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バイエル薬品

バイエル薬品
上高急就任のお祝いードに
水差しカルテ無断閲覧騒動」

 「バイエル、お前もか」の心境だ。「イグザレルト調査問題」である。周知のようにスイスに本拠を置くノバルティスファーマの日本法人によるディオバン事件、武田薬品工業のブロプレス事件に続いて、今度は独バイエル薬品も同様の事件を起こしていた。

 同社の医薬情報担当者(MR)が抗凝固薬「イグザレルト(一般名はリバーロキサバン)」の販売促進のために宮崎県日南市の診療所で患者のカルテを閲覧。それを基に医師名の論文を〝作成〟して発表し、その論文を自社の営業に利用していたと告発したのだ。

MRの告発で様々な問題が露呈

 MRの社内告発に対し、同社はコンプライアンス部門を中心に口封じを行っていたなど、会社ぐるみだった疑いが濃厚だが、バイエルにはディオバン事件に関わっていた元ノバルティス社員が転職、イグザレルト問題にも関わっていた疑いも囁かれている。

 発端はバイエルの宮崎営業所に勤務する54歳のMRの告発だった。民進党の川田龍平参議院議員やマスコミに「2012年から13年にかけて2回にわたり、イグザレルトを含む血栓症領域の製剤を服用する患者を対象としたアンケート調査で、営業担当社員と共に患者のカルテを閲覧した」というものだった。

 国会議員とマスコミに告発したのは「こういう違法行為を続けることに嫌気がさし、最初は労働組合に相談したら、社内のコンプライアンス室を紹介され、訴えたが、『カルテを見せた病院長とお前が悪い』と、相手にしてもらえなかった」からだという。逆に、会社からは退職を迫られる状態だった。

 問題の「調査」が行われたのは、バイエルがイグザレルトを販売した時期だった。最初は営業所長を通して本社から日南市の診療所でアンケート調査をしてくれ、という依頼だった。院長に承諾してもらい、看護師が患者に聞き取り調査を行い、180人のアンケート調査が集まったという。最初の調査はイグザレルト発売直前の12年2月から4月にかけてだった。

 MRの話である。「本社が用意したエクセルシートに、回収した180人のアンケート調査表を転記した際、本社から『患者背景を知りたい』とカルテを閲覧するよう求められた。院長の許可をもらい、病院の一室でカルテを見ながら、アルツハイマーや悪性腫瘍などの原疾患や併用している薬剤などをエクセルシートに書き込んだ」。

 1人では手が足りず、営業所長に手伝ってもらい、180人分の原疾患や併用している医薬品名を転記したという。バイエルとしては単なる背景だけでなく、イグザレルトのライバル品であるエーザイの「ワーファリン」やべーリンガーインゲルハイムの「プラザキサ」がどのくらい使われているかを探る目的が大きかったようだ。

 2回目はイグザレルト発売後の12年10月から12月。営業所長を通して同様の調査をするように指示され、再びカルテを閲覧してエクセルシートに転記したという。

 MRによれば、「この時期に営業所長が交代したため、新任の営業所長を誘い、診療所の一室で一緒に転記作業をしながら、『こういうことは違法ではないか。もう止めたい』と訴えたら、『本社がやってはいけないことを指示するはずがない』と、逆に作業を早く終えるように急かされた」と告白する。2回目の調査では、閲覧した患者数は210人に上るという。

会社ぐるみの計画的な行為か

 バイエルは「嗜好を調べるもので、臨床研究ではない」と説明していたが、資料は本社の手で論文に仕立てられ、院長名で学術紙に2回に分けて掲載されただけでなく、講演や宣伝に利用されたという。ノバルティスファーマのディオバン事件や武田薬品のブロプレス問題と同じである。

 日南市が選ばれたのは、高齢者人口に対して循環器の医療機関が少なく、調査には最適だったらしい。

 ちなみに、告発したMRはいい加減な人とは見えない。MR歴25年のベテランで、バイエルでは「専ら検査薬を担当していたが、調査が始まる1年前の11年に循環器部門に異動になったという。調査対象の診療所の院長と親しかったのが、担当替えの理由と見られる。

 バイエルはイグザレルト販促のためにカルテ閲覧、論文作成と本社ぐるみで周到に計画した行為だったことが窺える。

 実際、コンプライアンス室との遣り取りでは、複数のMRと所長がカルテを閲覧していたことを認めつつも身長、体重を転記しただけで違法ではないし、問題にすると告発者が処分を受ける可能性がある、と半ば脅しのような態度で不正を社内処理しようとしていたことも録音テープで明らかにされた。

 本来、コンプライアンス室は違法な行為を止めさせ、場合によっては社長の首が飛んでも、法律、社会規範を守らせる部署である。それをせず、告発者を沈黙させ、ウヤムヤにして終らせようとした行為は、告発の中身と共に問題である。

