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第23回【アメリカ】MDアンダーソンがんセンターの特徴

第23回【アメリカ】MDアンダーソンがんセンターの特徴

 前回に引き続き、世界一のがんセンターといわれるテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(MDA)と、MDAが属するテキサスメディカルセンター(TMC)を紹介しよう。

テキサスメディカルセンター

 49の非営利医療・教育・研究機関が集積するTMCは、世界最大の医療クラスターである。センターという名前であるが、日本のようにビルがあってそこをセンターと呼んでいるわけではない。もちろん事務所はあるが、この敷地内にある全ての施設群を総称した名称だ。

 ここの巨大さは特筆ものである。総面積は1300エーカー(東京ドーム約113個分)で、この中に総合計9200床の病床があり、総従業員1万6000人が働いている。

 計算上は3分ごとに新規の手術をしていることになり、年間で18万件の手術、2万5000人のお産、海外からを含む年間延べ800万人の患者(救命救急が75万人)が訪れる。

 1925年にメモリアル・ハーマン病院がオープンして以来、91年の歴史をもつ。280のビルが建ち並ぶが、これはTMC全体の話であり、その中に、MDAなどの有名病院、世界最大規模の小児病院であるテキサス小児病院などがある。

 TMCとメンバーの機関との関連は直接的ではない。つまり、TMCが資本を出して親会社になったりしているわけではない。

 TMCの収入は、この医療クラスターにおける膨大な台数の駐車場料金による。TMCに加入出来る機関は非営利団体のみで、非常に安い賃料(象徴的には1施設1ドルと言っていた)で土地を借り、その上に建物を建て、診療、教育、研究を行う。

 そこを訪れる人々が利用する駐車場の料金が、TMCの収入になるという。おおむね年間90億円くらいということである。まさに、医療機関などとのWin−Winモデルであった。

 もう一つのポイントは、TMC自体も過剰な利益を目標にしていないということである。つまり、土地の賃料などの補完収益機会に目もくれずに、駐車場料金の収入だけで満足しているのである。

MDアンダーソンがんセンター(写真①②)

 MDAは米国の時事解説誌『USニューズ&ワールド・レポート』の「全米ベストホスピタル」に14年間で11年選ばれており、がんの分野で1位の病院である。なお、MDAはTMCの土地を寄付し、創設者ともいえる「Monroe Dunaway Anderson」の名前を取って名付けられた。

 当初は1941年にヒューストン市北郊のテキサス医療センター内に民間として作られたが、途中でテキサス州立大学の付属施設となった。国内で初めて設立された総合がんセンターの3カ所のうちの一つである。現在では米国内に45の総合がんセンターがある。

 その後、MDAは急成長を遂げ、現在では、がんの治療、研究、教育、予防を専門とする世界最大規模のがん治療施設としての地歩を確立した。

 2015年度の統計数値としては下記になる。

〇患者数: 100万人以上(1944年以来の累計数)

〇年間患者数:13万5000人

〇治験登録者数:9400人

〇職員数:2万1000人

〇教授数:1714人

〇ボランティア数:3100人

〇入院患者数:2万8167人

〇平均病床数:665床

〇外来診療・治療・手術件数:約144万件

〇診断画像件数:約53万

〇手術時間:6万9506時間(件数ではなく、時間で評価することになっているという)

 医師の扱いは、勤務医で他の病院で手術などを行ってはいけない。これは州立という位置付けだからだそうである。ただ、メリットとしてはテキサス州立大学の一部でもあるので、教授という肩書が付き、臨床だけではなく、研究や教育にもバランス良く時間の配分を行えるということである。

 MDA には2006年にオープンした「プロトンセラピーセンター」がある(写真③)。9万6000平方フィートの広さの同センターは前立腺、肺、頭頸部、肝臓、食道、脳などのがんの先進的放射線治療を提供している。
 同センターは陽子線治療装置を3台所有している。これは米国で初めてのもので(厳密にはカリフォルニア州に研究中心のものが先に導入されていた)、日本の日立製である。ここでは現在1日70〜100人の患者の治療を行っており、メディケア(高齢者向けの公的医療保険制度)の保険適応になっている。

 なお、米国では陽子線治療は徐々に広がってきており、日立の製品はメイヨー・クリニックやセント・ジュード小児研究病院などの大手病院に普及しているが、バリアンメディカルシステムズなどの米国製もその他の病院を中心に普及してきているという。

 このようにMDAはまさに世界一の総合がんセンターであるが、ICTの利用に関してはあまり進んでいない。電子カルテは利用しているが、病院間の連携はない。これはMDAの問題というより、TMC自体の問題かもしれない。

 すなわち、TMCとしては各病院を競争させ、質の良い医療を提供させることを目標としており、電子カルテでTMC全体を繋ぐといった構想は無いのだ。

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