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医療等IDと専門医制で「医師偏在」を解消する秘策

医療等IDと専門医制で「医師偏在」を解消する秘策
の打切りなどで医師不足勤務誘導

018年度は医療・介護施策の節目の年となる。6年に一度の診療報酬・介護報酬同時改定をはじめ、第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画がスタート。また、赤字体質が続く国民健康保険(国保)の財政運営の都道府県単位化、さらに、20年度からの本格運用を前にしたオンラインでの医療保険の資格確認体制の構築、及び医療等ID制度の段階的な運用の開始だ。これらに加え、新たな専門医制度も始まる予定だ。

 いずれも2025年の地域包括ケアシステムの構築や医療費抑制を目指した施策と言えるが、「厚労省は医療等IDを専門医制度と絡め、医師偏在の解消策に使うのではないか」との指摘が医療界から上がっている。一見、両者は無関係に思えるが、どういうことなのか。

 昨年1月にスタートしたマイナンバー制度は、社会保障・税・防災対策などと、関わる利用範囲は広い。ただ、暗記出来なくはない12桁の番号が記されたカードを診察券や健康保険証と同じように使うことについては、番号が悪用された場合、人格に関わる病歴や治療歴、遺伝子情報などに辿り着く可能性があり、個人情報保護の観点から医療界は反対してきた。そこで、マイナンバー制度のインフラを活用した医療等ID制度が浮上した。

 医療等IDは、カードを見ても番号を読み取れないようにするため、番号には覚えきれない文字列を用いた符号を使ったり、カードには番号を表記せず、ICチップを利用したりする。また、地域医療連携や保険資格の確認など目的別に複数の医療等IDを個人に付与できる点も特徴だ。

 医療等IDは医療・健康・介護分野の情報に個人番号を紐付けるもので、医療や介護などのサービスを受けた記録を一元管理する。地域の医療機関同士の情報連携や、研究開発の促進、医療の質の向上などが期待されている。

 一方、新専門医制度については、日本専門医機構の運営への批判、大学病院が研修施設の中心になることによる医師地域偏在の助長への懸念が起き、今春の導入予定が1年後ろ倒しになるなど、迷走している。

医師の診療行為などをデータベース化

 ところで、医療費を抑制したい政府にとって、医療等ID制度のメリットは何か。診療報酬明細(レセプト)の情報と繋げば、医療機関ごとの医療費の動向をつかみやすくなったり、ビッグデータを生かして医療提供を標準化・効率化出来たりする。

 医療等ID制度に関する報告書を15年にまとめた厚生労働省「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」の委員だった大道道大・日本病院会副会長(森之宮病院理事長・院長)は次のように説明する。

 「レセプトに患者の病棟番号を入れているが、そのレセプトに医療等IDを紐付けることによって、医療等IDで検索すれば、院内での患者の移動履歴が分かる。急性期から回復期、慢性期へと移っているのか。療養病棟に行っているのか。あるいは、ICU(集中治療室)から何日目に一般病棟に移っているのか。そして、その過程で誰が治療したのかが分かる」

 厚労省は医籍登録番号を活用し、医師の勤務先や診療行為などの情報を追跡出来るデータベースを構築しようとしている。都道府県が医師確保対策を行うために必要な医師情報を一元管理するのが目的だというが、このデータベースに医療等IDを紐付ければ、各患者の治療を担当した医師の専門医資格や治療履歴なども明らかになる。

 専門医が患者に対して、どんな薬剤、どんな治療をどのくらい行ったのか。結果として、どのくらい治すことが出来たのか。そうした情報が捕捉出来るのだ。

 専門医の中には健康保険制度上、専門医加算が付くものがある。加算が付けば、医療機関の増収になり、ひいては医師への手当てに反映する。専門医制度が医療等IDと結び付くことで、医師に何をもたらすのか。大道氏は次のように予想する。

 「例えば、A医師はBという専門医資格を持っているが、1年間の症例数が極端に少ないとする。国からすれば、専門医加算を外す仕組みになる。病院側からすれば、専門医手当ての支給を打ち切る理由になる」。つまり、医療費を抑制出来るわけだ。

 また、レセプトに医療等IDを紐付けると、地域ごとの疾患構造が見えてくる。現在は医療機関ごとにレセプトが上がってくるので、地域ごとの各疾患の実数はレセプトを突合して集計しなければ出てこない。しかし、医療等IDに紐付ければ、地域ごとの疾患別の患者実数が検索出来、必要な専門医数も分かるようになる。

「強制」ではなく「自主的」に移らせる

 医師は専門医志向が強い。中には、資格マニアのような医師もいる。しかし、専門医が増えたら、専門医加算の財源も増やさなければならない。政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字(税収と税外収入で政策経費を賄う状態)にするという財政健全化目標を掲げている。そのためには、社会保障費の膨張は少しでも抑制したいはずだ。

 これに対し、大道氏は「『この地域の特異的疾患数はこの程度だから、その専門医はこれぐらいでいい』とか、『必要専門医トップ10以下は、加算が付かない準専門医という資格でいい』という話になるかもしれない。重要なのは『資格を維持したいなら、この地域が空いている』と専門医を誘導出来ること。勤務地を強制するのではなく、自主的に移ってもらうわけだ。結果として、医師偏在の解消に繋がるかもしれないと、国は考えている」と説明する。

 18年度から医療等ID制度の段階的な運用が始まる。当初は、厚労省のコントロールが効きそうな病院、例えば国立病院、特定機能病院、国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)、一部の民間病院などが導入するだろう。そして、20年度からは全医療機関が対象になる。大道氏は運用時の医療機関の混乱を懸念する。

 「患者は医療等IDに基づく新保険証の他、マイナンバーカードや旧保険証、診察券を持ってくるかもしれない。そうなれば、職員の業務は繁雑を極める。大学病院などは1日5000人前後の患者が来る。読み取り用の端末は10台や20台用意しても足りないかもしれないし、個別のケースに職員が対応するのも大変だ。患者の手続き時間が今以上に延びるだろう」

 国の一元的な情報管理には、医療等ID制度は役立つだろうが、医療機関や医師への影響が大きいことに、当の医療機関や医師は気付いているのだろうか。

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