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社会保障の信頼かさに投資家欺いた「レセプト債」事件

社会保障の信頼かさに投資家欺いた「レセプト債」事件
療保ワードに

 レセプトといえば医療機関には馴染みが深いが、それが債券化されて販売されていることを知っているとすれば、なかなかの金融通だ。診療報酬を受け取る権利を証券化した金融商品「レセプト債」を販売していた証券会社・アーツ証券(東京)の元社長らが2月、金融商品取引法違反(偽計)などの容疑で千葉地検に逮捕された。国によって保証されている「診療報酬」の信頼性を担保に食い物にされた投資家らは、各地で損害賠償請求訴訟を提起。刑事事件化により事件の全容が判明するか、固唾を飲んで見守っている。

 「国の社会保障制度の信頼をかさに着た詐欺的行為という点では、多額の年金資金を消失させた2012年のAIJ事件を彷彿させる事件だ」と経済ジャーナリストは語る。

 千葉地検に逮捕されたのは、アーツ証券元社長の川崎正(63歳)、同社元取締役の江連昌一(56歳)、ファンド運営会社・オプティファクター元社長の児泉一(36歳)の3容疑者だ。3人はオプティ社が運営するファンドが発行したレセプト債を虚偽の運用実績を示して複数の証券会社を通じて販売した疑いが持たれている。「川崎容疑者らは『レセプト債は他の金融商品に比べて安全性が高い』などと説明して販売したが、投資家から集めた資金はほとんど運用されていなかった」(全国紙記者)。

 レセプト債は一般的に安全性の高い金融商品とされている。民間保険に頼る米国と異なり、日本では医療機関が健康保険組合などに請求する診療報酬は、不正請求で無い限りほぼ全額が支払われるからだ。ただ、請求から支払いまでには2〜3カ月かかり、現金をすぐ必要とする医療機関にとって、この時間差が経営を苦しめる。レセプト債とは、ファンドがこうした医療機関側の請求権を割安で買い取り、実際の診療報酬との差額による収益を投資家に配当として支払うことで成り立っている。

集めた約230億円が償還不能に

 本来なら安全性が高いはずの金融商品が、なぜ事件につながってしまったのか。全国紙記者が解説する。

 「問題となったレセプト債は04年以降、アーツ証券など証券会社7社を通じて2470の法人、個人に227億円分が発行された。ところが、レセプト債ファンドを運用していたオプティ社が15年11月に東京地裁に破産を申請。ずさんな運用実態が露呈したのです」

 オプティ社が運営するファンド3社が実際に医療機関から買い取って運用していたのは23億円に留まっていた。投資家から集めた金の一部が私的に流用されていた恐れもある。

 オプティ社が破産申請した3カ月後、アーツ証券も東京地裁に破産申請。その直前に、証券取引等監視委員会はアーツ証券に債務超過を隠して商品を販売したとして金商法違反(虚偽告知など)で行政処分を勧告していた。これを受けて金融庁は同社の金融商品取引業の登録を取り消し、監視委は同社やオプティ社、関係先を強制調査。今年2月、監視委の刑事告発を受けた千葉地検が関係者を逮捕したという流れだ。

 前述の経済ジャーナリストによると、今回の事件はアーツ証券だけでなく全国の証券会社が販売をしていたことで被害が拡大したという。「アーツ証券は03年に外資系証券会社のOBらが設立した会社で、当初から地方の中小証券会社に商品を紹介する形の営業が多かった」とこのジャーナリストは語る。自前で顧客を増やすのが難しく、地方の販売網を手っ取り早く利用した格好だ。

 こうした事実を受け、日本証券業協会は2月15日、商品審査をほとんど行わずにレセプト債を販売したなどとして、北海道から沖縄までの証券会社8社に過怠金を科す処分を発表。「地方の中小証券会社は地縁や血縁をフル活用して顧客を獲得する。断れない状況の中、さらに医療保険や病院などといった信用性の高いキーワードで安心感を与える勧誘手口で被害を拡大させた」(経済ジャーナリスト)。

 特に多くの証券が販売されたとされるのが愛知県田原市の田原証券だ。被害者の中には「東京の病院が全部潰れない限り大丈夫」「年利4%近い配当が得られる」などと説明を受けたと話す人もいる。全国紙記者は「地方の証券会社も国の医療制度が保証してくれる、など安心感を謳って多額の資金を集めていた」と話す。

診療報酬請求権買い取りに四苦八苦

 アーツ証券が巧みな勧誘で全国に販売網を広げる一方で、オプティ社は診療報酬の請求権を販売してくれる医療機関の獲得に苦労していたようだ。医療関係者によれば、「確かに医療機関は立て替えや医療機器の購入などでまとまった資金を調達する必要がある。しかし、通常は金融機関から借り入れるわけで、診療報酬請求権を格安で売るなどというのは、金融機関から借り入れができないほど資金繰りが苦しい医療機関ではないか」という。

 他の見方もある。経営が安定している医療機関も請求権を売ることがあるが、そうした医療機関には大手証券会社が先に手を出しており、「オプティ社が買い取れるのは、大手が手を出さなかった危ない医療機関ばかりだった」(担当記者)というものだ。なかなか請求権の買い取り先が増えないことから、「まだ発生していない将来の診療報酬に対しての請求権を買い取ることもあった」(同)という。

 実際に、オプティ社の関連会社が請求権を買い取った医療機関が数カ月後に潰れた例もあった。「病院が潰れない限り大丈夫」などと勧誘しておきながら、実際には潰れる恐れのある経営が苦しい医療機関から買い取りを進めていたのが今回問題となったレセプト債というわけだ。

 では、事件の今後の捜査はどうなるのだろうか。「千葉地検は3月、金融商品取引法違反(偽計)と詐欺の疑いで川崎、児泉両容疑者を再逮捕。全容解明は先だが、被害額は億単位で、裁判では長期間の実刑となる可能性も高い」と担当記者は話す。

 だが、投資家にとってみれば、投資した金が返ってくるかが最大の関心事だ。これについては「各地で弁護団が結成され、集団訴訟が起こされている。しかし、肝心のオプティ社は破産してしまい、資産はほとんど残っていなかった。破産申請時の申立書では、海外のグループ会社や関係先に多額の資金を供出している痕跡もあった。どこまで資金が回収出来るかは分からないが、被害者の手元にはほとんど戻って来ないのではないか」(同)。

 田原証券など地方の身近な証券会社を信用してしまった被害者については、「田原証券からレセプト債を購入していれば損倍請求先はまずは田原証券となる」(事件に詳しい弁護士)という。ただ、こうした証券会社が運用や商品の組み立てをしていたわけではなく、どこまで責任が認められるかは不透明だ。

 この国の医療制度を信じた結果、被害者は信じられない結末を見せられたのである。

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