、医師双方を利するような成果を収めている病院もある。

 まず、10年近く行っている、自治体病院である松阪市民病院(三重県松阪市、328床)の事例である。一時は、04年に必修化された医師臨床研修制度の影響で、医師数の激減に見舞われ、公設民営の厳しい経営環境に置かれながら、いち早く人事評価制度を導入したことなどが奏功して、早々に黒字化を達成した。

 同院は、地方公営企業法一部適用の病院で、08年にDPC/PDPSを導入すると、全職員の意識改革とチーム医療の実践により経営改善を図った。自治体病院への人事評価制度の導入がとりわけハードルが高いとされるのには、先のデータ不足以外にもいくつか理由があった。一つは、給与制度改正のための事務手続きの煩雑さで、行政・議会側に人事評価制度の必要性を理解してもらい、条例を改正してもらわなくてはならない。また、経営が厳しいことから、給与に反映させるための原資の確保が困難なこともある。同院は、DPC導入以降は経営改善の兆しが見られたため、行政・議会側に医師人事評価制度の必要性・重要性が理解され、年間医業収益の0.5%を原資として確保することが出来た。

 他の職種に先駆けて、まず医師の人事評価制度を導入した。医師不足から労働環境が悪化して医師の開業志向が高まり、病院に残った勤務医の多忙さに拍車が掛かるという悪循環から、病院に貢献する医師へのモチベーションアップの方策が求められていたためだ。

 06年に、院長、事務部長、事務部長補佐、看護部長、第三者(コンサルティング会社)から成るプロジェクトチームを結成し、医師に誤解のないよう、複数回のヒアリングおよび説明会を行った上で、08年12月に第1回目の医師人事評価制度を実施した。

 具体的には、行動評価、業績評価、特記事項評価の3項目で構成され、年2回のボーナス支給日に、院長が人事評価結果のコメントと共に勤勉手当を現金で支給する。

 制度が定着した成功要因には、マイナス評価を行っていないこと、病院経営状況が著しく改善されて、病院経営改善が評価に繋がるという職員の意識が醸成されたこと、評価制度の公平性などが挙げられる。

金銭より自己実現・社会的インセンを付ける

 また、民間病院では、大阪暁明館病院(大阪市、482床)の例がある。同院を運営する社会福祉法人では、医師の給与を基本給と業績給の2階建てにしており、業績給には変動がある。人事考課は300点満点で評価し、年2回の面接を実施する。評価項目は、病院全体の業績、医師の科目別の業績、医師個人の業績を合計してポイントを計算する。業績が悪ければ、マイナス評価になることもあり得る。目標には、科目ごとに設ける目標、医師個人に設ける目標があり、外来数、入院数、手術数、検査数オーダー数などを測定。 最初は全国平均と比較するが、その後自己で修正するポイントの積み上げで半期の年棒が変動する。こちらも導入にあたり、何度も説明をしている。また、病院の業績については、財務諸表をグループウェアで開示している。

 適正に仕事を評価し、インセンティブを付ければ、医師のモチベーションを高めることに繋げられる。金銭的インセンティブをもたらす人事評価制度は、一般企業では既に定着しているが、医師に対しては限界があるとされる。医師は給与水準が元々高く、一般人に比べて金銭的インセンティブでは動きにくい。むしろ、自己実現のインセンティブや社会的なインセンティブが、医師を動かしやすい。前者は、専門医の取得や学会発表などを、病院が後押しすること。後者には、その医師がいかに社会に求められているかを伝えることが含まれる。医師を含むスタッフに、病院のためにしっかりやっていれば確実に評価してもらえるという意識を醸成することが出来れば、働く上で大きな安心感に繋がる。そこでは信頼関係が基本になることは言うまでもない。

 17年4月に厚生労働省の「人事評価改善等助成金」が新設された。これは、中小企業が、生産性向上のための人事評価制度と賃金制度を整備することを通じて、生産性の向上、賃金アップ及び離職率の低下を図る事業主に対して助成するものだ。制度整備助成(50万円)と目標達成助成(80万円)の2段階の助成金(合計130万円)がある。中小病院も、こうした制度の活用でコストを抑えた人事評価制度の導入を検討する好機かもしれない。

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