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臓器移植ネット「ミス防止」への遠い道のり

臓器移植ネット「ミス防止」への遠い道のり

供者の
が国唯一の臓器斡旋団体として、移植患者、関係者にお詫び申し上げます」

 1月27日、厚生労働省で深々と頭を下げたのは、日本臓器移植ネットワーク(移植ネット)の門田守人理事長だ。がん研究会有明病院院長、日本外科学会会長を歴任した華麗なる経歴を誇る門田理事長に頭を下げさせたのは、移植ネットが〝命運〟を懸けて導入したコンピューターのプログラムだった。一体、移植ネットで何が起きたのか。

14年・15年に続く患者斡旋ミス

 会見に出席した全国紙記者が解説する。「門田理事長が謝罪したのは、前日に発覚した移植の斡旋ミスについてです。移植ネットは2014年、15年にも相次いで斡旋ミスをしたのですが、今回は心臓移植患者の選定ミスという致命的なもの。しかも、前回のミスを受けて移植ネットは理事長以下、役員を一新させて再発防止を誓っており、さすがに各社のニュースの扱いも大きくなりました」。

 順を追って見てみよう。門田氏自身が述べたように、移植ネットは国の委託を受け、臓器提供の橋渡しを行う日本で唯一の組織として臓器移植法が施行された1997年10月に発足した。臓器提供の申し出を受け、移植コーディネーターと呼ばれる橋渡し役が、臓器を提供する患者(ドナー)と提供を受ける患者(レシピエント)を結び付ける。

 移植を待つ患者は多く、移植ネットに登録して順番を待つ。長く待てば必ず受けられるわけではなく、臓器ごとにどういった患者が優先されるかの条件が異なる。中でも生命に直結する心臓は移植以外の選択肢がない上に、大きさの問題で子供に成人の心臓を移植するのは難しい。日本では提供者の数自体が少なく、特に子供の提供者は圧倒的に不足している。苦労して多額の募金を集めて、海外で渡航移植を受ける子供が多いのも、こうした国内事情によるものだ。

 いずれにせよ、1日も早い移植を待ち望んでいる患者にとって、移植ネットからの連絡は希望の光だ。しかし、その斡旋業務で相次いで誤りが起きた。

 最初のミスは2014年11月。膵臓と腎臓の同時移植を希望していた患者に、腎臓のみでも移植を希望するかを聞かず、次の患者に腎臓を斡旋した。同時移植を希望していた患者は当時体調不良で、希望を聞かれたとしても移植が受けられない状態だったため、結果的に優先順位に変化はなかったが、移植ネットは重大な誤りとして謝罪した。

 ところが4カ月後の15年3月にも、移植ネットの職員が腎臓移植の適合患者を選定するコンピューター端末の操作を誤り、優先順位の低い患者に移植を行う事案が発生。相次ぐミスに、厚労省が立ち入り検査を行う事態となった。

 ここ数年、臓器移植数は増加傾向で、業務増大に伴う人員不足も原因の一つと考えられた。だが、もっと問題となったのは移植ネットが使っていたコンピューターシステムが古かったことだ。厚労省は14年度補正予算に1・5億円を計上し、新しいコンピューターシステムを導入。システムは16年度から導入され、正しく稼働するかを約半年にわたって確認した上で、同年10月から本格的に稼働した。それなのに、この新システムで早速、心臓の斡旋の誤りが発覚したのである。

 前述の記者が解説する。「新システムは公募によりNECネクサソリューションズが開発を請け負った。臓器ごとに異なる条件に対応させるため、特に厳しくチェックしたと移植ネットは話していました」。

1・5億円の血税が無駄に使われた?

 そんな〝鉄壁〟のシステムで起きた今回のミスの内容はこうだ。

 心臓移植の待機者は、重症度によってステータス1と2に分けられ、優先順位の判断には、より重いステータス1となってからの待機日数が重要となる。そのため、補助人工心臓を装着するなどして患者の状況が変わると移植ネットに連絡が入り情報が修正されるのだが、新システムは情報修正があった患者の待機日数を二重に計上して再計算されるようになっていた。そのため、ステータス1で待っていた患者よりも、途中で情報が変更された患者の方が待機日数が長くなってしまうミスが出てしまったのだ。

 そうとは気が付かない移植ネットは、1月26日、システムがはじき出した優先順位の高い患者が入院する大阪大学病院に連絡を取った。移植手術は短時間で行わないといけないため、優先順位の1位と2位に同時に連絡が取られる。1位の患者の状態が悪ければ、すぐに2位の患者に臓器を斡旋する必要があるからだ。

 この時の斡旋では、たまたま優先順位の1位と2位が同じ阪大病院の患者だった。同病院は移植ネットからの連絡に2位の患者の方が待機日数が長いことに気付き、「順序が逆ではないか」と指摘。慌てた移植ネットは改めて待機患者のデータを確認し、優先患者を選定するコンピュータープログラムに不具合があったことに気が付いたのだった。

 「今回のミスは、優先順位の高い複数の待機患者が入院していた阪大病院が気付いたから発覚した。待機患者が少ない病院だったら、今もプログラムミスに気が付いていない可能性が高い」(全国紙記者)。

 移植ネットが新システムを導入した昨年10月以降の心臓移植例を遡って調べたところ、プログラムミスによる選定ミスが計3件起きていた。このうち2件では優先順位1位の患者が同じで、この患者は2回にわたり移植の機会を逸していたことになる。同じく選定ミスにより機会を逸したもう1人の患者ともに、1000日以上もの間、移植を待機しているという。希望の光を待ち続けている2人には門田理事長らから謝罪がなされたというが、謝罪で済む問題ではなかろう。

 移植ネットは「ステータスが変わった後の待機日数の計算などはある程度の期間、稼働してからでないと分からなかった」と釈明。だが、あらゆる事態を想定し、いずれの場合も正しく動かなければ、プログラムとしては意味がない。その後の調査で心臓以外の移植では全て正しく斡旋が行われていたことが判明したが、斡旋の順位を決める条件は時折見直されるため、今後もそのたびにプログラムを変更しなければならない。

 今回の不祥事を受け、厚労省は臓器移植法に基づき第三者検証委員会の立ち上げと、手作業による斡旋を指示した。結局のところ、手作業が最も確実なのであれば、1・5億円もの血税が無駄に支払われたということになる。

 どんなに高いシステムも、人の命には替えられない。システムを動かすのは人だ。せっかくの善意が正しく届かないのなら、移植ネットは移植待機者だけでなく、提供者の生命をも弄んでいることになりかねないのである。

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