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日本初「卵子バンクで出産」が示す不妊治療大国の未来

日本初「卵子バンクで出産」が示す不妊治療大国の未来
者を操作供が能性も

 不妊に悩む女性の新たな選択肢となり得るのか──。日本初の卵子バンク「OD−NET(卵子提供登録支援団体)」(神戸市)が3月、匿名の第三者から卵子の提供を受けた女性が今年1月に女児を出産していたことを明らかにした。卵子バンクの仲介による出産は国内初めて。長年、病気のため自分の子供を持つことを諦めていた女性にとっては福音だが、国の動きは鈍い。ゲ↘ノム編集の技術が進めば、今に第三者を介さず遺伝子を操作した子供が産まれるかもしれないのに、生命の倫理とどう向き合うのか、国民的な議論は始まっていないのである。

 OD−NETが厚生労働省の記者クラブで喜びの会見を行ったのは3月22日の午後だった。会見に出席した全国紙記者は「OD−NETは他にも2人の女性が妊娠中であることを明かし、代表の岸本佐智子理事長は『やっとここまで来られた』と感無量の様子でした」と振り返る。

卵子提供者は無償のボランティア

 OD−NETが早発閉経やターナー症候群などの病気のため卵子が出来ない女性に、第三者の提供者を募って仲介する卵子バンクの設立を発表したのは2013年1月のことだ。精子提供が慶応大学病院などで長年行われてきたのに対し、卵子提供はこれまで、母子や姉妹、友人など近親者からの提供がわずかに行われてきただけだ。

 その理由について、都内の産婦人科医は「精子を採取するのは難しくないが、卵子を採取するには医療機関に行かなければならない。凍結、解凍したり、受精させた胚を子宮に戻したりするわけですから、不妊治療を行っている医療機関など、専門の施設でないと難しいのです」と↖解説する。

 採卵のリスクも問題だ。排卵誘発剤を注射する必要があり、卵巣が腫れるなど副作用が起きる可能性がある。採卵の際に針を刺すので、出血や感染症のリスクもある。自身の不妊治療であればこうしたリスクも引き受けられるが、OD−NETは卵子提供者を無償のボランティアとしている。報酬を出すと「卵子の売買」になってしまい、倫理的に問題だからだ。

 岸本理事長は当初、「提供者を探すのは難しいだろう」と予想していた。しかし蓋を開けてみると、ドナー募集を呼び掛ける会見を行ってわずか数カ月のうちに、「同じ女性として、子供を産みたい女性の力になりたい」などと数百件の問い合わせがあったのだ。

 OD−NETはドナーの条件を、既に自分の子供がいる成人女性(35歳未満)と限定している。一方の、卵子を提供される側(レシピエント)はというと、病気などで卵巣機能が無い女性に限っているが、広く募集したわけではない。

 OD−NETによる仲介で卵子の採取や人工授精を行う医療施設団体「JISART(日本生殖補助医療標準化機関)」の会員施設でこれまでに治療を受けた夫婦に限られていたのだ。

 実は、OD−NETが会見を開くのはこれが4回目だ。1度目は卵子バンク設立を発表した13年1月。2度目は同年5月、卵子の提供者になることを希望する女性が大勢おり、このうち3組をマッチングさせたと発表した時である。3度目は15年7月で、実際に2組に体外受精を行ったと明らかにした。

 「今回、出産が公表された女性の場合、15年7月にドナーから卵子を採取。ウイルス感染が無いかを確かめた後、16年4月に体外受精させた受精卵を移植したそうです。1度、流産をしたそうですが、同じドナーから体外受精させて凍結保存させた受精卵を再度移植し、出産に至ったようです」(全国紙記者)。

 国内1例目の第三者卵子での出産、となれば大ニュース。各社の担当記者は体外受精の知らせを受けてからの1年半、たびたびOD−NET関係者に探りを入れていたというが、「何かあれば会見しますから」と言われ続けたという。

 かくして、ようやく1例目の公表となったわけだが、岸本理事長をはじめ関係者は一様にホッとした表情を見せたらしい。

生殖医療にまつわる法整備は進まず

 ただ、設立会見から4年間、全く進んでいない課題もあった。それが、卵子提供などを含む生殖医療にまつわる法整備だ。日本の民法は精子や卵子提供について想定していない。出産した女性を母親とみなす最高裁の判例があるが、親子関係を明確に規定しているわけではなく、遺産や認知をめぐりトラブルが起きる可能性はゼロではない。

 記者は「岸本氏はOD−NET設立当初から法整備を求め続けていた。そのため、まるで進んでいない現状に焦りを募らせていた」と説明する。

 今回出産した1人と妊娠中の2人で、OD−NETのレシピエントはゼロになったという。卵子提供を待つ女性は今後も大勢現れることが想定され、会見では当然、今後の計画についても質問が飛んだ。

 だが、会見に出席した医師は「法制度が無い中、広くドナーを募集するのは難しい」と述べるに留めた。

 今回出産したのは早発閉経の女性で、出産を控えた2人はいずれもターナー症候群だという。

 しかし、第三者の卵子を希望するのは、こうした女性だけではない。晩産化が進む中、高齢に伴う不妊に悩む夫婦は確実に増えている。

 生殖医療に詳しいジャーナリストは「海外で行われる卵子提供の多くは、高齢のため自身の卵子で妊娠出来ない女性が対象だ。海外ではセレブ女性の50代の妊娠などがニュースになるが、そのほとんどが第三者から提供を受けた卵子と想定される」と話す。

 日本でも、女性たちの一部は海外で卵子提供を受け、帰国して出産しているとされる。母親が実際に分娩する卵子提供は、精子提供に比べてトラブルは少ないとされるが、それでもリスクはある。子供に先天的な病気があった場合などのトラブルや、子供の出自を知る権利などに応える法的な枠組みは国内には何もないのだ。

 さらに、そう遠くない未来には、遺伝的な病気を受精卵の段階で〝修復〟した上で、母胎に戻す「ゲノム編集」の技術が出てくるだろう。

 現在は世界的に臨床応用されていないが、関係者は「倫理があってないような中国などで臨床応用されたとしてもおかしくはない。様々な科学の発展がもたらす生命倫理という大きな命題に、国は何も応えていない」と怒りを顕わにする。

 そして、こんな問題提起をするのだ。

 「日本ほど多くの不妊治療がなされている国はない。意外にもゲノム編集には難しい技術は不要で、市中病院でも十分に可能だといわれている。子供を願う人達の思いに応えたいと考える産婦人科医が現れたとして、それを責められるだろうか」

 子供達が安心して成長することが出来る環境を整えるのは、国と国民の責務だ。

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