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日医会員に広がる「国が医療経営に口出し」する不安

日医会員に広がる「国が医療経営に口出し」する不安
の結果次第倉執行部批判

 「が国の優れた医療制度を、世界が経験したことのない高齢社会の安心モデルにまで高め、世界に発信していきたい。そういう思いからの挑戦だった」。日本医師会(日医)の横倉義武会長は3月26日の日医臨時代議員会で、10月から就任する世界医師会会長に立候補した動機をこう説明した。

 そして横倉氏が強調したのが、かかりつけ医の普及と定着であった。「日医を挙げて取り組むべき最大の課題」と位置付けたのである。

 横倉氏がかかりつけ医の普及に力を入れることについて、日医関係者は「横倉会長は来年の診療報酬・介護報酬のダブル改定に向けて、『物から人への財源移転』を政府に求めている。かかりつけ医の普及は、地域医療には地域の人々に信頼される医師が不可欠であり、『人』への投資をしっかりしなければ地域医療は守れないという実情を政府に理解してもらうためのメッセージでもある」と語る。

総合診療専門医に対する警戒

 これに対して、厚労官僚OBの見方は少し異なる。「地域包括ケアシステムを全国に構築していくには、地域で活躍する医師の存在が不可欠であることは事実だが、背景には日医を取り巻く環境が厳しくなっていることへの危機感がある」との指摘だ。

 「地方の日医会員には、新専門医制度における総合診療専門医を警戒する声が少なくない。高齢者が多くなり多様な疾患を持つ患者も増え、臓器別だけでなく総合的に診察出来る力量が求められるようになったことは間違いないが、総合診療専門医に認定されなければ、かかりつけ医として認められないという流れを↖警戒しているのだ。地域医療の現場はベテラン医師が多い。『いまさら専門医なんて』との空気もある」と説明した。

 厚労行政に詳しい自民党議員OBが解説を加えた。「新専門医制度の議論においては、研修先となる基幹病院になるのは現実的には大学病院のようなところであり、指導医も含め多くの医師が都市部に集中することへの懸念があった。地域で頑張っている医師達にすれば、総合診療専門医が求められることになれば、ますます若い医師が地方に残らなくなり、地域医療が立ち行かなくなるとの思いがある」というのだ。

 前述の日医臨時代議員会では新専門医制度に関する懸念の声が上がり、横倉氏は「総合診療専門医とかかりつけ医を明確に区分したい」との回答を迫られた。

 これに関して日医関係者は「専門医は医師の生涯にわたる自己研鑽の一つにすぎない。全ての医師が専門医になる必要はなく、地域医療に携わるには医学的側面のみならず、地域包括ケアシステムの構築など社会的役割も果たさなければならないということだ」と理解を求めるように語った。

 だが、永田町関係者は「国家による口出しを阻止したいのが、日医の本音だろう」と推測する。「日医が専門医とかかりつけ医とのリンクを極度に気に掛けるのは、地域医療への国の介入を許す突破口に繋がると見ているためだ。政府内では、医師の地域偏在の解消には診療科の自由標榜や自由開業を制限するしかないという意見が相変わらずくすぶっている。総合診療専門医に限らず、医師に新たな資格・要件を課せば、診療報酬によるコントロールがしやすくなる。管理医療に持っていきたい厚労官僚などが考え付きそうなことである」との指摘だ。

 一方、別の政界関係者は「政府は医療費抑制の狙いから急性期病床を削減する地域医療構想を進めているが、地方医師会の強い抵抗が予想され、展開が描き切れていない。財務官僚辺りが状況の打開に向け、『協力してもらえないのなら、医師に何らかの制約を課す』というブラフを仕掛けようとしているのだろう。政府の一部には新専門医制度を将来的な医療費抑制のツールにしようとのアイデアもあるようだ」と明かした。

 こうした見立てについて、地方医師会の幹部は「安倍政権は何らかの法的な規制によって管理医療に持っていきたいということなのだろう。新専門医制度を医療費抑制に結び付けるのも、十分にあり得る話だ。新専門医制度がスタートしたからといって、直ちにどうなるという話ではないのだろうが、格好の標的にされているのだろう」と警戒する。

 「横倉会長は『高齢社会を乗り切るためには、かかりつけ医を普及させなければならず、総合診療専門医を要件にしたのでは、普及は進まない』という論法で押し切る作戦のようだが、これでは大した時間稼ぎにもならない」との苦言だ。

医療政策に「ノー」と言わない横倉日医

 横倉氏と距離を置く日医関係者は「財務省は、次なる医療費抑制策の目玉として、かかりつけ医以外を受診した場合の『受診時定額負担』の導入を目指している。横倉会長は『未だ多くの国民はかかりつけ医を持っておらず、現時点で導入したら後期高齢者診療料を導入した時のような混乱を招く』と安倍晋三首相に直談判したと聞くが、かかりつけ医の普及に全力を挙げるというのは、『受診時定額負担を導入する環境を整えます』と言っているようなものだ」と批判する。

 そして「横倉会長は安倍政権の医療政策に『ノー』を言わないことで、日医会長の再選を重ねてきた。だが、管理医療に対しては、はっきり『ノー』を言わなければならない。曖昧な姿勢では辻褄が合わなくなり、いずれ身動きが取れなくなる」と突き放すように語った。

 かつて日医の幹部を務めたベテラン医師は「日医の会員には、病床削減や地域偏在の解消に名を借りて、国家が医療経営にまで口出ししてくることへの不安と嫌悪感が広がっている。ところが、横倉執行部が毅然とした態度に出ないので不満が募っているのだ。新専門医制度への危機感も将来に対する漠然とした不安の表れだ。来年の診療報酬改定は改定率もさることながら、その中身も含めた結果を出せないと横倉執行部への批判が一気に噴出するだろう」と予測する。

 これに対し、横倉派の地方医師会幹部は「安倍政権も、世界医師会会長になった横倉さんに恥をかかせるわけにはいかないだろう。管理医療への動きも横倉会長の在任中は大きな動きはないと思う。診療報酬改定も落ち着くところに落ち着く」との楽観論である。 

 だが、厚労省幹部は「予定通りならば2019年10月に消費税率は10%に上げられる。財務省としては予算編成が厳しいということを安倍官邸に見せなくてはならず、診療報酬改定も医療費抑制策も相当厳しい態度で迫ることになるだろう」と反論する。

 横倉執行部は新専門医制度を医療費抑制に結び付けようという、政府内の〝思惑の芽〟を摘むことは出来るのか。6月には来年度予算編成に向けた骨太方針がまとまるが、当面、関係者の腹の探り合いが続きそうだ。

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