SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

第104回 「蕎麦政局」で浮かび上がった1強政権の綻び

第104回 「蕎麦政局」で浮かび上がった1強政権の綻び

 梅雨の6月政局は、スッキリしない終わりを迎えそうだ。「森友学園(もり)」と「加計学園(かけ)」をもじって「蕎麦政局」と呼ばれた疑惑は激しい場外乱闘の末、文部科学省が再調査を余儀なくされたものの、本質の解明には至らないまま伸びてしまいそうだ。それでも、一連の騒動で、何だか胡散臭い菅義偉官房長官の記者会見と共に、「1強政権」の綻びが浮き彫りになったことだけは確かだろう。

 「事務次官まで務めた人がおおっぴらに官邸に矢を放ったのも異様なら、官房長官が人格攻撃で応戦したのも異様。スクープした朝日新聞の他、読売新聞社会部や安倍晋三首相と親しい元TBS記者までが巻き込まれて火だるまになったのも異様。異様づくめだった」

 自民党幹部は「品性の無い政争だった」と蕎麦政局を総括した。確かに、局面がころころ変わる割に中身が深まらないのが、今回の政局の特徴だろう。少し、おさらいしてみる。

 事の発端は、今年1月、岡山理科大学の獣医学部を愛媛県今治市に開設することが認められたことだった。開学は来年4月で、実に52年ぶりの獣医学部新設になる。規制の壁を破って、新たな成長分野を切り拓く「国家戦略特区」の成果と、安倍首相らは胸を張っていた。

 しかし、この事業案が昨年夏から僅か半年という異例の早さで承認されたことや、同大学を運営する加計学園の加計幸太郎理事長が安倍首相の「腹心の友」だったことから、「第2の森友問題」(民進党)との疑惑を生んだ。

 当初は、森友の二番煎じの感が否めず、野党の追及もメディアの食い付きも今ひとつだった。ところが、朝日新聞が5月17日付の朝刊1面で「新学部『総理の意向』」「文科省に記録文書」と報じ、その1週間後にネタ元とされる前川喜平・前文科事務次官が「文書はあった。無かったことには出来ない」と〝内部告発〟したことで、状況が一変する。

 告発は政官界に衝撃を与え、野党は勢いづいた。前川氏はその後も多くのメディアに登場し、「政策が歪められた」などと官邸批判を繰り広げ、野党は安倍首相の追及に乱舞した。野党の言い分は「首相が自分の友達に有利になるよう役所に不当介入し、公平公正であるはずの行政を捻じ曲げた」というものだった。

人格攻撃に出た官房長官会見の誤算

 しかし、特区は元来が官邸主導の政策であり、違法性でもない限り、責任追及は難しい。自民党幹部らは「森友と同じ。尻すぼみになる」と高をくくっていた。

 そこに予想外の事が起きた。沈着冷静で安定感抜群と言われてきた菅官房長官の記者会見が狂い出したのだ。前川氏の告発について「怪文書のたぐい」と一蹴すると、文科省の天下り問題への対応に触れて、「当初は責任者として自ら辞める意向を全く示さず、地位に恋々としがみついていた」と人格攻撃まで始めたのだ。

 官邸のスポークスマンである官房長官の記者会見は、内外に向けた政府の公式見解だ。「品格」が重視される。その記者会見を個人攻撃に用いるのは前代未聞のことだった。

 問題を複雑にしたのは、読売新聞が5月22日付の朝刊で「前川前次官が出会い系バー通い」と報じたことだった。憲法改正で安倍首相と共同歩調を取る読売が、官邸のリークで「前川潰し」を図ったと受け取られた。菅官房長官は当初は「報道は知っているがコメントは差し控える」と無難に応じた。しかし、前川氏が会見で、杉田和博・官房副長官(警察庁出身)から叱責を受けたことを明かすと、それを認め、個人攻撃を再開する。「出会い系バーに出入りし、かつ女性に小遣いを渡したことに強い違和感を覚えた。常識的に言って、教育行政の最高責任者がそうした店に出入りし、小遣いを渡すようなことは到底考えられない」。

 第2次安倍政権は政治家の下半身スキャンダルが目立つ。永田町では「官邸が不祥事を未然に防ごうと、警察を使って監視を強め、それが漏れ出ている」(自民党中堅)と解説されている。閣僚任命の際の「身体検査」がその代表だが、最近は「与野党幹部、高級官僚も含めて身辺が見張られている。共謀罪はその延長線にある」(野党幹部)と警戒されている。新国立競技場問題や高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉を巡って、たびたび官邸と対立していた文科省、そして前川氏が監視対象だったとしても不思議ではなかった。

場外乱闘で大手メディアもとばっちり

 とばっちりを食ったのは読売新聞だ。不偏不党のはずの大新聞が、政権の片棒を担いだと見られたからだ。出会い系バーで、前川氏と会っていたという女性が週刊誌などで「相談に乗ってくれる、お父さんのような存在」と前川氏の潔白を証言したこともあり、読売は市民の批判を浴び、社会部長の釈明文を掲載する破目になった。

 場外乱闘はさらに続き、5月末には安倍首相と親しい、元TBS政治部長でコメンテーターの山口敬之氏に飛び火した。前川氏のケースとは逆で、準強姦罪の逮捕状を官邸の意向でもみ消したとの疑いが浮上したのだ。

 当初は「よくある著名人の下ネタ」だったが、被害者とされる女性が記者会見で、「捜査員から『上からの指示で逮捕を見送った』と聞いた」と暴露したことで、政治スキャンダルの疑いが広がった。野党幹部は「目には目をということなんだろう。警察内部にも前川氏のように官邸への不満が貯まっていることの証左」と話す。

 暴露合戦の様相を強めた「蕎麦政局」が、政権運営そのものへの国民の疑念を招きかねないと憂慮した安倍首相の一声で、文科省は「前川文書」の再調査を余儀なくされた。しかし、安倍首相の指示で実施される再調査が政権に不利な報告になるとは思えない。違法性に繋がる物証を野党がたぐり寄せられるかが勝負の分かれ目となりそうだ。

 一連の騒動の成果は、4年半にわたる1強政権で、霞が関に「不満のガス」が充満していることが露見したことだろう。不満の原因は、3年前から、官僚人事を官邸の内閣人事局、実質的には菅官房長官が掌握していることにあるとされる。安倍政権が官僚支配を強めたのは、政治主導を徹底しようとして官僚の総スカンを食い、あえなく沈没した民主党政権が反面教師だった。建前は官僚機構という怪物を制御し、思い描く政策を実現するためだ。しかし、エリートを自認する高級官僚を容赦なく恫喝する強権手法は、「忖度」に代表される官僚の萎縮と、「前川の乱」のような敵意を生み出してしまったのかも知れない。

 自民党長老がぼそりと言った。

 「アベノミクスで成功したのは金融政策だけ。国家戦略特区などの成長戦略(第三の矢)はほとんど成果がない。実績を上げようとの焦りが、いらざる誤解と、官僚の反発を招いたのかもしれない」。

COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 1 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. かなり前に書かれた記事ではないでしょうか?
    既に再調査(筋書き通り)も終わってますし,萩生田の疑惑がますます大きくなっていますし,更に参考人招致も終わっていますが。

    忖度?

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top