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第18回未来の会

第86回 グローバル経営の「負の遺産」ザクザク

第86回 グローバル経営の「負の遺産」ザクザク
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 この7月、武田薬品が大阪国税局の税務調査を受け、2015年3月期までの5年間で約71億円の申告漏れを指摘された。

 武田が10〜14年度にドイツの連結子会社に高血圧治療薬を一般の取引価格より安い価格で輸出し、国内で計上すべき利益を海外に移転させたと、国税局側が移転価格税制に基づき判断したもの。

 過少申告加算税などを合わせた追徴税額は約28億円で、武田は更正処分を受け、すでに全額を納付したという。一方で武田は処分を不服として国税局に再調査を請求したが、06年にも米国の合弁会社に消化器系治療薬を輸出した取引で、やはり同国税局から約1223億円の申告漏れを指摘されている。その際の追徴課税は約571億円に上った。結局、同国税局が更正処分の一部を取り消す決定を下したものの、「懲りない会社」という印象はどうしても否めまい。

 武田は6月の定期株主総会を終え、一部株主からの異議申し立てを無視して、会長を退任した長谷川閑史が今度は相談役に就任する新体制となったが、その矢先の不祥事となった。

有利子負債は月商の8・5倍超

 何やら「新体制」の前途多難ぶりを暗示しているようだが、実際のところ、長谷川が推進した「グローバル経営」の様々な負の遺産が、これからのクリストフ・ウェバー社長率いる武田の進路に、暗い影を投げかけているのは疑いないだろう。

 長谷川が03年に社長に就任してからの武田の歴史は、一口で言えば新薬開発の失敗と、それが故の、未だ結果が出ているとは言いがたい海外企業の相次ぐ大型買収で彩られている。そしてその挙げ句が、周知のような財務内容の大幅悪化だった。

 何しろ、武田の現在の有利子負債は、実に月商の8・5倍を超えている。さらに、資産合計が4兆3557億円であるのに、売上げは1兆7320億円で、回転率がわずか0・4回転という製薬業界においては際だった低さ。最大ライバルのアストラ製薬は0・72を維持しているのと比較しても、「業界トップメーカー」としては褒められない数字だ(16、17年両3月期連結純損益計算書等を参照)。

 しかも、その資産合計4兆3557億円にしろ、今年3月末で買収資金がかさんで、1兆658億円に膨れ上がり、さらにのれんの残高を加えると実態のない資産総額は2兆885億円にまで達してしまった。つまり資産合計の約半分までもが、「無形」という異常な財務内容になっているのだ。

 その発端は、長谷川が手を染めた08年の米ミレニアム社の約9000億円買収にあった。ただ当時、武田は無借金経営を維持しており、この買収費は手元資金で賄うことが出来た。武田の財務が傾き始めるのは、11年、やはり長谷川の強硬なイニシアチブで社内の反対を押し切り、スイス・ナイコメッド社に約1兆1000億円も投じて買収してからだ。

 これだけの巨費をさすがに手元資金というわけにはいかず、うち6000億円を借り入れている。その結果、武田は大型買収のための資金力と資金調達力が大幅に低下。にもかかわらず今年2月には、実質的に債務超過になっている米アリアド社を約6200億円で買収した。そこでは、約4500億円を借り入れている。大型買収はこの3社だが、それ以外の買収も含めると、武田の借入額は1兆2555億円にまで達してしまった。繰り返すように、月商の8・5倍という額だ。

 一方、武田が7月28日に発表した決算によると、18年3月期第1四半期の連結税引き前利益は前年同期比32%増の1982億円に拡大した。中でも、潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」の販売が世界的に好調であったことが貢献している。

絶望的に少ないパイプライン

 このブロックバスター(年商1000億円を超える新薬)になった「エンティビオ」は、前出のミレニアム社が開発した。それを考えると、必ずしも海外企業の大型買収でプラスの面がないわけではない。

 だが、それでも将来の収益基盤となるような商品の乏しさが、武田のアキレス腱になっている現実は否定しきれないだろう。

 その端的な象徴が、パイプライン(新薬候補)の絶望的な少なさだ。武田の臨床第Ⅲ相段階に達しているパイプラインといえば、たった4品目しか残っていない(今年5月段階)。この貧弱さは他社と比較して一目瞭然で、大塚ホールディングスは16品目もある。第一三共は15品目、アストラ製薬は13品目だ。

 自社の新製品開発能力の限界を悟ってか、かつては盤石を誇った無借金経営に決別してまで博打じみた大型M&A(企業の合併・買収)を繰り返しても、今後どう見ても先細りを予測させるパイプラインの惨状なのだ。それを見せつけられては、どう考えても長谷川が敷いた「グローバル経営」の結果に高評価を与えるのは困難ではないのか。しかも、ウェバーは「変革」を何度も口にしながら、長谷川の負の遺産を一掃するような新機軸を持ち合わせているようには思えない。

 そして、そのような武田にとって目下の予測される危機は、「長谷川相談役」による、悪しき「日本的経営」の害悪の垂れ流しであるように思える。例えば、このほど東証第2部に降格した東芝は、西室泰三ら社長経験者が相談役や顧問に退きながらも、首脳人事などに介入してガバナンスに多大な障害を及ぼし、今や会社が解体しかねないピンチの一因を招いた。

 いくら武田が社として、「アドバイス」が「長谷川相談役」の主な仕事だなどと世間に宣伝したところで、創業一族の意向を完全無視して社内の独裁的権力を固めた長谷川の体質を知るなら、にわかに信じがたい。

 第一、社員自身がそんな宣伝を笑っているのではないか。長谷川はウェバーが何をしようが、自身の「功績」を否定するような真似だけは許すはずがない。

 だが遅かれ早かれ、武田が今後まっとうな道を歩もうとするのなら、「過去の見直し」を迫られるような時期が避けられないように思える。それが「相談役」によって何らかの障害を被るなら、武田は東芝のみならず「日本的経営」の悪しき実例を示すことになろう。 (敬称略)

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