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第108回 ディストピア

第108回 ディストピア

 戦後以来の大国の属国との意識のせいだろうか。日本にはいわゆる「ディストピア(暗黒郷)」小説が大好き人な人が多いと思う。その代表は、民族被虐の究極「家畜人ヤプー」だ。

 私もミーハーの一人で、そんな「ディストピアもの」が大好きだ。

 そもそもSFの物語のほとんどがディストピアだ。

 「マトリックス」「ターミネーター」「ウォーターワールド」「ポストマン」「エリジウム」「オブリビオン」「スノーピアサー」「12モンキーズ」「トゥモロー・ワールド」「ダイバージェント」……キリが無い。

 最近の政治の動向のせいで、古典の「1984」「侍女の物語」が売れていると聞く。

 中でも、1949年に発表された「1984」は、あまりに現状と酷似しているので、近々為政者によって「発禁」になるだろう。読んでいない人は今のうちだ。

 この小説では、近未来の世界が三つの大国が拮抗、あるいは均衡しながら存在する。それぞれが全体主義国家で、為政者により、三つの標語が国民全体に常時宣伝されている。

 平和とは戦争なり。

 自由とは隷属なり。

 無知は力なり。

 なるほどなるほど、と誰もが頷く名言だ。

 これ見よがしに戦闘攻撃機を甲板に並べ立てた超大型攻撃型原子力空母がバルチック艦隊と同じ経路を航行しているかの威容を、テレビが幾度となく放映し、国民にインプリントするのは、これはある意味「平和」を表している。

 新しい働き方、という名目で賃金を減らされ、一方で過剰な出費を誘導され、それでも権力には無言で隷属するしかない。これは庶民にとって「自由に生きる」ための唯一の手段なのだ。

 嘘デタラメを吹き込まれ、敵への憎悪の塊と化した無知な兵士がいかに強靱なことか。それぞれの標語は真理を言い当てている。

 二項対立をあえてイコールで結ぶ優秀なレトリックだ。

 この手法は古今東西数多ある。

 戦争とは平和の一形態である(平和とは戦争の一形態である)。

 沈黙とは雄弁饒舌の一手法である(ウィリアム・ハズリット)。

 般若心経の色即是空、空即是色。

 よく生きるということは、よく死ぬということ(遠藤周作)。

 だが、目の前の現実を言葉で表すこと自体、難しい。無理がある。いや、そもそもごまかしだ。戦争も「事変」であったり「紛争」であったり「衝突」であったり「無かったこと」にもされ得る。

 性に関しても、現実は複雑を極める。男性、女性、どちらでもない、あるいは男性や女性の中での多様な性が認められている。

 先のハズリットだが、「女性は筋道立てて考えない。だから、決して間違うことはない」。

 こんな迷言も今や意味をなさないのだろう。

 compartmentalizationされた仮想の現実に、branchingでboundingで仕切り、刈り取りまくった非現実世界の限定最適解で、世の混沌を切り抜けようとする(筋道を立てて考えるというのは、まさにこんなこと)愚かな理系男子を戒める、女性賛美の時代錯誤の格言という一面もあると思うのだが……。

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