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「厚労省弱体化」で医療産業への関与図る経産官僚

「厚労省弱体化」で医療産業への関与図る経産官僚
会迎え求められ「国民

 「生労働省の連中は、やる気が無いとしか言いようが無い。出来ないならば、我々が主導して改革を進めるだけだ」。自民党商工族中堅議員が冷やかに語った。

 やり玉に挙げたのは、内閣官房「健康・医療戦略推進本部」の協議会で検討が進められてきた次世代医療ICT基盤の構築構想である。

 現行では、医療情報というのは患者本人の承諾を得た上で記名情報として活用出来るデータと、医療機関ごとに匿名加工した情報を本人の承諾無しに利用出来るデータが混在している。

 医学研究や医薬品開発でデータを活用する際、医療機関ごとに匿名加工しているデータでは、複数の医療機関にまたがって受診している患者の病歴を追跡することが出来ず、極めて使い勝手が悪い。そこで、国の認定を受けた代理機関を設け、複数の医療機関から記名の医療情報を預かって名寄せし、患者ごとの情報として匿名処理する医療情報のハブを創設しようというのである。安倍政権は関連法案を閣議決定し、早期の成立を目指している。

厚労省にICT人材はいない」

 冒頭の自民党商工族中堅議員が続けた。「政府全体として決まっている方針なので、さすがに厚労省も面と向かっては反対してこない。だが、厚労官僚と話をすると、『医療データは極めてプライバシー保護が求められる情報だ』とか、『どこまでやれば匿名加工したことになるのか判断が難しい』といった話になってしまう。慎重というよりも、明らかに後ろ向きの姿勢だ。我々が知る限り、厚労省にICTを正しく理解出来ている人材はいない」と切り捨てた。

 これについて、内閣府に出向中の経産官僚は「医療団体への配慮があるのだろう」と話す。「医療団体からは『個人情報保護法は病歴などを安易に第三者に提供してはならないとしている。法の趣旨に逸脱する』といった懸念が出ている。日本医師会関係者からは『極めて公益性が高い学術団体に限定すべき。安易に営利企業の参入を認める仕組みにしてはならない』との意見も聞かれる。厚労省もこうした意見に同調しているのではないだろうか」と見立てる。

 「とはいえ、医療ICT基盤構想は、政府の方針として決まっている。成長戦略を考える上で医療データの活用無しには、医薬品開発の国際競争には勝てないだろう。それどころか日本の医療技術の水準もどんどん遅れてしまう。厚労省の協力が得られなくとも、安倍政権としては粛々と進めていくことになる」と突き放すように語った。

 厚労省がやり玉に挙げられているのは、医療ICT基盤構想だけではない。介護保険で利用出来るサービスと、対象外のサービスを組み合わせて利用出来るようにしようという「混合介護」構想についても政府の規制改革推進会議から批判を浴びている。

混合介護とは、例えば介護保険を使ってホームヘルパーに食事を作ってもらう際に、家族分の食事も別途料金を支払うことで一緒に作ってもらえるようにしようというアイデアである。

 規制改革推進会議としては「混合介護が解禁となれば、介護事業者の収入が増え、介護職員の待遇改善にも繋がる」として、成長戦略に向けた目玉策の一つに挙げ強力に推進しようとしている。

 これに対して、厚労省は慎重姿勢を見せる。「介護保険内と保険外とを明確に区分することは出来ず、利用者の負担が不当に拡大する」との立場だ。2月21日に行われた公開討論会でも「不明朗な形で料金が徴収される可能性や、保険外の負担をしないと介護保険サービスを受けられなくなる恐れもある。利用者保護の観点が必要だ」といった反論を展開した。

 規制改革推進会議の関係者は「厚労省は混合診療の際も医薬品のネット販売の際も、何でも反対の印象だ。しかし、官製市場でうまくいった事例はあるのか。介護保険制度が今のまま維持出来ると思っている人などいない。厚労省は反対するならば、介護保険財政維持のための代替案を示すべきだ」と語気を強めた。

「医療は成長産業」が錦の御旗

 こうした厚労省バッシングの高まりに厚労省官僚OBは「今のままでは、また厚労省だけが悪者にされる。組織として対応しなければならない」と危機感を募らせる。

 これに関して、永田町関係者が面白い見方を示した。「個別案件で見れば、それぞれの部署で厚労省が批判にさらされているように見えるだろうが、明らかに経産官僚が厚労行政に手を突っ込もうとしている」というのだ。「厚労省の幹部人事は内閣人事局ではなく、塩崎(恭久)大臣が掌握している。そんな塩崎大臣が聞く耳を持つのは二川(一男)事務次官だけだ。大臣と幹部官僚たちの溝が広がっており、組織としての力が発揮しづらくなっている。ここを経産省としてはワンチャンスと見ているのだろう」との見方を示す。

 自民党議員OBも「医療産業への直接関与は経産官僚の悲願だ。医療を『成長産業』と言い切る安倍政権のうちに、製薬業界や医療機器メーカーを自分たちの影響下に置きたいというのが本音だろう」と続けた。

 安倍首相に近い官邸関係者は「経産官僚がどう動いているか把握していない」と前置きしつつ、「厚労省の弱体化は目を覆うばかりだ」と指摘した。「たばこの受動喫煙対策が自民党の猛反発で難航したのも厚労官僚の調整力の無さが露呈した形だ。塩崎大臣の意を受けたのだろう。二川事務次官が調整に乗り出し、健康局幹部が慌てて各マスコミに根回しに走ったが、お粗末だ」と続けた。

 こうした状況に、自民党厚労族議員は「社会保険庁事件以降、厚労省をバッシングすることで得点を稼ごうという国会議員が増えたのも事実だ。だが、厚労官僚をあまり萎縮させて厚労行政がおかしな方向に行ったのでは、困るのは国民だ」と懸念を隠さない。

 安倍首相と距離を置く自民党議員OBは「責任は官邸にもある。医療、子育て支援、働き方改革など内閣官房にいくつも組織を作るのはいいが、人事権は塩崎大臣が握っているから、そこに異動となった厚労官僚は担当大臣と塩崎大臣の間で板挟みとなる。塩崎大臣の意向を汲み取らなければ人事で冷遇されると恐れたのでは、厚労官僚は動けない」と指摘する。「安倍首相が厚労省をどうするかをはっきりさせないようでは、厚労省は立て直せなくなるぐらいに弱体化するだろう」との批判だ。

 果たして、厚労省バッシングは、場当たり的に政策を講じてきた安倍政権にツケとして回ってくるのか。高齢社会を迎えて厚労行政の重要性がますます高まる中、「国民ファースト」が求められる。

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