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分科会第2回

第85回 株主総会で露になった「反長谷川」の狼煙

第85回 株主総会で露になった「反長谷川」の狼煙
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 武田薬品の定期株主総会が、3年ぶりに注目を浴びた。2014年のそれは、武田の創業以来初の外国人社長選出のため。そしてこの6月28日に大阪市内で開催された際は、前会長の長谷川閑史の相談役就任が話題となった。

 長谷川は4月13日、会長の退任を発表した際、相談役就任の意向を表明。これに対し、14年の株主総会前に異例の「質問状」を経営陣に突き付けていた創業一族を含む株主15人が今回、相談役の原則廃止を求める以下のような株主議案を提出し、注目を浴びた。無論、誰がどう考えても長谷川の影響力を残すためだけの相談役就任である以上、その阻止が狙いだ。

 「現行定款(2016年6月29日改正)の第16条の2(相談役・顧問等の設置及び選任)として下記の文言を新たに追加する。

 『1.当会社は、原則として相談役又は顧問等当会社の業務一般又は特定の業務について代表取締役の諮問に応ずることを職務内容とする役職を置かない』」——。

 そしてその理由は、「元最高責任者の相談役や顧問は、会社経営面で強い影響を持つ。株主は、相談役や顧問に対して議決権行使での責任を問えず、健全な企業統治の阻害要因になりかねない」というもの。

 これに対する、武田社長のクリストフ・ウェバー名による反論がふるっている。①長谷川は会長退任後、「会議に相当する各種会議体には出席しておらず、当社の事業判断にはもはや関与していません」②「あくまでも現役の経営陣からの求めに応じてという前提で、これまでの同氏の経験や見識を基にしたアドバイスを提供すること」が役割で、「実際にアドバイスを求めるケースがあるとしましても、ごく稀である」③「酬額は、現在の約12%程度」で、「また、社用車や専任秘書は置かない」——。

長谷川相談役の報酬は「5400万円」

 長谷川の役員報酬は15年3月期の2億7700万円から、16年同月期には4億5000万円と、実に2億円近くも割り増しされている。15年に武田は、1457億円もの巨額の最終赤字を出しているにもかかわらずだ。うがった見方をすれば、早くも相談役に収まった際の報酬を事前に計算していたのか。その結果、「12%」といっても相談役として約5400万円もの破格の報酬が保障される。

 いったい、会社の会議には出席せず、「ごく稀」に「アドバイスを求める」だけという相談役に、わざわざ約5400万円も支払うような会社が日本で何社あるだろう。あって無きがごとしのポジションだと武田が懸命に弁明するくらいなら、最初から相談役など置く必要がないと思うのが常識ではないのか。

 しかも、訳の分からない弁明がまだ続く。④「当社を代表して就任している経済同友会等の外部団体の役職のうち、より公共性・重要性が高いと判断されるものについて、その任期満了まで、引き続き当社を代表してその任務にあたること」だと。

 要するに社外の「役職」に就いている限り、「相談役という肩書き」が必要だと言わんばかりだ。「当社を代表」するのがそれほど大事なら、「元武田薬品会長」で何の不自由もあるまい。確かに長谷川は経済同友会の前代表幹事だが、現在は同会の理事名簿に登場しておらず、各委員会の委員長にもなっていない。いちいち今の武田の肩書きが必要となるようなケースは無いはずだ。

 第一、事あるごとに「グローバル経営」を唱え、「私は社内では半分米国人だと思われています」などとうそぶいた挙げ句、武田を社内取締役4人のうち3人までが外国人という国籍不明の会社に変えたのは長谷川だ。

 その長谷川が、相談役などという企業腐食の要因、かつ日本的悪慣行の象徴に固執するのは明らかに矛盾ではないのか。それほどこの種の「日本的経営」にこだわるのなら、3年前に創業一族を敵に回しても強行した外国人社長就任など断念すべきであったろう。

 要は何をどのように弁明しようが、社内権力にしがみついていたいだけの個人的欲望の産物が、長谷川の相談役就任なのだ。ウェバーについても、長谷川は、当人を社長に引き上げた「相談役」の「強い影響力」に反発はしまい、との計算があっても不思議ではない。

「第二の東芝」リスクはらんだ14年間

 そもそも、長谷川が卓越した能力を持ち、会社に絶大なる寄与を残した経営者だったなら、相談役就任に反対して株主議案が出るような事態は考えにくい。問題は、長谷川が社長と会長を務めた14年間の評価のはずだ。実際、今回は長谷川の経営責任を追及して、以下のような理由による解任の提案も出されている。

 「①直近のROE(自己資本利益率)平均は3・0%、ISS(議決権行使助言会社)による基準値の5%ならびに政府推奨値の8%を下回っているにもかかわらず、抜本的な改善がなされていない。

 ②約1兆1800億円でナイコメッドを買収した成果が検証されていない。

 ③買収後5年間の製品に係る減損損失・約1700億円についても株主への充分な説明がなされていない。

 ④ブロプレス誇大広告問題での責任が明確に取られておらず、会社イメージの毀損は深刻である。

 ⑤社内での経営幹部の教育と登用が充分になされておらず、高額な外部リクルートに頼らざるを得なくなっている」——。

 結局、この解任提案は否決されたが、こうしてみると長谷川が敷いた「グローバル経営」の傷跡は浅からぬものがある。例えば、過去に自社製品の開発に失敗した分を補うように、次から次と海外でM&A(企業の合併・買収)に手を染めた結果、無形資産が今年3月末で1兆658億円、これにのれんの残高である1兆227億円を加えると、実態の無い資産総額は何と2兆885億円に膨れ上がってしまった。

 これでは、何かのM&Aが失敗してのれんと無形資産の一括償却に追い込まれるような事態になったら、武田は一挙に「第二の東芝」と化す。今年の株主総会で「反長谷川」の株主が口にした「武田薬品が立ち直る最後の機会だ」との訴えが、後世の歴史に深く刻まれて記憶される可能性は、決して排除しきれないだろう。     (敬称略)

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