SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

地域包括ケアシステムの「担い手」に看護師が浮上

地域包括ケアシステムの「担い手」に看護師が浮上
の方針登場の思

応を間違えれば、日医(日本医師会)の屋台骨が大きく揺らぐことになる」

 地方医師会の幹部が警告するのは、タスクシフティングのことだ。

 タスクシフティングとは聞き慣れない言葉だが、医師の業務を他の職種に移管させようというものである。

 この地方医師会幹部が懸念するのは、安倍(晋三)政権が「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に、「医師等の負担を軽減しつつ医療の質を確保するため、看護師の行う特定行為の範囲の拡大など十分な議論を行った上で、タスクシフティング、タスクシェアリングを推進する」と明記したためだ。「安倍政権は、本腰を入れて実現を目指してくる」との警戒感である。

 政治の表舞台に突如登場したタスクシフティングだが、伏線が無かったわけではない。塩崎恭久・厚生労働大臣の下に設置された「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(以下、ビジョン検討会)が、その具体策として「フィジシャンアシスタント」資格の創設を提言していたのである。看護師に簡単な診断や外科手術の助手、術後管理など医療行為の補助的な仕事を担わそうという構想だ。

 厚労行政に詳しい永田町関係者は、「背景には、医師の偏在解消へ向けての厚労省の事情がある」と言う。

 「医師の地域偏在の解決策がなかなか見つからないのに、新たな専門医制度がスタートすることになり、若い医師がさらに大都市部に集中することが予想される。地方で働こうとする医師は、過酷な労働環境や希望する仕事が出来ない不安がますます募っている。厚労省としては、何らかの対策に取り組んでいる姿勢を見せなければ、批判をかわし切れない。そこで塩崎大臣がタスクシフティングに飛び付いたのだろう」との見立てである。

 厚労官僚OBが「フィジシャンアシスタント構想は、医師が本来の業務に専念出来るような環境を整える必要があるという発想から始まった」と、この発言を引き取るように語った。「足りないのは医師だけではない。少子化が進めば、看護師や保健師、薬剤師もなり手が少なくなる。医師の仕事を減らすことだけを考えるのではなく、フィジシャンアシスタント以外にも、医療知識をもってある程度のことに対処出来る人材を育成していくことも大事だ」と厚労省の思惑を解説した。

特定看護師化で訪問看護体制を整備

 これに関して、自民党厚労族議員が「厚労省の具体的な狙いは、地域包括ケアシステムの担い手に看護師を充てたいということだ」と語った。「医師が在宅医療を行うのには限度がある。訪問看護の体制を整備するしかないということだろう。最終的な診断については医師が責任を持つにしても、看護師を再教育して特定看護師に格上げし、看護師の業務拡大を図ろうとしているのだ」というのである。

 ただ、診断を医師以外に委ねることには、日医を中心に反発が強い。日医関係者は「特定看護師の議論は今回が初めてではなく、政府の願望なのだろう。だが、専門的な勉強をしたわけではない看護師に、医師のような診断は出来ない。事故があったら、誰が責任を取るのか。医療の安全性の観点から、絶対に認められない」と牽制する。

 ただ、自民党ベテラン議員の予測は厳しい。「安倍政権は医師の働き方改革をワンチャンスと見て、一気に進めるつもりなのだろう」というのだ。

 「電通の事件もあり、社会全体で過労死を無くそうという機運が盛り上がっている。政府としては、この機に乗じて『医師の過労死を防ぐ』という大義の下に、医師の仕事を減らす方向に持って行こうとしている。政府の真の狙いは、医療費の抑制だ。医師以外の医療職種を活用することで、診療報酬点数を引き下げようということだろうと説明する。

 一方、少し異なる角度からの見方を示すのが、別の政界関係者だ。政府の骨太の方針に「2008年度以降臨時増員してきた医学部定員について、医師需給の見通しも踏まえて精査を行う」との文言が入っていることを取り上げて語った。「医学部定員の話は、唐突に出てきた印象である。これは既存医学部の定員増ではなく、医学部新設へと発展しかねない話だ」。

 そして、さらに続けた。「最近、医学部が特例的に2校で認められたが、医療界や文部科学省からは大きな抵抗が巻き起こった。これがさらに認められることになってしまえば、いよいよ医学部新設は政治判断による特例措置ではなく、実質的な解禁の流れになっていく」との指摘である。

 これについて、野党の厚労関係議員は「いま流行の〝忖度〟ではないが、骨太の方針が決まる前から、新たに認められる医学部がどこに設置されるかなど、いろいろな噂が駆け巡っている」と話す。

「医療の安全性」を守れない懸念も

 先の永田町関係者は「医学部の総定員が増えれば、将来的に医師数は増え、医療費の膨脹に拍車が掛かる。これは許認可権を持つ文科省ではなく、財務省が警戒している。そこで、医師以外の職種に代行させることで、医師の需給見通しそのものを改善させ、医学部新設を断念に追い込もうということだろう。かなり大仕掛けの話だけに、どこまで成功するかは分からないが、様々な思惑が渦巻いている」と語った。

 こうした状況に、冒頭の地方医師会幹部は「それぞれの思惑はともあれ、結局は政府が率先して看護師を再教育して医師の領域まで手を伸ばさせようということだ」と切り捨てる。そして「診断は専門的な知識を持つ医師がすべきことであるという原則を曲げて、医療の安全性は守れない」と反発した。

 別の地方医師会幹部も「術後管理まで医師が患者に向き合えばこそ、医師としての腕が磨かれる。そこを看護師に回したのでは、医師としての成長が止まってしまう。政治家はこうした実態をどこまで理解しているのか」と語気を強めた。

 彼らの怒りの矛先が向かうのは、日医の横倉義武会長だ。横倉氏と距離を置く地方医師会幹部は「医師の診断権限まで他の医療職に譲るとなれば、多くの日医会員は黙ってはいない。結果次第で次期会長選での横倉氏の当選に大きな影響が生じるだろう。それにしても、日医執行部の動きは鈍い。骨太の方針に盛り込まれる前に、首相官邸サイドから横倉会長宛に何らかの打診や相談は無かったのか」と突き放すように語った。

 情報戦の様相も呈しつつあるタスクシフティングだが、多くのプレーヤーがそれぞれの思惑に沿って動いていることは間違いない。

 決着の仕方によっては、日医だけでなく、関係する組織に大きな亀裂が生じる展開となりそうである。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top