SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

分科会第2回

山本化学工業

山本化学工業
無届け中国製原薬を混入続け
手の原薬ーカー

 とんでもない会社というしかない。和歌山県の原薬メーカー、山本化学工業(以下、山本化学)だ。解熱鎮痛薬の原料である「アセトアミノフェン」に無届けの中国製原薬を混入、水増ししていたのである。しかも、アセトアミノフェンだけではなく、てんかん治療薬の原薬「ゾニサミド」でも中国製原薬を混入。さらにアセトアミノフェンを合成する原料に無届けで中国から輸入した化学物質を使用していたことも明るみに出た。和歌山県は医薬品医療機器法違反で同社に6月29日から22日間の業務停止処分を下した。命や健康に関わる医療系メーカーで、これほど悪質な行為は無い。

県製薬協会長を務めていた山本社長

 山本化学のアセトアミノフェン無届け混入事件が報道されたのは5月22日。通報から国の調査が入っていることが分かり、不正が表面化したものだが、地元の和歌山県のある製薬企業の幹部によれば、「山本化学の山本隆造社長は和歌山県製薬協会の会長を務めていましたが、5月下旬、辞表を突然提出した。なぜだろうと思って同社の社員に聞いたら『厚労省の調査が入っている』と言う。ははあ、問題が起こったなと思いました」と話す。

 アセトアミノフェンは風邪薬に広く使われている上、国内では山本化学が8割のシェアを占めているため、同社から原薬の供給を受けていた製薬企業各社は対応に追われた。

 例えば、あゆみ製薬は11製品中、「カロナール細粒」の2製品と「カロナール坐剤小児用」の1製品で山本化学から供給を受けている。塩野義製薬では「PL配合顆粒」と「SG配合顆粒」の2製品とOTC医薬品(一般用医薬品)の「セデス」と「パイロン」の3製品、三和化学研究所は「コカールドライシロップ」の2製品、長生堂製薬は「アセトアミノフェンJG」の6製品、ニプロ、丸石製薬もそれぞれ1製品という具合だ。

 報道されるや、各社は対応に迫られた。例えば、あゆみ製薬では急遽、ホームページに「受入時の品質検査で問題のないことを確認しているとともに、関係当局からの在庫原薬の使用は差支えないとの指導」を受けている。主力商品の『カロナール錠』などの製品は「山本化学の原薬は使用していない」と掲載。長生堂製薬も製造会社の日本ジェネリックと共同で、「受け入れ時の品質検査で問題は発生していなかった。当局の試験でも品質に問題はなかった」旨、強調している。

 ジェネリック医薬品(後発医薬品)に使う原料のため、使用する製薬企業が多かったのだが、逆にこれほど多くの製薬企業に影響を及ぼしたことになり、それだけ山本化学の責任は重い。

 余談だが、同名の「山本化学工業」という会社が大阪にある。こちらは高速で泳げる水着を独自開発したことで有名な優良ゴム化学の会社だ。しかし、無届け製造事件が報じられると、問い合わせの電話が鳴り響き、ネットには和歌山県の山本化学の社長の顔写真付きで「この会社」などと書き込まれ、迷惑を被っている。マスコミも無届け混入事件の山本化学を「和歌山県の」と付けて区別している。

 それはともかく、医薬品や原薬製造では安全確保のため使用する原料と製造工程を届け出ることが義務付けられている。製造工程の変更も、たとえ効率を上げるための一部の変更であっても、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に届け出て承認を受けなければならない。製品が患者の生命に関わるだけに当然のことだ。

 しかし、過去にも無届けで製造工程を変更していた事件は起きている。田辺三菱製薬の子会社だった血液製剤メーカーのベネシス(現・日本血液製剤機構)が起こしたし、近くは化学及び血清療法研究所(化血研)が無届けで製造工程を変更していたことが明るみに出ている。

 ベネシスは〝日の丸血液製剤〟を守るため、日本赤十字社の血液製剤部門と合併させた。化血研はワクチンなどの製造を確保するために主要取引先のアステラス製薬への事業譲渡が計画されたが、不調に終わり、単独で存続させるのか、それとも、どこかと合併させるのか決着していない。

 無届製造は製薬企業の存亡に関わるような事件なのである。

 こうした無届け事件の中でも、山本化学の行為は悪質である。変更届を出さず、数年にわたり中国製アセトアミノフェンを混入して製薬企業に納入していたばかりか、ゾニサミドでも同様の無届け混入を行っていた。それも立ち入り検査時は中国製を倉庫に戻して施錠。発覚しないように工作していた。

事件を発覚しにくくしていた仕組み

 そもそもアセトアミノフェンは同社が8割のシェアを持ち、わざわざよそから購入して混入する必要がないにもかかわらず、中国製アセトアミノフェンを混入、水増ししたのは、どういうつもりなのか。

