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未来の会

第82回 「グローバル」以前に「ドメスティック」が課題

第82回 「グローバル」以前に「ドメスティック」が課題
虚妄の巨城 武田薬品工業の品

 2016年の医療製品の「販売会社」の売り上げでみると、売上のトップは常連の武田薬品で6829億円(0・4%増)。2位は、前年3位から上昇した第一三共で6327億円(2・6%増)、3位は前年2位のアステラス製薬で5982億円(7・1%減)となっている。

 もはや業界「盟主」の武田と2位の第一三共の差は、500億円程度に縮まっている。しかも17年第3四半期時点では前期比7・0%の減というから、このままのペースでいけば、「盟主」交替がいよいよ現実味を帯びてくるといえる。

 しかもよく指摘されるように、武田の凋落は売上高のみが示しているのではない。かつての盤石な財務体制を誇った時代は遠くなり、利益率の低下に歯止めがかからないのだ。2010年3月期には34%あったものが、翌12年には17・5%に半減。12年は8・2%、13年は9・7%、14年は6・5%、15年はマイナス8%を記録し、16年は4・6%と、過去10年間で2年続けて最低水準に落ち込んでいる。

国内市場の路線が不明瞭

 これも、派手に繰り返される外国企業の買収のための支出増と無縁ではないが、そもそも国内市場でこれからどうしたいのか、今ひとつ路線が明らかではない。武田の場合、売上高自体、右下がりではないが、国内医療用医薬品に限ると売上高は12年以降、顕著に落ち続けている。無論、国内市場自体の環境が厳しくなっているのだが、「グルーバル経営」が叫ばれる一方で、国内の戦略不在が際立つ。

 ただでさえ、政府にとって高齢化社会でかさむ一方の医療費の削減が「国策」となり、特例拡大再算定の導入等、薬価制度の見直しが相次いでいる。それが各社にとって先行き不透明感をもたらし、さらに後発品(ジェネリック)の急速な拡大も頭痛のタネになっている。そうした環境への対応策に関して、武田の掲げる「グルーバル経営」が、何らかの回答を用意しているとは誰しも思ってはいまい。

 例えば、薬効領域別での市場規模で見た場合、トップはこれまでと同様に抗腫瘍薬で売上9582億円。そこで健闘が目立つのは、中外製薬の血管新生阻害薬「アバスチン」や、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」、そして日本イーライリリーの抗悪性腫瘍薬「サイラムザ」で、こちらは16年度に売り上げ4倍増を達成した。

 2番目は、全身性抗ウイルス剤市場で6080億円。市場を牽引するトップ製品は経口C型肝炎治療薬であるギリアド・サイエンシズの「ハーボニー」。それに次ぐ売上増を誇ったのが、アッヴィ合同会社の経口配合剤「ヴィキラックス」だ。

 3番目が、糖尿病治療薬市場で売上5232億円。ここでのトップ製品は、MSDのDPP−4阻害薬「ジャヌビア」。さらに同種の日本ベーリンガーインゲルハイムの「トラゼンタ」、第一三共の「テネリア」、ノバルティスファーマのメトホルミン製剤との配合剤「エクメット」といったところが有力となっている(以上「ミクスOnline」参照)。

 こうして見ると、国内薬品市場のベスト3に、武田の有望商品が不在である現実に気が付く。業界「盟主」としては何とも寂しい光景ではないか。糖尿病治療薬に到っては、武田のクリストフ・ウェバー社長が「選択と集中」と称して撤退し、稼ぎ頭の一つだった「アクトス」の継続商品開発に失敗して、今やパイプラインが枯渇状態だ。その「選択と集中」とは、経営資源を「がん」「消化器」「中枢神経」に特化することらしいが、国内の抗腫瘍薬市場でも、さしたる商品が見当たらないということになる。

 そもそもこうした体たらくに陥ったのは、武田にうなるような余剰資金をもたらした、年間1000億円以上の売上高を持つブロックバスターであるアクトス以下、「タケプロン」(抗潰瘍薬)、「ブロプレス」(高血圧薬)、「リュープリン」(前立腺がん薬)という切り札が、既に消えているからだ。これらの商品はいずれも1990年前後に特許出願されているため、特許が切れる20年後に備えた新商品のラインアップが課題であったのは自明だったろう。

莫大な研究開発費投じても失敗

 武田がそのために90年以降、計4〜5兆円もの莫大な研究開発費を投じてきたのは、業界では周知の事実だが、これがものの見事に失敗したのだ。いくら業界「盟主」とはいえ、ギャンブルに例えれば実に凄まじいまでの「負けっぷり」だ。実際、武田で何とか大型製品となりそうな期待がある「エンティビオ」(潰瘍性大腸炎治療薬)にせよ、「ニンラーロ」(多発性骨髄腫治療薬)にせよ、08年に8800億円という巨費で買収した米ミレニアム社の創製品に他ならない。

 だが90年以降といえば、武田は2011年2月に、「国内最大規模」で「武田の研究の総本山」とされた湘南研究所(神奈川県藤沢市・鎌倉市)が竣工していたはずだ。そこでは当初、研究所設立の音頭を取っていた武田現会長の長谷川閑史が、「アンメットメディカルニーズを満たす新薬を少しでも早く、多く作り出す」と豪語していたのが記憶に新しい。

 ところが何と、それからわずか2年後の13年6月、武田の医薬研究本部(PRD)はマネジメントのポストを2割も削減し始めた。さらにそれから1年の間に、推定で約100人がPRDを去ったという。本誌ですでに述べてきたように、“総本山”の湘南研究所は今や研究員約1000人のうち、移動や転籍、退職等で3分の1を削減する予定となっている。

 武田のR&D(研究開発)ヘッドの米国人で、チーフ メディカル& サイエンティフィックオフィサーのアンドリュー・プランプは、「武田のR&Dの生産性は平均以下」というのが持論のようだが、R&Dがコストダウンを狙ったリストラをしても、「新薬」を生み出すかどうかは全く別問題だ。もはや、やっていることの全てにちぐはぐ感が否めない。

 これまで武田は手っ取り早く「新薬」を揃えるため、前述のミレニアムやナイコメッドといった外国企業の巨額買収に血道を上げ、限りなく余剰資金を使い果たしてきた。それでも、国内市場の不振は否定しようがない。武田が直面している喫緊の課題は、「グローバル」以前に「ドメスティック」(国内)ではないのか。 (敬称略)

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