 バイエルは販促に利用した論文を「先生の名誉に及ぶ」と説得して取り下げを行う一方、「社内調査を行って事実を明らかにする」としている。だが、公正な事実調査をするなら、社内調査ではなく、外部の手による第三者調査」をすべきだろう。何となく騒ぎが納まるのを待っているようにしか見えない。

 バイエルは解熱・鎮痛剤の「アスピリン」を開発したことで有名だ。1863年にフリードリヒ・バイエルと染色技術者のヨハン・フリードリヒ・ヴェスコットがドイツの工業地帯のノルトライン・ヴェストファーレン州レバークーゼンに設立した「フリードリヒ・バイエル社」に始まる化学会社である。

 昨年、遺伝子組み換え種子で世界最大手の米モンサントを買収したことで話題になったように、医薬品から動物薬、農作物種子など事業は幅広い。日本には戦前から医薬品の他、染料や農薬などが輸入されていたが、戦後は1973年に輸入、販売に携わっていた吉富製薬(現田辺三菱製薬)と武田薬品、バイエル3社の合弁会社が設立され、01年に合弁を解消、独バイエルが完全子会社化している。

 バイエル薬品は主要開発品として循環器、腫瘍・血液、眼科、婦人科の四つの領域を掲げ、スペシャリティに徹している。

 同社の16年12月期の売上高は前年比4・8%増の2917億円。これは国内9位のノバルティスの3082億円に迫る数字である。07年12月期には売上高に占める特許期間中の新薬の比率は10%程度だったが、その後、新薬を次々と発売。16年12月期には新薬の比率が80%を超えたことで、売上高を急増させた。

 この躍進は、昨年12月にカーステン・ブルン氏の後任の社長に就任したハイケ・プリンツ氏を祝福しているかのようだった。

 しかも、バイエルは昨年、世界初のα線放出による骨転移のある去勢抵抗性前立腺治療剤「ゾーフィゴ」、血友病A治療薬「コバールトリイ」を発売し、年末に承認された月経困難症と子宮内膜症に伴う疼痛治療薬「ヤーズフレックス」と、続々と新薬が続く。売り上げ増はさらに期待出来そうなのだ。

 だが、同社の売り上げを支えているのは、カルテ閲覧事件を起こしたイグザレルトと、滲出型黄斑変性や黄斑浮腫などの治療剤であるVEGF阻害剤「アイリーア」である。イグザレルトの売り上げは641億円、アイリーアは531億円で、両製品で同社の売り上げの4割を占めている。

 もちろん、それ以外にも高脂血症治療剤「ゼチーア」や高リン血症治療剤「ホスレノール」、抗がん剤の「ネクサバール」、狭心症治療薬「アダラート」、血友病A治療薬「コージネイト」などがあるが、売り上げは減少気味で、イグザレルトとアイリーアが群を抜いている。

 特に、脳梗塞から命を救うワーファリンから始まった抗凝固剤の分野の売り上げは増加している。中でもイグザレルトは1日1回の服用で済む手軽さから評価は高い。

 だが、その裏でバイエルは患者の「背景を知るためのアンケート」と偽称して患者の個人情報を集め、しかも、取り消したとはいうものの、個人情報を基に論文を作成して医師の名前で発表し、論文を販促に使っていたのは明らかな不正行為であり、ディオバン事件の再発と思われた。

ディオバン事件の関係者が主導?

 実は、バイエルにはノバルティスでディオバンの事件の際にプロダクト・マネジャーを務めていた人物が移籍している。ノバルティスでは京都府立医大や慈恵医大の教授に統計解析者として元社員の白橋伸雄氏を紹介していたことで、東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けていた人物だ。

12年にバイエルに移籍し、イグザレルトのプロダクト・マネジャーとして事件を主導していた疑いが囁かれている。

 バイエルはホームページにいかにコンプライアンスを重視しているかを明記している。だが、ディオバン事件そっくりの「イグザレルト事件」を見る限り、コンプライアンスはまるで機能していない。

 コンプライアンス条項の中には「個人の利益より会社の利益を守る」というのがある。縁故採用などより会社のためになることを、というつもりらしいが、イグザレルト問題では内部告発から会社を守ることに徹したという事実に尽きる。

 今、バイエルは骨転移した前立腺がん治療にα線を使ったゾーフィゴの放射線廃棄物を巡り、処理場のある岩手県滝沢市の住民が受け入れ反対を叫んでいると報じられている。国内で放射性医薬品を処分出来るのは、滝沢市のラジオメディカルセンターだけだが、放射線量が強いα線の持ち込みに不安を募らせているという。

 廃棄物処理はバイエルには直接、関係は無いかもしれないが、この騒ぎも、地元住民より会社の利益の方が優先するとでも言うつもりなのだろうか。150年の歴史を持つ「世界のバイエル」の名前が泣く。

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