 山本化学の設立は第2次世界大戦直後の1946年。売り上げ13億円の医薬品原料メーカーだ。

 ある民間調査会社によれば、「決算書類を見せない会社と聞いています。今の山本隆造社長は2代目ですが、地元の人によると、山本家は資産家だそうです。昔は山本石油というガソリンスタンドを経営し、原油タンクも持っていたといいます。その後、山本化学を設立し医薬品事業に進出したと聞いています。石油は業者間で転売する『業転』が多い業界。医薬品原料の製造でも他社製品を混ぜ合わせたりすることに抵抗感がないのでしょう」と話す。

 現社長の山本隆造氏は大学を卒業後、化学品の商社に勤務。80年に父親の経営する山本化学に入社したといわれ、医薬品原料の輸出入に通じていたらしい。

 山本化学は74年にサンケミファーを大阪市に設立し、営業部門を分離。この会社も仙台市にある消毒薬メーカーのサンケミファと似ているから厄介なのだが、サンケミファーを通して原料購入と原薬販売を行っている。この仕組みが中国製アセトアミノフェン混入を発覚しにくくさせていたようだ。

 ある関係者がこう説明する。

 「実は、数年前にインフルエンザの流行が懸念され、風邪薬の原料であるアセトアミノフェンが足りなくなりそうになりました。その時、山本化学はこっそり中国製アセトアミノフェンを輸入して自社製品に混入、水増ししました。1割か2割程度なら購入した製薬会社が品質検査しても分からないだろうと考えたんです。その時に気が付いたのが、中国製の方が安く、儲かるということだったのです。以来、中国製を混入、水増しするようになりました。てんかん薬に使うゾニサミドも同じ発想で混入水増しをしたんです。なにしろ、原薬というのは医薬品と違って利益が少ないですから」

 医薬品製造業者には県の立ち入り監視指導が入るが、通常、通告した上で行われてきた。山本化学は通告を受けると、工場から中国製アセトアミノフェンをタンクに戻し、倉庫に入れて隠し、発覚を免れていた。

背景に原薬製造大国化する中国の存在

 もっとも、中国製だから危ない、というわけではない。厚労省は無届けが判明するや、山本化学のアセトアミノフェンを調べている。その結果、既に製薬企業に納入した「原薬は問題無し」としている。

 実は、今、中国は世界最大の原薬製造国になろうとしている。日本や欧米の製薬企業では、新薬は自社工場で原薬から製品まで製造するが、特許が切れた医薬品の原薬は自社生産しなくなっている。理由は環境問題が厳しいことだ。製造過程で発生する悪臭や廃液が問題になり、反対運動が起きる。そのため、先進国では特許切れの医薬品は発展途上国で作らせている。

 日本も同様で、特にジェネリック医薬品メーカーは韓国や中国、インドから原薬を仕入れ、国内で製品化している。むろん、外国の原薬メーカーにはPMDAが立ち入り検査を行い、届け出ている通りに作られているか、工場設備に欠陥が無いか、衛生状態は大丈夫か等々、GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造基準)検査を行っている。

 GMPは米国食品医薬品局(FDA)が1938年に連邦食品・医薬品・化粧品法に基づいて定めた医薬品などの製造品質管理基準。各国がこれに準ずる基準を設けており、日本にも医薬品医療機器等法に基づいて厚生労働相が定めた医薬品などの品質管理基準がある。

 GMPに基づいて、FDAがプエルトリコやアイルランド、インドなどの海外企業にも立ち入り検査を行っている。第一三共が買収したインド・ランバクシー社の主力工場にも立ち入り検査し、「衛生状態が悪い」と通告、ランバクシーの医薬品を輸入禁止した。  

 日本でもPMDAが韓国の原薬メーカーに立ち入り検査した結果、不適合としたため、一時期、ジェネリック医薬品メーカーは原薬不足に陥り、医薬品が欠品する騒ぎになった。

 その後、韓国では国を挙げて原薬製造から、バイオシミラー(バイオ後続品)に切り替えている。代わって登場しているのが中国。かつては怪しい、危ない原薬を作っていたが、最近は欧米から最新式の設備を購入して原薬製造に突き進んでいる。「新薬はまだ無理だが、世界の原薬市場を支配しよう」という国家的プロジェクトなのである。従って、山本化学が混入したアセトアミノフェンはまず問題はないだろう。

 山本化学の最大の問題は無届けで中国産を混入したり、無届けの化学品を購入して原薬を作ったりしたことだ。PMDAの立ち入り検査が出来ない国の工場で作られた原薬から医薬品が製造、販売されては、国民の健康に支障が起きかねない。

 原薬といえども、PMDAの監査に合格した工場で製造されなければならない。特に中国では床に落ちた鶏肉を拾い上げ、チキンナゲットにしたことが発覚したが、医薬品ではそういうことは許されない。

 発覚後、姿を隠した山本隆造社長は「全て私の一存でやった」「利益を上げるため」と言葉少なに語った。しかし、医薬品は健康を損ねた人が、風邪薬は風邪を引いた人が利用するものだ。アセトアミノフェンが不足しそうになったから、無届けで監視の目が届かない工場の原薬を混入、水増しし、それが儲かるからと使い続けられてはたまったものではない。

 山本社長は「一から出直したい」とも語ったが、トップを入れ替えてから発言すべきだろう。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top