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子育て安心プランは「ヒト・モノ・カネ」の見通し立たず

子育て安心プランは「ヒト・モノ・カネ」の見通し立たず
目標を3年先送りし

倍晋三首相は、2020年度末までに保育所に入れない待機児童の解消を目指す「子育て安心プラン」を新たに打ち出した。保育の受け皿を3年で22万人分、5年で32万人分増やすといい、内容は勇ましい。とはいえ、17年度末の「待機児童ゼロ」を掲げた今の計画が腰砕けとなり、目標を3年先送りしただけ、とも言える。裏付けとなる財源にも見通しは立っていない。

 安倍首相が「安心プラン」を公表したのは5月31日。東京都内のホテルであった経団連創立70周年記念パーティーだった。挨拶で「女性の活躍無くして日本経済は成り立たない」と切り出した首相は、18年度から新プランに取り組むと表明した上で、「今度こそ待機児童問題に終止符を打つ」と力を込めた。

 子育て安心プランは、「待機児童ゼロ」の目標年限を現行の17年度末から3年遅らせ、それまでの間に22

万人分の保育の受け皿を作り出すことが柱。さらに、その後2年で10万人分を追加し、計32万人分を新たに整備する。従来の保育所だけでなく、定員19人以下の小規模保育施設や、保育士が自宅などで子供をみる「保育ママ」を増やすことなどで、定員枠の拡大を達成するとしている。

 政府の現行計画は13年4月に発表した「待機児童解消加速化プラン」だ。安倍首相は40万人分の受け皿を作り、17年度末までに待機児童ゼロを実現させると華々しく打ち上げた。ところが、すぐに40万人分では足りないことが判明する。修正を重ね、最終的には「53万人分」を用意することで待機児童を解消すると謳っていた。

政府の想定を上回る保育需要の増加

 それが、非正規雇用の増加などで共働きせざるを得ない人が増えていることもあって、保育の需要は政府の想定を上回り続けた。今年4月時点の待機児童は依然、暫定値で2万3700人に上る。

 結局、待機児童ゼロの目標年限を3年先の20年度とし、22年度末には計32万人分まで受け皿を積み増す策に転じた。25〜44歳の女性の就業率(現在73%)が、22年度には80%に達すると見込んではじき出した定員枠で、現行計画と合わせると受け皿は計85万人分増える計算となる。ただし、毎年数千億円を要する財源に目途は立っておらず、実現が保証されているわけではない。

 「若い小泉さんをはじめ、責任ある財源を検討しながら議論をしてもらうことは非常にいいことだ。年内に結論を得たい」

 5月29日、安倍首相は「こども保険」構想の報告に官邸を訪れた自民党の茂木敏充・政務調査会長や小泉進次郎・農林部会長らにそう伝え、幼児教育無償化など子育て支援策の財源確保に前向きな姿勢を示した。

 そしてその4日後。6月2日夕の経済財政諮問会議で、首相はアベノミクスの加速策に関し、「人材への投資を通じた経済社会の生産性向上がカギとなる」と訴えた。この日示された経済財政運営の指針「骨太の方針」の素案には、「幼児教育・保育の早期無償化や待機児童の解消」が明記され、財源についても▽財政の効率化▽税▽新たな社会保険——の3案が記されていた。

 この中の「新たな社会保険」は、小泉氏らが提唱したこども保険を想定している。労使が払う社会保険料に0・5%ずつの上乗せ負担を求め、約1・7兆円を確保するのがその骨格。「子育てを社会全体で支える」といい、乳幼児を持つ親への現金給付に加え、保育の受け皿整備に充てることも視野に入れている。6月1日、日本記者クラブで会見した小泉氏は「(社会全体で子育てを支えるとの理念に対し)自民党のような伝統的価値観を大切にする保守政党からは相当突き上げを食らうと思ったが、異論を唱えた人は皆無だった。自民党自身も変わっている」と述べ、実現への意欲を示した。

 ただ、「異論は皆無」との発言は、やや誇張気味だ。こども保険に対しては、自民党の社会保障を重視する議員の中にも「子供のいない人、子育てを終えた人にメリットが無く、社会保険とは言えない」(厚生族幹部)との反対論が根強くある。事業主負担が増える経済界からは早速反発の声が上がっており、実現へのハードルは低くない。

 「税」はさらに見通しが暗い。安倍政権は消費税率の10%への引き上げを2度延期している。10%になった時点で子育て支援策に充てるはずだった7000億円分は、既に先食いしてしまっている。仮に予定通り消費税率が10%になっても、新たな子育て支援策に回すカネは見当たらない。

 かといって、財政の効率化で1兆円近くを捻出するのは至難の業。厚生労働省幹部は「毎年、1000億円単位の社会保障費削減ノルマですら悲鳴を上げているのに、『兆』なんて論外」と言う。現時点で政府が想定出来ている財源は、年収基準を超える人にも例外的に児童手当を支給している「特例給付」の廃止くらいだが、17年度予算でも734億円に留まる。全額をそっくり充当出来るとも限らない。

 お金だけでなく、「ヒト、モノ」の不足も見通しを不透明にしている。「モノ」は保育所を建てる土地や物件だ。待機児童が多い都市部ほど、土地が足りない。用地はあっても高額で、業者が名乗りを挙げられない例が目立つ。東京都港区に住む母親(34歳)はこの春、1歳の長男を認可保育園に入れることが出来なかった。「本当に物件が無いみたい。区役所からは『土地が高過ぎてそうそう保育所は建てられない』と言われました」と肩を落とす。

 「ヒト」=保育士の不足も著しい。1人の求職者にいくつの働き口があるかを示す有効求人倍率でみると、保育士の4月時点の全国平均は1・93倍。とりわけ東京都は4・04倍と高く、都内の保育園長は「保育士の採用は年々難しくなっている」とこぼす。都心部では人材確保に苦労し、定員を減らすことで対処している施設も珍しくない。厚労省はこの4月から、保育士の平均月給を一律に6000円引き上げた他、経験年数などによって最高4万円アップする人材確保策を始めたが、まだ効果は見えてこない。新プランを実現するには新たに4万人程度の保育士を確保する必要がある。数を重視し過ぎれば、今度は「質の確保」が難しくなるというジレンマも抱えている。

「経済成長のために子供を産め」か

 6月2日、厚労省が発表した「人口動態統計」は衝撃的だった。16年に生まれた子供の数は97万6979人と100万人を割り込み、統計を取り始めた1899年以降で過去最少となった。一人の女性が一生に産む子供の数に当たる「合計特殊出生率」も、前年より0・01ポイント低い1・44。ここ数年上向く兆しだったのが、2年ぶりに低下した。回復傾向にあった30代の出生率にも陰りが生じ、30〜34歳は11年ぶりに下がった。

 安倍政権は「50年後の人口1億人維持」に向け、「希望出生率1・8」の達成を掲げている。出産を望む人が皆産むことが出来る環境を整えれば、1・8の出生率達成は可能というが、その道のりは険しい。

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