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第83回 長谷川相談役就任で「日本型院政経営」へ移行か

第83回 長谷川相談役就任で「日本型院政経営」へ移行か
虚妄の巨城武田薬品工業の品行

 武田薬品工業は4月13日、会長の長谷川閑史が、6月の定時株主総会後に退任し、相談役に就くと発表した。社長の座をクリストフ・ウェバーに譲り、会長に就任してから4年と5カ月の任期だったが、同社によると当面、会長職は置かないという。長谷川が兼務していた取締役会議長は、社外取締役でコマツ元社長の坂根正弘が務める。

 また、武田は「クリストフ・ウェバー社長が成長戦略を着実に遂行する中で一定の区切りを付けた。本人が決断した」とコメントしている。しかし、長谷川が相談役に退いたとしても、社長経験者らが退職後、会社組織に影響力を持ち続ける、先進国ではあまり例が無い日本特有の企業文化がある。長谷川ほど権力志向の強い男が、おいそれと隠居を決め込むはずはない。今後も、院政を続けるだろうことは容易に想像がつく。

相談役・顧問が生む院政は「全て害悪」

 経済産業省がこのほど手掛けた、企業統治についての実態調査(対象・東京証券取引所1部、2部上場の約2500社)によると、回答社の77・6%もの企業が相談役や顧問を置いている。さらに、3分の1以上(複数回答)がこうした役職者が「現在の経営陣に対する指示や指導」、あるいは「経営計画や役員の人事案件についての助言」を行っているという。

 こうなると、新役員体制が整ったとしても、誰がトップとして責任を持って経営の舵取りをするのかという点が、結局ファジーになりがちだ。調査を担当した経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システム研究会」では、この種の役職が生む院政は「全て害悪」とする意見も出たようだ。

 すると武田は今後、そのような悪例をあえて社会に対し提示していくことになるのだろうか。もしそうなったら、長谷川が何かにつけて口にしたがる「グローバル経営」ではなく、今後は「日本型院政経営」とでも名付けられるべき用語を乱発するようになったとしても、不思議ではあるまい。

 長谷川は2003年に社長に就任したが、名実共に武田のトップになったのは、長谷川を社長に据えた創業一族の武田国男が最高経営責任者(CEO)の肩書きを外した06年からだ。現在のCEOは、武田に骨を埋めるつもりなど毛頭ないと誰からも思われている社長のウェバーだが、社内での重みからいって、長谷川の院政に邪魔な存在とはならないだろう。

 それに、スズキの鈴木修(87歳)や読売の渡邉恒雄(91歳)、イトーヨーカ堂の鈴木敏文(84歳)、キャノンの御手洗冨士夫(82歳)らのように、八十路をとうに過ぎても社内権力にしがみ付き続ける経営者は未だ珍しくないが、こうした連中に比べれば、まだ長谷川は「弱冠」70歳だ。今後、10年以上院政を敷くつもりでいても、何らおかしくはあるまい。

 だが、創業者でもない長谷川が会長職を離れても、「現在の経営陣に対する指示や指導」やら、「経営計画や役員の人事案件についての助言」やらに手を突っ込んだなら、「全て害悪」の例外的なケースになるとは思えない。社内の実権を完全に掌握した後、自身は創業一族・OBの影響を削ぐためか、やたらと外国人役員を招請しまくった長谷川だが、そもそも、それほど「相談役」として誇れるような存在なのだろうか。『日経』ですら、次のような辛口記事を掲載するのを忘れていない。

 「1兆円超を投じたナイコメッドの収益貢献も遅れている。期待していた新興国での販売拡大は思うような効果が出ていない。ナイコメッドの営業や経理の管理を武田薬品が徹底しきれていない。グループ内の連携を高め『高値づかみ』とも批判される投資を回収できるかは、長谷川氏が残した宿題の一つだ」(4月14日付朝刊)——。

 これでは会長にまで上り詰めていながら、未だ経営者としての評価は定まっていないのだと、冷たく宣告されたに等しい。おそらく、正鵠を得た指摘に違いあるまいが、『日経』はさらに、「長谷川氏は他社に先駆け同族経営からグローバル経営への転換に道を付けたが、製薬業界では世界10位前後とみられ欧米大手の背中は遠い。変革の続きは後進に託すことになる」として、この記事を終わっている。だが、問題は「託された」側にとって、その意義が自明に認められるような「変革」の中身だったのか、という点ではないのか。

再検討すべき長谷川「変革」

 もっとも、それより先に長谷川は15年、臨床研究データを不適切に使って、降圧剤ブロプレスの誇大広告事件を起こした際の最高責任者だ。戦後の薬事業界に悪名を残すだろうこの大不祥事で、武田は厚生労働省から業務改善命令を受けるという、創業以来234年の歴史に残る屈辱に甘んじ、長谷川自身もそのために日本製薬工業協会の副会長職を解任されている。それでも批判をものともせず、会長まで居直り続けたのなら、せめてそこを離れた後に、静かに余生を過ごすぐらいの謙虚さ、慎みはないのだろうか。

 それを長谷川に求めるのはないものねだりなのかも知れないが、どうひいき目に見ても、以下のように長谷川武田の足跡からは、粗が目立つ。

 ① 2兆円とされる潤沢な手元資金を、海外での相次ぐ企業買収でほぼ失う原因となった、それまでのブロックバスターに代わる新薬の開発の失敗。

 ② 海外企業買収戦略の、総合的評価から見ての未だ成功とは言えない結果。

 ③ 湘南研究所の3分の1に及ぶリストラに象徴される、社内技術者の冷遇とモチベーションの低下、及び自社独自の創薬能力の落ち込み。

 ④ 国内売上高と経営利益の、歯止めが掛からない低下——等々。

 これでは、外資でもないのに、執行役員15人中、外国人が3分の2を占めるという、他社にはあまり例がない異様な社内体制を含め、長谷川が手掛けた「変革」なるものの根本的な再検討が迫られるのは確実だ。

 だが、そこで「新相談役」が「指示」や「指導」「助言」に熱を入れ出したら、いったいどうなるのか。自分の敷いてきた路線に疑いの目を向けたり、修正を試みたりするような役員に対して、この「新相談役」が寛容であってくれる可能性は、ごく低いに違いない。 (敬称略)

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