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第103回 安倍改憲ビデオの衝撃と、その打算

第103回 安倍改憲ビデオの衝撃と、その打算

 70回目の憲法記念日を迎えた5月3日、安倍晋三首相は改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ、憲法9条での「自衛隊明文化」などの改憲案を打ち出した。東京五輪・パラリンピックに合わせ、2020年に改正憲法を施行すると期限を切った異例の内容は、永田町に衝撃を与えた。遅々とした国会の憲法改正論議に活を入れ、同時に森友学園問題で暗鬱とした国会の局面打開を狙った「ビデオ作戦」は奏功し、安倍首相は国会の主導権を取り戻しつつある。

天皇陛下のお言葉ビデオをまねた?

 「あのビデオ作戦は、陛下のお言葉ビデオがヒントなんじゃないか。退位の意向をにじませた陛下のビデオには、皆度肝を抜かれた。首相官邸の驚きも尋常ではなかった。今回、安倍首相は自民党総裁の名目ながら、憲法改正の具体論に直接言及し、期限まで付けた。これもまた、相当なもんだよ」

 自民党長老は言葉を濁しながら、安倍首相と天皇陛下の微妙な関係に触れた。改憲派の安倍首相と、憲法擁護の立場とされる天皇陛下の反りが合わないのは、永田町では有名な話だ。陛下のお言葉を受け、首相官邸が用意した有識者会議の議論について、陛下が首相官邸に逐一不満を伝えたとの情報も数多い。 

 安倍首相の意識の中に、陛下のビデオがあったとしても不思議ではない。さすがに口にする者は少ないが、安倍首相の改憲ビデオは陛下に向けられたメッセージでもあったとの見方まであるのだ。

 ともかく、大型連休明けの国会は安倍首相の目論見通り、憲法を巡る論戦で活気付いた。森友学園の疑惑追及は依然続いているが、共産党などの厳しい追及にも安倍首相は苛立つこと無く、余裕の表情すら窺えた。

 5月8日の衆院予算委員会、共産党の宮本岳志議員との遣り取り。

 宮本議員「森友学園問題は安倍昭恵氏の問題ではない。そもそも2012年9月16日、一番最初に森友学園での講演を予定していたのは、総理あなた自身だ。自民党総裁選の立候補によって実現しなかったが、一旦了承した。だから、自ら電話に出て言葉を掛けた。これは事実か」

 安倍首相「それは事実でありますが、結果としてはお断りしたところでございます」

 宮本議員「総理はこの学校の教育内容がメディアで取り上げられ、国会で問題になると、にわかに教育の詳細は全く承知していないと答弁した。しかし、教育の詳細を知らずに講演を引き受けるのは無責任だ。あなたは教育内容を重々承知の上で引き受けた。あなたは妻の問題であるかのように言うが、そうではない。あなたが当初から森友学園を支援してきたのではないか」

 安倍首相「当初から支援は全くしておりません。今は総理ですから相手先を詳細に調べますが、当時は一議員で、様々な方から依頼され、いろんな所で講演した。誰に頼まれたか半分以上覚えてもいない。様々な方から依頼され、今、議場から『えー』という声が上がりましたが、それは講演の依頼が少なければそういうこともありますよ(議場爆笑)。相当な場所において講演をしてきた訳でございまして……」 

 人を食ったような答弁だが、議場は何度か爆笑に包まれ、以前のギスギスした雰囲気は無くなっていた。

 ただし、安倍首相が5月3日に改憲ビデオを寄せた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は森友学園問題と無縁では無い。森友の籠池泰典前理事長がメンバーに名を連ねていた日本会議こそが、同会の主導勢力だからだ。安倍首相は森友問題が絡む団体に改憲ビデオを送り込むことで、国会の局面打開を図ったことになる。

 民進党幹部が苦々しく語る。

 「小面憎い、嫌らしい手口だ。憲法問題を持ち出せば、共産党は血が騒ぎ、憲法論戦に傾いていく。日本維新の会は元々、改憲派。うちは改憲・護憲両派がいて混乱する。森友で矛先を揃えた野党をバラバラにする意図が丸見えだ。しかも、籠池氏がメンバーだった日本会議へのビデオメッセージだ。野党は完全に馬鹿にされている」

 憲法改正を持ち出して、維新に秋波を送り、公明党を繋ぎ止めるのは自民党の常套手段だ。野党はその手口を熟知しているのだが、民進党はその都度、混乱し、野党共闘にひびが入る。泣き所を突かれた格好なのだ。5月9日の参院予算委員会。その民進党の蓮舫代表が質問に立った。

 蓮舫代表「総理は口を開く度に改憲の条文が毎回変わる。憲法9条で交戦権を認めるべきだと言ったかと思えば、次は発議要件を緩和する96条、さらには緊急事態条項だ。自民党案をベースに国会で審議してくれと言いながら、自民党憲法草案は単なる公式文書で、今度は9条の自衛隊明文化。改憲の必然性があるからではなく、私が総理のうちに変えたいと言っているとしか見えない」

 安倍首相「蓮舫代表ね、政治家にとって大切なことは、立派な事を言うことだけじゃない。結果を出していかなければいけない。ご批判もありますよ、そういう批判を受け止める責任感も持ちながら、リーダーとして結果を出していきたいと考えている」

 蓮舫代表は、自民党の船田元・党憲法改正推進本部長代行が苦言を呈したことなどを取り上げ、改憲ビデオの矛盾を追及したが、安倍首相は言行一致こそが政治と、突っ張り通した。

国民投票は19年参院選とのダブル⁉

 政治の局面を変えた安倍首相だが、蓮舫代表に言ってのけた言行一致の道のりは、そう簡単ではない。総裁公選規定の改正により、制度上、安倍首相は2021年9月までの続投が可能になる。しかし、自ら20年施行と期限を切ってしまったのだから、時間的な制約に縛られることになった。

 改憲発議に不可欠な、衆参両院での「3分の2」の勢力を維持しながら、発議のタイミングを計るという難しい作業が待ち構えている。

 国民投票は「政争と絡めるべきではない」との観点から、単独実施が定説だった。しかし、最近は財政コスト問題などから国政選挙と一緒に行う案も出ている。いずれも首相の判断次第という。

 国政選挙と絡める場合は、18年秋解散の衆院選が想定される。しかし、この時期は消費税の10%への引き上げ問題と重なるため、困難との見方が強い。

 そこで、永田町が本命視しているのは19年夏の参院選とのダブル投票だ。単独実施の場合は、19年夏の参院選前に発議し、19年秋から20年春の実施が濃厚と見られている。

 もちろん、国会の憲法論議が整うという条件がクリアされた場合の話である。国民の半数が改憲に納得していないという現状で、安倍首相が吹聴する言行一致は「絵に描いた餅」にすぎないのである。

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