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偽ハーボニーで露呈した「現金問屋」の杜撰な実態

偽ハーボニーで露呈した「現金問屋」の杜撰な実態

関係者期診報酬改定へ懸念
 奈良県の薬局で1月、C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品5本が見つかった。しかも、患者から指摘されて偽造品が発見されるという最悪の事態。その後の調査で東京都内の卸売業者の在庫からも偽造ボトル10本が見つかり、処方薬の安全性が根底から崩れた。都の調査で偽ハーボニーの出所が現金問屋であることが明らかになったが、持ち込んだ人物は特定されていない。

 問題が明るみに出たのは1月17日、厚生労働省の記者クラブで開かれた緊急会見だった。担当記者が振り返る。「偽造医薬品の監視は通常、都道府県が行っている。それが都道府県でなく厚労省で会見というので、おかしいなと思ったんです」。

外箱も添付文書もないのに売買

 会見で明かされたのは、1月中旬に奈良市の調剤薬局「サン薬局平松店」でハーボニーを処方された患者が、「以前処方された錠剤と色が異なる」と店に通報し、薬局から製造元のギリアド・サイエンシズに連絡が入った、というものだ。サン薬局を運営する関西メディコは医薬品を一括購入しており、奈良県や奈良市の調査で、患者に処方された1本とは別に同店の在庫品と平群店、三室店の在庫品から計4本の偽造品が見つかった。偽造品が5本も見つかったとなれば、不良品が混ざったというレベルではない。

 奈良県などは直ちに偽造品の流通経路を調査。その結果、東京都内の複数の卸売業者から大阪の卸売業者を経由して仕入れられていたことが分かった。そして、都内の卸売業者3カ所から新たに偽造品10ボトルが発見されたのである。前述の記者によると、ボトルは外見上本物と変わらず、中を開けてみないと偽造品かどうか分からなかったという。ただ、外箱には入っておらず添付文書もなかった。

 卸売業者に残っていた台帳から、偽造品は東京・神田の業者が個人から買い取ったものであることが分かった。その際に提示した会社名は架空のもので、都は卸売販売の許可を持たない人物だった可能性が高いとみて警視庁に情報提供している。

 「ギリアド社によると、ハーボニーは国内の大手卸4グループのうちスズケンと東邦薬品を使って全国に流通させていた。ところが関西メディコは、この社以外からもハーボニーを購入していた」(担当記者)。ハーボニー発売当初は卸大手2社から購入していたが、昨年5月から2社以外からの購入も始めるようになったという。同社は「大手2社より2〜3万円安かった」とその理由をメディアに明かしている。

 正規の販売ルートの他に存在する複数の卸売業者が介在する別ルート。行き着いた先にあった「東京・神田の業者」とは、いわゆる「現金問屋」だ。卸業界に長く関わった都内の病院関係者によると、現金問屋は戦後の混乱期、国民皆保険制度が確立される前に医薬品を現金で買い取る問屋として東京の神田や大阪の平野町に林立した。他の卸売業者のように配送は行わないため、店舗で直接売買が行われる。

 「昔は、現金問屋は身近な存在だった。製薬企業の営業が今のように厳しく制限される前は、薬は添付商売が当たり前だったからね。薬を1000錠買うと、1000錠おまけで付いてくるというのが100プロ添付。2倍の2000錠が付いてくる200プロ添付もあった。帳簿上は1000錠買ったことになっているから、余った1000錠、2000錠を現金問屋に売りに行くわけ」(病院関係者)

 医療機関への販促のためメーカーが配る「白箱」と呼ばれる臨床用サンプルなども現金問屋に流れた。これらはメーカー製造の正規品で品質も変わらないため、販売しても健康被害はない。医師や薬剤師らが小遣い稼ぎのため現金問屋を利用する例は多く、売るだけでなくピルや麻酔薬などを買いに来る医療関係者もいたという。「個人で使ったり、安く仕入れて正規価格との差額をプールしたりする目的だったのでは」(同)。

 ところが、現在ではメーカーの商品管理が厳しくなり、コンピューターでロット番号を弾けば、どこに流れたかが分かるようになった。サンプル品も減った。それだけに前述の病院関係者は「現金問屋は廃れたと思っていた」と話すが、まだ生き残っていたというわけだ。別の関係者は「在庫品や販売記録がコンピューターで管理され、多くの人が関わる病院では難しいが、開業医なら現金問屋に薬を持ち込むことができるだろう。まだ需要はある」と推測する。

 都内の薬剤師は「薬局はどこも在庫を抱えたくない。医薬品は古くなれば売れなくなるし、場所も取る。その点、卸売業者は何があっても目当ての薬を探し出し、早ければ当日に持って来てくれる」と語る。偽ハーボニーは2〜3カ所の卸売業者を経由して数日で薬局に届いたが、「まとめて手に入れた医薬品を分けたり、自分のところに在庫がない商品を仕入れたりする卸のネットワークが日頃からあっただろう」とみる。

ボトルならバレないと知っていた?

 ハーボニーの薬価は1錠約5万5000円で、28錠入りのボトルは1本153万4000円。「1本150万円もの薬の在庫を抱えるのはリスクが高い」(都内の薬局)とあって、少量で販売してくれる卸売業者が重宝された可能性はある。この薬局は「配送中に潰れることもあり、箱がなくても不審と思わない。中身が入れ替えられているなんて考えつかないし、開けると湿気のため日持ちがしなくなるので、薬剤師は開封せずにボトルのまま患者に渡す」と話す。

 2014年には、複数の卸大手が医療機関に販売する医薬品や返品された医薬品を現金問屋に横流しして不正な利益を得ていたことが発覚。製薬社員が現金問屋に薬を売り、現金を得ていた事件も起きている。薬の管理が厳密になり経営が苦しくなる中、ハーボニーのような高額薬を扱えば単価が安い薬より多くの差益が得られる。

 ただ、厚労省担当記者は「今回は高額薬だからでなく、ボトル製品だから狙われた」と話す。入れ替えられた中身は大塚製薬のビタミン剤、ツムラの漢方薬、それに高額なC型肝炎治療薬「ソバルディ」とバラバラで、2種類が混ざっていたものもあった。薬局関係者は「犯人は、使用期限が短くなるので患者の手に届くまで誰もボトルを開けないと知っていたのではないか」と推理する。ギリアド社は年内にもハーボニーの容器をボトルからシート状の包装に切り替えるという。

 一方、厚労省はこうした偽造品が出回らないように流通経路の改善などを検討している。幸い健康被害は起きなかったものの、毒物の混入も可能だと知らしめた今回の事件の衝撃は大きい。薬局関係者は「今回の事件が診療報酬改定に飛び火しなければ良いが……」とため息をつく。警視庁では目下、「環境犯罪」を扱う生活環境課が情報収集中というが、果たして犯人にたどり着けるのか。捜査の進展が待たれる。

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