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世界が注目する法制度で 躍進する日本の「再生医療」

世界が注目する法制度で 躍進する日本の「再生医療」

岡野栄之(おかの・ひでゆき)1959年東京都生まれ。83年慶應義塾大医学部卒業。同大医学部生理学教室助手。85年大阪大蛋白質研究所助手。89年米国ジョンス・ホプキンス大医学部生物化学教室研究員。92年東京大医科学研究所化学研究部助手。94年筑波大基礎医学系分子神経生物学教授。97年大阪大医学部神経機能解剖学研究部教授。2001年慶應義塾大医学部生理学教室教授。15年同大医学部長。09年紫綬褒章受章。14年第51回ベルツ賞(1等賞)受賞。


再生医療新法と改正薬事法が施行され、日本では再生医療に関する法制度が世界に先駆けて整備されることになった。それにより、国内での開発競争は活況を呈しており、日本で治験を行おうと、多くの海外のベンチャー企業も集まってきている状況だという。再生医療の最前線について、中枢神経の再生医療で世界のトップを走る慶應義塾大学医学部長の岡野栄之氏に話を聞いた。

——再生医療の現状は?

岡野 法律が整備されたことで、臨床研究を進めやすい状況が出来てきました。一つは、再生医療新法と呼ばれている「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」です。再生医療を危険度の高いものから第一種、第二種、第三種に分け、第一種に関しては厚生労働省の厚生科学審議会で審査し、それを踏まえて臨床研究を行うということが法制化されました。それによって、臨床研究を進めやすくなったといえます。もう一つは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」で、早期承認制度が実現しました。ある程度の安全性と有効性が確認された段階で、条件と期限を付して承認し、市販出来るようになったのです。その後も市販後調査を行い、安全性と有効性が確認されると本承認となります。早期承認までのステップは、世界中のどこよりも早いということもあり、日本の新しい法律は世界中で注目されています。海外のバイオベンチャーが、日本で治験を行おうかと言い始めていますし、実際にどんどん押し寄せてくるようになっています。日本の再生医療は、まさに勢い付いている状況です。

——医学部で取り組んでいることは?

岡野 AMED(日本医療研究開発機構)から公的資金の給付を受けたり、あるいは大学発のベンチャー企業を立ち上げたりして、再生医療の実用化を目指した研究に取り組んでいます。AMEDが実用化を重視した研究費の配分を行っていることで、以前に比べ、いわゆる「死の谷」が狭くなってきたと感じています。かつては動物実験まで進んでも、ヒトを対象にしたフェーズ1がなかなか出来なかったのですが、現在はAMEDによるサポートで、フェーズ2の途中まで、公的資金を利用することが出来るようになっています。

——大学がベンチャー企業を立ち上げている?

岡野 これから先、大学が生き残っていくためには、そういったことも必要だと思っています。大学で生まれた研究成果で特許という知財を獲得し、イノベーションを起こす必要があります。それによる収益が大学に回るようになって、初めてハーバード大学やスタンフォード大学を目指すことが出来ます。近い将来、慶応義塾大学医学部から100社のベンチャー企業を出したいと考えています。昨年1年で4社のバイオベンチャーが生まれたので、夢物語ではありません。その中から、大化けするベンチャー企業が現れるかもしれません。

ⅰPS細胞を使った臨床研究を申請

——先生は中枢神経の再生医療がご専門ですね。

岡野 もともと神経発生の基礎研究をやっていたのですが、ターニングポイントとなったのは1998年でした。この年、私達は、ヒトの大人の脳に神経幹細胞があることを発見したのです。ただ、数が圧倒的に少ないため、そのままでは再生力がありません。脊髄損傷などの治療には、外から神経幹細胞を移植する方法が効果的なことが、動物実験で明らかになってきました。2002年には、ラットの脊髄損傷モデルにラットの神経幹細胞を移植することで、機能回復が起こることを世界に先駆けて報告しました。次に行ったのは、マーモセットという小型のサルを使った実験です。マーモセットの脊髄損傷モデルを開発し、これにヒトの胎児由来の神経幹細胞を移植して、運動機能の回復に成功したのです。その論文を発表したのが05年のことでした。

——サルで成功したら、次はヒトですか。

岡野 ところが、06年に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が厚生労働省から出され、倫理的な議論がまだ不十分であるとして、ES細胞や胎児由来の細胞を使った臨床研究が出来なくなってしまったのです。非常に難しい状況になりましたが、そこに登場してきたのがⅰPS細胞でした。我々はすでにマウスのES細胞を使い、それを神経幹細胞にして移植し、脊髄損傷モデルの運動機能を回復させることに成功しています。そこで、ES細胞をⅰPS細胞に置き換え、同様の実験を行いました。マウスのⅰPS細胞から神経幹細胞を作り、それを脊髄損傷モデルのマウスに移植し、運動機能の回復に成功したのです。これが10年です。さらに、ヒトのⅰPS細胞が作られていましたから、これを使ってマウスの脊髄損傷モデルに移植しています。これによる運動機能の回復に成功したのが11年。次に、マーモセットの脊髄損傷モデルに、ヒトのⅰPS細胞で作った神経幹細胞を移植し、運動機能の回復に成功しました。これが12年のことです。

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