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分科会第2回

第105回 都民ファースト圧勝と政界再編の行方

第105回 都民ファースト圧勝と政界再編の行方

 東京都議選は小池百合子・東京都知事率いる都民ファーストの会の圧勝と、自民党の歴史的大敗で終わった。安倍晋三首相は内閣改造・党役員人事で巻き返しを図るが、自ら掲げた2020年の改正憲法施行には黄信号が灯った。「1強時代の終わり」と党内の非安倍勢力や野党は目の色を変えるが、内情を探ると、世間で言われるほど、自民党は落ち込んでいない。小池知事は改憲派であり、民進党を滅ぼすことはあっても、自民党の天敵にはなり得ないというのが、その理由だ。

大ウケした「This is a 敗因」

 都議選翌日の7月3日。永田町で「This is 敗因」なる造語が大ウケした。作者は中谷元・前防衛相である。Tは「このハゲ〜」「死ねば〜」の罵詈雑言が茶の間のひんしゅくを買った豊田真由子・衆院議員、Hは学園問題で「総理の意向」を振りかざしたとされる萩生田光一・官房副長官、Iは応援演説で「自衛隊としてご支援を」ととんまな失言をした稲田朋美・防衛相、そしてSは加計学園関係者からの「闇献金疑惑」が報じられた下村博文・元文部科学相だ。4人のアルファベットの頭文字をとって「戦犯」を並べたという訳だ。

 中谷前防衛相は、自民党内で安倍首相と距離を置く議員らが結成した「脱アベノミクス勉強会」のメンバーだ。会長は消費増税の延期をめぐり安倍首相と対立した野田毅・前党税制調査会長。会合には、来年秋の総裁選をにらむ石破茂・元幹事長、野田聖子・元総務会長らも顔を出す。正式名称は「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」だが、非安倍色が強いことから「脱アベノミクス勉強会」と呼ばれている。中谷前防衛相の発言に「毒気」が感じられるのも、そのせいだろう。

 「This is 敗因」には別バージョンがある。「This is a 敗因」というらしい。もちろん、「A」は安倍首相のことだ。確かに、森友・加計問題、稲田防衛相の抜擢人事、豊田議員(安倍首相の出身派閥に所属していた)、「共謀罪」はじめ国会の強引な運営、敗因と分析された問題の全ては「A」と繋がる。

 象徴的なのは、投票前日の7月1日、秋葉原での応援演説だった。選挙のたびに大歓声に迎えられ、験の良い会場として出向いたのだが、今回は状況が違っていた。聴衆の一部から多くの有権者に拡がった「安倍辞めろ!」と「帰れコール」を浴びると、「こんな人達に絶対負けられない」と感情むき出しで反発し、メディアに叩かれた。

 開票日の2日夜、麻生太郎・副総理兼財務相、菅義偉・官房長官、甘利明・前経済再生担当相らと最高級フレンチレストランで会食したことも、党内の非安倍勢力の批判を浴びた。

 中堅議員が語る。「『誰のせいで負けたと思っているんだ』と、都議会自民党やその支持者はお冠だ。野党時代の苦しい時に支えてくれた支持者を敵に回すような愚行だ。やけ酒なら、時と場所を選べということだ」。憲法改正、戦後レジームからの脱却と右派理念を掲げて支持を獲得してきた安倍首相やその取り巻きに対し、非安倍勢力は県連、市連といった地方組織を重視する傾向がある。敗戦の夜の豪華な宴は格好の攻撃材料となって当然だった。

 都議選の結果は、主要政党からあぶれて行き場を失った無所属議員らの動きも活発化させている。都民ファーストの会の応援弁士に名乗りを挙げ、日本維新の会から除名された渡辺喜美・衆院議員、憲法改正への消極姿勢を理由に民進党から抜けた長島昭久、藤末健三・両衆院議員らである。いずれも、「都民ファースト」ならぬ「国民ファースト」を合言葉に新たな政党を目指す意向とみられている。小池知事は、立場上、国政進出に否定的だが、次期衆院選に備え、年内にも国会内に「国民ファーストの会」が結成されるのではないかとの憶測が広がっている。

 都議選での勢いや、大阪維新の会の先例を考慮すれば、関東地域を中心にそこそこ議席を取りそうである。これに、自民党の非安倍勢力、野党の一部が合流すれば「政権交代」も視野に入るということらしい。「小池熱」が高い状況で、安倍首相が衆院を解散することは考えにくいから、甘い見通しなのだが、「1強体制」の政界に流動化の兆しが出てきたことは確かだろう。

 予想外の大敗と散々報じられたが、百戦錬磨の自民党選対は大敗を予測し、それなりの手も打っている。それは、内閣改造を睨んだ地方選挙へのてこ入れだった。都議選告示2日後の6月25日に投開票された神奈川県・横須賀市長選である。横須賀市は、小泉進次郎・衆院議員の地元。安倍首相の入閣要請になかなか首を縦に振らないプリンスの一本釣りを仕掛けたのである。

 横須賀は父純一郎・元首相をはじめとする小泉家の牙城だ。しかし、「基地の町」の民意は多様で、小泉家の威光は通じない。前々回の市長選は純一郎氏、前回は進次郎氏が応援した候補が、いずれも惨敗。今回も3選を目指す現職との激戦になっていた。そこで、党本部から専門スタッフ3人を送り込み、県選出の国会議員の秘書計18人を動員した。国政選挙並みの布陣で、小泉家は悲願の市長ポストをもぎ取った。

小池新党が滅ぼすのは民進党?

 横須賀作戦を命じたのは菅官房長官だ。安倍政権の支持率低下や都議選の敗北を見越し、義理堅い進次郎氏の性格も読み込んだ上での戦略だった。市長選後、進次郎氏は「いろいろな形があるが……」と前置きしながら、自民党への恩返しを口にしている。「いろいろ」には入閣も含まれ、ポストによっては応じる意向だという。菅官房長官の目論見通りである。自民党幹部が語る。

 「小泉家と小池さんが親密なのは周知の事実。週刊誌には、進次郎さんと小池さんが組んで政権交代を果たすなんて、面白おかしく書かれている。進次郎さんが閣僚で、東京都知事が小池さん。フレッシュでいいでしょ」

 進次郎氏の入閣には、安倍内閣をリフレッシュするだけでなく、小池知事の反自民色を薄めるという、したたかな計算があるようだ。

 都民ファーストの会の国政進出には、様々な見立てがある。興味深いのは、共産党が一貫して小池攻撃を続けていることだ。理由は、小池知事が過去の衆院憲法調査会で、石原慎太郎・元都知事が提唱した「現行の憲法を停止・廃止し、その上で新しい憲法を制定する」との考えに賛意を示しているからだ。小池知事に代わり都民ファーストの会の代表になった野田・前幹事長(都知事特別秘書)も「現行憲法は無効」との考えで、共産党は警戒を強めている。

 「安倍首相の改憲日程は窮屈になった。でも、小池さんは改憲派。表向き自民党と敵対しても、目指す方向は我々とそう変わらない。衆院で数十議席取ったとしても、維新と同じだよ。民進党を滅ぼすことはあっても、自民党に仇なす勢力にはならない」。自民党長老はそう見ている。

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