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第84回 創薬ままならぬ中、他社から創薬研究受託の怪

第84回 創薬ままならぬ中、他社から創薬研究受託の怪
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 『産経新聞』といえば、かつて江沢民元主席死亡」(2011年7月)だの、「村上春樹ノーベル賞受賞」(13年10月)だのと、特大級の誤報を連発し、今でも他紙と比較して何かと大小の誤報に事欠かないことで知られているが、これもその一つなのだろうか。6月4日付(電子版)で報じた、「武田薬品工業、創薬研究受託へ新たな収益源に7月、事業スタート」という見出しの記事のことだ。何しろ武田のことを少しでも知る読者なら、「これは誤報ではないのか」と首を傾げるような内容なのだ。

 この記事によれば、武田が「バイオベンチャー企業などから創薬の基礎研究を請け負う事業に乗り出すことが3日、分かった。薬の評価や新薬につながる成分の候補を探す研究を手助けする。武田は、設備投資や開発費を抑えたい企業からの受託を見込んでおり、新たな収益源にする狙い」だという。

 だが、すぐ素朴な疑問が湧く。武田がかつての「超優良企業」から転落し、収益性の大幅低下に苦しみだした最大の要因は、自社が「創薬」した年商1000億円超えを稼ぎ出す「アクトス」(糖尿病治療薬)や「ブロプレス」(高血圧治療薬)、「タケプロン」(消化性潰瘍治療薬)、「リュープリン」(前立腺ガン・子宮内膜症治療薬)というブロックバスターが相次いで10年前後に特許切れを迎えたにもかかわらず、それに代わる「新薬」開発に、ものの見事に失敗したからだった。

 いくら「業界の盟主」とはいえ、自社の「創薬」もままならぬ武田が「バイオベンチャー企業などから創薬の基礎研究を請け負う」などと景気のいい話を聞かされても、簡単に納得出来るはずもないだろう。

パブ記事と見紛う新聞報道

 第一、先日、相談役に「引退」した前会長の長谷川閑史が今もなお「2兆円をドブに捨てた男」と業界で揶揄され続けているのも、自社の「創薬」にも「新薬」にも失敗した挙げ句、その穴埋めに巨額の海外企業のM&A(企業の合併・買収)に突っ込んで、これまたM&Aの「失敗例」を世間に提供しただけに終わっているためにほかならない。

 『産経』の記事はまことしやかに「創薬研究の部門の一部を同社本体から切り離す形で、4月に準備会社を設立しており、7月1日から事業を開始する」とし、「創薬の研究部門の分社化は国内の製薬大手では初めての試み」などと、パブ記事と見紛うほどに持ち上げる。

 しかし、これを書いた記者は、そもそも他社を「請け負う」ぐらいの余裕があれば、武田は「2兆円をドブに捨て」るような、末代まで語り継がれるだろう体たらくを演じずとも良かったのではないか、との疑問を持たなかったのか。それとも、これは武田の「本物の」パブ記事の類いなのだろうか。

 実際、武田社長のクリストフ・ウェバーは、がん、消化器、中枢神経系の3領域にパイプラインを集中させる意向というが、そのうちがんに関しても、「リュープリン」以外の自社開発製品は乏しい。年商1700億円といわれている多発性骨髄腫治療薬の「ベルケイド」は、武田が08年に約8900億円で買収した米ミレニアムファーマ社の開発製品だ。

 また、直腸がん・大腸がんの抗がん剤「ベクティビックス」は、16年に米アムジェン社から日本における開発・販売権を獲得した製品の一つ。さらに、多発性骨髄腫治療薬の「ニンラーロ」も、前出のミレニアムファーマ社の製品だ。

 今後、有望視されているホジキンリンパ腫治療薬の「アドセトリス」も、米シアトルジェネティクス社と共同開発したもの。つまり3領域に「集中」と宣言しながら、そのうちのがんは依然、自社のみで開発した有力製品がゼロ状態ということになる。

 なお、中枢神経系にしても、アルツハイマーの治療薬である「レミニール」は、ベルギーに本社があるヤンセンファーマ社の製品。不眠治療薬の「ロゼレム」は、例外的に武田の自社製品だが、消化器系では健闘している潰瘍性大腸炎とクローン病治療薬の「エンティビオ」も、やはりミレニアムファーマ社の創製品といった具合だ。

 どう考えても、武田は「創薬」より、有望な開発製品のある外国企業を片っ端から手っ取り早く買収することに優先順位を置いているとしか思えない。それならそれで一つのビジネスの手法なのだろうが、なぜ今度は一転して、自社が他社の「創薬」を「請け負う事業」に手を出すのか。

湘南研究所のリストラ策と矛盾

 そもそも、武田はこの1月、がん領域で強みを持つ米製薬ベンチャーのアリアド社を、「高値掴みさせられた」とさんざん酷評されながらも、約6200億円で買収したばかり。「創薬」も「新薬」もままならなくなって外国の「ベンチャー」を買収した企業が、今度は自社が「ベンチャー」の「創薬の基礎研究を請け負う」というのも、理解に苦しむ。

 それとも、この「事業」なるものは、アリアド社にやらせるのか。だとしたら、「バイオベンチャー企業などから創薬の基礎研究を請け負う事業」のために、「ベンチャー」であるアリアド社を買収したのだろうか。

 さらに解せないのは、武田こそ開発部門のリストラが進んでおり、「設備投資や開発費を抑えたい企業」ではないのかという疑問が生じる点だ。『日本経済新聞』の1月14日付によれば、武田はかつて「自社創薬研究」の一大拠点と位置付けた湘南研究所(神奈川県藤沢市)の研究員を、実に「3分の1程度」までリストラする。2万6000分の1程度とされる新薬の開発成功確率からすれば、こんなことをやっておいて、他社の「創薬の基礎研究を請け負う」余裕があるのかどうか。しかも今春、原薬や製剤の設計などを担う部門の一部を武州製薬に売却し、研究者約200人が転籍した。

 今回の『産経』の記事は、武田のこうしたちぐはぐさが伝わってくるが、寡聞にして武田が「誤報」だと抗議した話もなさそうだ。すると、おそらくは武田の内情に疎そうな記者が、武田の広報の情報提供で書いた可能性が高い。ならば、記事は「事実」ということなのだろうが、それならそれで読者は読後に、武田という企業の不可解さに首を傾げることになろう。 (敬称略)

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