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分科会第2回

第112回 混迷が懸念される「費用対効果の判断基準」論議

第112回 混迷が懸念される「費用対効果の判断基準」論議

 高い薬に、保険からならいくらまで支払っていいか——。厚生労働省は今夏、一般の国民を対象に「1年の延命に公的医療保険から支出してもいい薬の値段」を問うアンケートに乗り出す。薬の値段がどこまで効果に見合っているか(費用対効果)を探る材料の一つとし、2018年度から国民が「高過ぎる」と感じる薬の公定価格を引き下げる狙いがある。ただ、医療への費用対効果の本格導入には、同省内にも「命に値段を付ける議論に繋がる」との慎重論がくすぶる。

 「『支払い意思額』を調査したいと考えています」。6月14日の中央社会保険医療協議会(中医協)費用対効果評価専門部会。厚労省保険局医療課の眞鍋馨・企画官は「支払い意思額」という耳慣れない言葉を口にした。薬などの費用対効果を数値化するための指標といい、完全な健康状態で1年間の延命が可能な医薬品や医療機器に、国民が公的保険から支払ってもいいと考える金額を指す。同省は近く、数千人の一般人を対象に聞き取り調査を始め、秋には結果を公表する。

 新薬で1年伸びた寿命と、その間の生活の質を考慮したデータ「QALY(質調整生存年)」を得るのに必要な金額をX円とし、「X円なら払ってもいい」と答えた人が何割かで、費用対効果を判定するイメージだ。「支払いOK」の割合が高いほど、費用対効果も良いとなる。割合に応じて「とても良い」「良い」「受け入れ可能」「悪い」「とても悪い」の5段階で評価し、「とても悪い」「悪い」とされた薬は薬価引き下げの検討対象とする。

 15年度の医療費は41・5兆円に上る。00年度より約12兆円膨らんだが、うち調剤薬局分が42%(5・1兆円)を占めるなど、薬剤費の伸びが医療費の押し上げ要因の一つとされる。近年は、抗がん剤「オプジーボ」などの高額薬の増加が影響しており、政府は薬剤費の抑制に躍起だ。英国では2万〜3万ポンド(約280万〜420万円)を「公的保険が投じる推奨ライン」などと設定している。政府は英国などの制度を参考に、費用対効果評価を18年度から本格導入する方針だ。

 ただし、課題も山積している。支払い意思額を聞く対象者について、厚労省は住民基本台帳から無作為に選ぶ意向だが、中医協では「費用対効果の導入がどれほど認知されているのか」「知識のある人を対象にすべきだ」といった意見が相次いだ。副作用も含め、医師ら専門家の知見をどう反映させるのかという宿題を解くのは容易ではない。

 病状によっては、他の薬を使えない患者もいる。日本薬剤師会は「小児疾患の薬は費用対効果の評価対象から外すべきだ」(安部好弘・常務理事、中医協委員)と強く主張している。さらに、製薬業界は費用対効果の導入が極端な薬価削減に結び付くことを強く警戒している。「新薬開発にブレーキを掛けかねない」(大手製薬幹部)というわけだ。

 費用対効果の判断基準について、いずれ議論が混迷することも想定される。同じ1年の延命でも、子供の命と末期に近い高齢者の命を「同じ価値」と判断するか否か、といったことだ。厚労省幹部は「ウェットな日本で『子供の命の方が価値は高い』という議論を繰り広げるのは困難だろう。しかし、本当に同じ価値と考えていいのか、ということも問われなければならない」と漏らす。

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