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第103回認知症ケアの質上げるため学際的交流 専門士育成や外国との協力も推進

第103回認知症ケアの質上げるため学際的交流 専門士育成や外国との協力も推進
認知症患者自身もつらいが、世話をする家族も疲弊するケースが増えている。認知症患者のケアの質をいかに上げていくか。今井幸充・日本認知症ケア学会理事長に認知症ケアに対する取り組みや今後の展開を聞いた。

どのような学会か教えてください。

今井 2000年に立ち上げました。学会の目的は、認知症高齢者のケアに関する学際的な研究を推進し、ケア技術の教育や社会啓発活動などを通じて、質の高い認知症ケアを実現し、豊かな高齢社会の創造に資することです。発足したのは介護保険が始まった年で、認知症ケアも注目されていました。最初に集まった会員は約300人。お互いに研鑽を積み、それぞれの事例を出し合って、意見を交換し合うというスタンスで取り組み、現在、会員は約2万8000人まで増えました。医師や看護師もいますが、介護福祉関係の方も大勢います。

発足から、社会の変化はありましたか。

今井 当初の学会の大きなテーマの一つに、いわゆる問題行動と呼ばれた行動心理症状の対応がありました。施設でどのように入所者を介護していくかという具体的な状況への対応です。03年に厚生労働省老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会がまとめた報告書の題名に「高齢者の尊厳を支えるケアの確立」という文言がありました。内容としては、痴呆性高齢者の特性や状況、ケアの基本を踏まえて、ケアの普遍化や地域での早期発見、支援を仕組むことの必要性が訴えられています。この頃から高齢者介護に「尊厳」ということが言われるようになりました。国の施策で打ち出されたのは意味があることで、翌年には痴呆という言葉が侮蔑的として認知症に改められました。それらを受け、施設では拘束や隔離という身体拘束を禁止するようになりました。当時はまだ仕方ないという考えもありましたが、人権侵害、人権擁護の問題として捉えられるようになりました。ちなみに当院では身体拘束は一切していません。認知症になった人は、周りから見ると「その人が失われる」といった表現になります。しかし、本人のマインドはその人そのものなのです。認知症が進んでいくことへの不安も恐怖もありますが、一方で解決出来る能力が落ちています。認知症になっても、その人の価値が奪われるわけではありません。

薬効に伴いコミュニケーションが深化

治療面での状況はいかがですか。

今井 1999年にアリセプト(一般名ドネペジル)が承認されたことで、完治は望めないが進行は抑えられるという効果が期待出来るようになりました。この薬の登場は別の効果も生みました。患者と医師とのコミュニケーションが深まったのです。薬をもらいに月1回来院することで、患者とその家族は様々な訴えを行う機会を持つことが出来るようになりました。患者は気が落ち着くのか、顔色が良くなって帰宅します。彼らをどう支えていったらいいかを考える医療が求められます。

政府の認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」のポイントと思われる点は?

今井 「新オレンジプラン」には7本柱がありますが、その中の大きな目玉として「住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けるために必要と感じていることを調査し、意見を集めて実施していく」というものがあります。地域との連携が大切になり、認知症患者を医療、介護保険サービス、社会資源と連携しながら、どう支えていこうかという取り組みが進んでいる状況です。認知症は生活障害を来す病気です。生活支援が必要になっても安全・安心に住まう場所を考えることが第一の課題となります。では、それはどこかというと、在宅もあり得ますが、例えば若い夫婦が4人の親の面倒を見ることは経済的にも労力的にもかなり難しいのが現実です。また、介護施設よりも自立型施設でサポートしていこうという考え方もあります。介護が必要になったら介護施設に移ろうという姿勢です。在宅支援型施設は非常に多くなりました。

認知症ケアの専門家の育成は?

今井 「認知症ケア専門士」という資格を設けています。介護経験が3年あれば受験可能で、基礎、社会資源など4教科で各70点以上取れば、2次試験に進みグループディスカッションを行います。毎年1万人前後の応募があり、合格率は約50%。厳しい試験のため、合格した専門士のモチベーションはとても高いものがあります。エピソードとして、熊本地震で認知症ケア専門士会が先頭を切って安否確認したということがありました。今後は、各施設において、専門士を十分に活用して質の高いケアをしてもらうことが課題です。

国際活動も行っていますね。

今井 国際認知症教育機構(IFDC ;Interna-tional Federation of Dementia Care)を15年に組織しました。現在の参加国はフィリピン、インドネシア、台湾、韓国、日本で、「認知症ケアの教育をどうするか」が大きなテーマです。認知症ケアに対する考え方は各国でそれぞれ違います。台湾では専門職を作りたいということで、先般、初めての認知症ケア専門士の試験を行いましたが、問題文は日本での試験問題を英訳したものを使いました。指導というのではなく、協働していこうという姿勢です。

子供に気付かされる認知症への偏見

ユニークな取り組みはありますか。

今井 2014年から毎年大会時に小中学生の作文コンクールを行っています。子供の目は認知症をどう見ているかを知るとともに、学会として子供が認知症や高齢者を考える機会を与えられないかという観点もありました。子供達はよく見ています。大人は「治らない」「何を考えているか分からない」「何も考えてない」などと決め付けますが、子供達の作文からは「優しくしてくれる」「話していると楽しい」「庇ってくれる」といった表現が多く見られました。子供がそのように捉えているというのは我々にとって非常に勉強になります。偏見があると、いかに患者への対応を誤ってしまうかということが、身につまされて分かります。また、教育現場で認知症を知っている人は少ないのが現状なので、優秀な作文を冊子にまとめて各教育委員会にも配ろうと思っています。

学会の今後の展望をお願いします。

今井 医療界の学会は、参加した人のスキルを高めるという目的がありますが、この学会にはそれにプラスして、患者本人の生活の質の向上というテーマもあります。医療だけではない生活に関わる部分も見なければならず、学会員がリーダーになって地域を支えることが重要になってきます。この学会の特徴である「アカデミックであるとともに地域にどう貢献していくか」ということを頭に入れて活動することが求められます。また、ケアをする家族の不安はどう解消できるかということも考えなければなりません。家族へ向けたサービスはどのように展開するのが効果的なのか、新しい取り組みを始めています。

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