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政府が今になって認めた旧国鉄「分割・民営化」の失敗

政府が今になって認めた旧国鉄「分割・民営化」の失敗
がリニ海道懸念

 「物も入れて7分割して、これが黒字になるか。なるのは三つで、他のところはならないと当時からみんな言っていたんです。鉄道関係者なら例外なく思っていましたよ。分割も反対、みんな突っ込みでやるべきと」——。

 これは2月8日、衆議院予算委員会での麻生太郎・副総理兼財務相の答弁だ。国鉄が解体され、「分割・民営化」でJR7社が発足してか↘ら4月で30年を迎える前に、財務大臣からこのような認識が示されたことは驚くべきであろう。政府が自ら今になって、「分割・民営化」は事実上失敗であったと認めたのだから。

 麻生は答弁で、「JR九州の全売上高がJR東日本品川駅の1日の売上高と同じ。はい、知っていた人は?ほとんど知りませんよね。JR四国は幾らですかといったら、田町駅と同じなんですよ、売上高が。1日の売り上げだよ。それは勝負になりませんがな」とも指摘。「(分割・民営化は)国鉄という商売の分かっていない方で、やはり学校秀才が考えるとこういうことになるんだという典型」だと、こき下ろしている。

JR北海道は「惨状」の象徴

 JR7社の経営状態を見れば、恐らく麻生の答弁は決して的を外れてはいまい。だが、「分割・民営化」が起因して約200人の国鉄職員が自殺し、国鉄からJRに雇用されず事実上の解雇処分を受けて「国鉄清算事業団」に送られた数が7628人。さらに、3年後の同「事業団」解散後もJR採用を求めて拒否された職員が1047人にも上った凄惨な経過を見ても、麻生は気軽に「経営が分かっていない人がやるとこういうことになる」などと言えるのか。

 そして、30年経った「分割・民営化」の惨状を象徴しているのがJR北海道だろう。3年の間に社長経験者が2人自殺しているが、2016年3月期の決算書によれば、鉄道事業での営業損失は483億円に達し、22億円の経常損失を計上した。17年3月期決算は営業損失が533億円、経常損失は235億円へとさらに悪化する見込みだ。

 すでにJR北海道は、社として毎年400億円の営業赤字を計上し、170億円以上の経営赤字を出し続けるとの見通しを発表。「早晩企業として事業の継続が出来なくなり、鉄道サービスを提供するという当社の使命を果たすことが出来なくなってしまう」と、もはや展望が喪失した現状を認めている。

 さらに同社の島田修社長は昨年11月、「自力では鉄道の維持が困難な線区」が、営業している2568・7㌔㍍中、半分に等しい1237・2㌔㍍あると公表。そうした線区の扱いを「道や沿線自治体、国などと協議したい」と、事実上サジを投げた。国からの支援を含め打開策は現在まで絶望的で、このままだと北海道の鉄道は東部・北部から消滅し、明治時代に逆戻りする。

 これほどの重大事が北海道以外でさしたる報道もないのは、「分割・民営化」の答申を出した第二次臨時行政調査会(第二臨調)の会長だった土光敏夫の「人気」にあやかってか、大手メディアが全てこの「分割・民営化」を「国鉄改革」と同一視して翼賛・推進したからだろう。麻生が認めたように、北海道で単体としての鉄道事業体が成り立つ条件は最初から無かったにもかかわらずだ。

 だが、公共の鉄道事業を巡る別の破綻が既に用意されているという事実に対しても、大手メディアの反応は鈍い。黒字3社の一つ、JR東海が計画している、「リニア中央新幹線」のことだ。安倍晋三首相はこれを「成長戦略の目玉」扱いしているが、この計画を精査すればするほど、「分割・民営化」と同様の取り返しのつかない巨大な失敗となる可能性が浮かんでくる。

「リニアは絶対にペイしない」

 JR東海の葛西敬之名誉会長が、「国のカネでつくると実現に時間がかかるし、政治介入を招く。経営の自主性を守るために自己資金でリニアをつくることを決断した」と書いた自著『国鉄改革の真実』を発刊したのは、07年のこと。だが、13年9月の記者会見で、JR東海の山田佳臣社長(現・会長)は「リニアは絶対にペイしない」という趣旨の発言をし、社内でも異論のある内情を窺わせたが、国土交通省は翌14年10月、「会社の資金繰りに問題はない」として、JR東海が申請していた品川—名古屋間のリニア中央新幹線の工事実施計画を認可した。

 ところが16年6月になって、安倍首相は突如、「リニア建設に財政投融資を活用する」と発表。しかも、本来は政府系特殊法人の「財投機関」しか融資されないはずであったのに、同年10月にろくな議論もないまま、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」への融資を可能とするための法改正が国会で成立し、JR東海は同機構を通じて計3兆円の融資を受けられることになった。しかも「無担保」「年利0・6〜0・8%」「据置期間30年」という、破格の条件でだ。

 これでは、公的資金を使った一企業への経営支援に他ならない。安倍首相は、リニア建設が「国家的プロジェクト」「大型公共事業」だとして3兆円の融資を正当化しているが、「分割・民営化」を強行した中曽根内閣と同様の杜撰さだ。

 まず、品川—名古屋間のリニア開業は2027年が予定されているが、本格着工には至っていないにもかかわらず、開業に必要とされる5・5兆円のうち会社が工面できる2・5兆円の残り3兆円が、異様な緊急ぶりで融資された。しかも、3兆円で収まる可能性は低い。工事自体、南アルプスの地下にトンネルを通す超難工事となり、発生する5700万立方㌔㍍もの建設残土の処分先が決定しているのは2割弱。それ以前に、必要な道路の拡幅工事や車両の重量制限をクリアするための補強工事が果たしてどれだけの負担になるか、ほとんど知られていない。

 前述の麻生は昨年10月の衆議院予算委員会で、45年に大阪まで延長される総経費とされる計9兆300億円の工事費見積もりが妥当なのかどうかに関し、「それまで生きている保証がありませんので、何とも分かりません」と放言した。これでは融資額3兆円の根拠も怪しく、「大型公共事業」の常として当初の工事費・採算の見積もりが狂っても、ズルズルと税金を投入するこれまでの悪癖が繰り返されかねない。旧国鉄の放漫経営と、どう違うのか。

 JR東海が09年12月に国交省に提出した調査結果では、リニアによる年当たりの増収2720億円に対し、維持費・設備更新費は計4290億円もかかる。「絶対にペイしない」のは当然だ。しかも、JR東海の収益の9割を稼ぐ東海道新幹線は、人口減で60年までに需要が3〜4割減少することが見込まれている。未だ実用化に数々の疑問が残るリニアに何兆円も投じたら、JR東海が第二のJR北海道になりかねない。もうこの国には、「失敗の学習効果」は残っていないのか。 (敬称略)

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