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第105回 世界に先駆けた再生医療の新ルール 運用面の課題を克服し制度に魂入れる

第105回 世界に先駆けた再生医療の新ルール 運用面の課題を克服し制度に魂入れる
日本再生医療学会(JSRM)は再生医療の普及に向けたルールや制度づくりに関与し、この分野の研究や製品化などの取り組みをリードしてきた。2015年から理事長を務める澤芳樹氏に、日本の再生医療を巡る課題を聞いた。

■JSRMの現状は?

 2001年に設立し、会員数は現在5500人を超えました。企業関係者が多く、約3分の1に上ります。このことは、再生医療の成果を多くの人々に安全・安心、有効な形で届けるというJSRMの基本的な考え方と関係しています。つまり、臨床研究だけでは十分でなく、製品化して患者の元に届けるのが重要です。会員の研究者も、自分の研究成果を何とか製品にしたいと考えています。そのためには、再生医療に関わる新しい産業を創出しなければなりません。企業の方々が多いのは、ある意味で当然のことです。

■再生医療を巡る最近の動きをどう見ていますか。

 2014年に二つの法律が制定されました。薬事法を改正して施行された医薬品医療機器等法、再生医療新法ともいわれる再生医療安全性確保法です。世界的に見て先進的な法律であり、海外からも再生医療を強力に後押しする新ルールとして高く評価されました。ただ、法律は運用次第というところがあります。この2年余りで明らかになったのは、その運用が必ずしもうまくいっていないこと。せっかくの法律ですが、今一つ魂が入っていません。

日本再生医療学会の担うべき役割

■具体的な課題は?

 申請側と審査側との意識ギャップが大きいように感じます。申請側は出来るだけ簡単に承認してもらいたいのに対し、審査側ではどうしても保守的に考えます。また、審査側にも事情があって統一的なレベル感がありません。例えば、再生医療安全性確保法には、再生医療のリスクに応じて3種類の手続きが定められています。医療機関が提供計画を作成し、それを第1種(高リスク)、第2種(中リスク)については特定認定再生医療等委員会、第3種(低リスク)については認定再生医療等委員会が審査します。委員会は全国に200ほどありますが、審査の質や厳格性に大きな開きがある。Aという委員会で見直すように言われた計画が、Bの委員会では簡単に承認されることもあります。全体のレベルアップとともに、統一的なレベル感を作る必要があるでしょう。また、美容系の分野では委員会を経ず、「再生医療」を掲げて自費診療を提供するクリニックもあります。きちんと手続きを踏み、本人の同意を得てエビデンスに基づいた診療を提供しているなら問題はないかもしれません。しかし、そうした手続きを飛ばして、「アンチエイジングに効きます」などと宣伝しているところもあります。こうした行為は、再生医療全体の信頼を傷つけかねません。

■運用を改善するためのイニシアチブは、誰が取るべきですか。

 JSRMが大きな役割を果たさなければならないと考えています。そこで重要になるのが、2016年11月に決まった再生医療ナショナルコンソーシアム事業です。同事業は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からJSRMが受託したもの。5年間の予定で臨床研究の推進、人材育成、データベースの整備という大きく三つのテーマに取り組んでいます。

■まず、臨床研究の推進については?

 私達の世代の研究者は経験を積みながら、一歩一歩前に進んできました。そうした姿勢はこれからも重要ですが、若い研究者のラーニングカーブはもっと角度が立たなければなりません。臨床研究を進める上でより良い環境作りが重要です。例えば、マウスで得た実験の成果を、いかに臨床研究に繋げていくか。臨床研究のプロトコル作りなどにも取り組む必要があるでしょう。

■次に、人材育成です。

 新しい分野なので、再生医療を支える人材は不足しています。そこで、JSRMは再生医療認定医制度と臨床培養士制度という二つの認定制度を立ち上げました。再生医療に携わるためには、規制や安全確保の方法、細胞工場の仕組みなど、これまで教わっていなかったことを学ばなければいけません。教える側の体制も整備、充実させていく必要があります。

世界の再生医療をリードするために

■三つ目のデータベースの整備については?

 再生医療では市販後調査の重要性が高く、この調査を支えるデータベースの整備は欠かせません。医薬品医療機器等法で、早期承認を可能にする条件及び期限付承認制度が設けられました。これを単に「ハードルが下がった」と捉える向きがありますが、これは大きな間違いです。早期承認を得て販売しながら、販売後の経過をきちんと追い掛けて調査しなければなりません。市販後調査は人工心臓などの分野で実施されてきましたが、そこで得た知見なども活用して再生医療製品向けのデータベースを整備する必要があります。従来はデータベース作りが追い付いていなかったため、販売後調査の精度や質を担保する基盤が必ずしも整っているとは言えない状態でした。結果として、安易に早期承認を得ようとする企業を立ち止まらせるために、真面目に申請する企業であったとしても、制度の厳しい運用に直面せざるを得ないところがありました。データベースが整備されれば、真面目に取り組む企業はやりやすくなると思います。

■データベース構築はどの程度まで進んでいますか。

 再生医療の中でも、分野ごとに特性があります。例えば、心臓の疾患に対して再生医療製品を適用した時に利用するデータベースと、がん分野で使われるデータベースは同じものではありません。そこで、年齢や性別、疾患の種類などの情報を格納するデータベースを第1層、心臓やがんなど分野ごとのデータベースを第2層に置く構造が採用されました。第2層のデータベース整備については、分野によって進捗度合いはマチマチです。心臓は完成に近づいている段階で、眼科もかなり進んでいると聞いています。第2層のデータベースは、最終的には10分野程度になるのではないかと思います。

■米国では2016年末に、新薬や再生医療製品の承認手続きの簡素化などを定めた「21世紀の治療法案」が成立しました。

 日本で二つの法律が制定された時、米国の関係者は安全性を犠牲にする過度な規制緩和だとして厳しく批判していました。しかし、今後は米国がそれを上回るような規制緩和に踏み出そうとしています。21世紀の治療法案はまだ運用されていませんが、世界的にこうした流れが定着しつつあるように見えます。この動きに先鞭を付けた日本が、今の状態のまま停滞することは出来ません。制度に魂を入れ、欧米を引き離す意気込みを持って前に進む必要があります。そのために、JSRMは出来る限りの貢献をしていきたいと考えています。

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