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未来の会

第85回 レパーサなどで感染症や認知症

浜 六郎 NPO法人 医薬ジランスセンター(薬チェッ)代表

 新規作用機序のコレステロール低下剤、PCSK9阻害剤、エボロクマブ(商品名レパーサ)とアリロクマブ(商品名プラルエント)は、肝細胞内でLDL-C受容体を分解する酵素PCSK9に対するモノクローナル抗体である。肝細胞膜上のLDL-C受容体を増やし、血中LDL-コレステロール濃度を低下させる。そのコレステロール低下作用は顕著である。これらPCSK9阻害剤の効果と害作用について、薬のチェックTIP誌No691)で検討したので、紹介する。

 LDL-コレステロールは高いほど長生き

 コレステロール値が高いだけでは、医療的な介入は不要である。なぜならば、コレステロール、特にLDL-コレステロールは、生体に必須の物質で、特に60歳以上は、ほぼ例外なく高いほうが長生きだからだ2)。この論文2)は、筆者も参加して2016年6月に発表された国際的研究で、公表された月から連続して5カ月間、掲載されたBMJ Open誌で最もよく読まれ、国際的に高く評価された。

 ファイザー社はPCSK9阻害剤の開発を中断

 レパーサやプラルエントの他、ファイザー社もPCSK9阻害剤の開発を進めたが、3万人近い患者を組み入れた2件の臨床試験を含め合計6件の試験を全て中断し、開発を中止した。患者、医師、株主に利益をもたらしそうにない、というのが中止理由である。

レパーサやプラルエントでは?

 どちらも、LDL-コレステロール低下を主エンドポイントとした最長1年半までの臨床試験しかない。LDL-コレステロール値は元の値の30〜40%にまで低下し、25mg/dLを下回る人も少なくなかった。しかし、プラセボ遮蔽ランダム化比較試験(RCT)で心血管疾患の低下や総死亡率を低下したとの証拠は全くない。

 一方、害は確実である。エボロクマブでは、家族性高コレステロール血症(FH)対象のRCTで、感染症がプラセボ群の5倍(ホモ接合体)あるいは1.8倍(ヘテロ接合体)であった。ヘテロ接合体では、感染症以外で、挫傷(4.2倍)、背部痛(3.7倍)、嘔気(3.7倍)と、いずれも有意な高いオッズ比を示した。

 家族性以外の高コレステロール血症でも、上気道感染がオッズ比1.54と有意であり、これ以外にも有意に増加した感染症があった。何らかの感染症では、リスク比が1.31(p=0.0005)と3割増であった。

 アリロクマブの日本の試験では、感染症のオッズ比が1.7(p=0.09)と非有意の増加を示した。

 エボロクマブの非遮蔽試験では、神経認知障害のオッズ比が3.4(p=0.015)と有意であった他、アリロクマブでは、重篤有害事象として、失調(ataxa)、脱髄(demyelination)、構語障害(dysarthria)、Miler Fisher症候群(ギランバレー症候群の亜型)、視神経炎(optic neuritis)などが報告されていた。この他、重篤でない有害事象として、ギランバレー症候群も多数報告されている。

 転倒、骨折などの傷害もオッズ比9.6(p=0.009)と、アリロクマブに多い。神経機能低下を窺わせる。

実地診療では

 PCSK9阻害剤は、著しくLDL-コレステロール値を低下させ、危険であり用いるべきでない。



参考文献
1) 編集部、薬のチェックTIP.2017:17(1):8-9
2) Ravnskov U et al. BMJ Open 2016;6:e010401

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