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第100回 ドナルド・シンゾー「蜜月」の裏に潜むもの

第100回 ドナルド・シンゾー「蜜月」の裏に潜むもの

 安倍晋三首相とトランプ米大統領との日米首脳会談は60年ぶりのゴルフ会談と、狙い定めたかのような北朝鮮の弾道ミサイル発射の他は、新鮮味に乏しいものだった。評価は様々だが、冷静に見れば、安全保障は現状の再確認にすぎず、経済問題も「経済対話」という枠組を作って先送りしただけだ。ドナルドとシンゾーの「蜜月」ショーの歓喜の裏で、政界は異質な大統領が導くであろう新たな時代への不安を消せないでいる。

 「日米首脳会談はいつも緊張感を持って見るんだが、今回はワイドショーでも見ているような気分だった」

 自民党幹部は未明のテレビに映し出された光景に違和感を覚えたという。首脳会談の前に報道陣に公開される、いわゆる「頭撮り」のシーンのことだ。トランプ大統領は安倍首相と右手で握手を交わしたのだが、その際、左手を安倍首相の右手に添えて撫で回したのだ。「安倍首相は握力が強く、ゴルフがうまそうだ」というリップ・サービスのジェスチャーだったようだが、「くだけ過ぎていて、重みが感じられなかった」という。

 野党幹部も同様に感じたようだが、こちらはかなり辛辣だ。

 「安倍首相はやっぱりポチなんだと思ったよ。あれじゃ、まるでトランプ大統領のペットだよ。イスラム圏7カ国からの入国を一時禁止する大統領令を巡って内外の反発を買っているトランプ大統領の忠実なる。日本は米国の属国なのだと世界中に宣伝したようなものだ」

 問題のシーンは繰り返し放送されたから、国民の間にも多少の違和感はあったようで、SNSには「大の男が、それも一国のリーダー同士がべたべたするのは気持ち悪い」などのコメントが投稿された。

 もちろん、首相官邸は大統領の擁護に余念がない。

 「トランプ大統領は2回目の首脳会談であり、不慣れだった。精一杯もてなしたいという気持ちの現れであり、むしろ誠意を感じる」

 「日米首脳会談の直前に中国の習近平国家主席に電話をかけ、従来の発言を修正して『一つの中国』を認めると伝えている。日中両国をてんびんにかけたんじゃないかという疑念を薄めたいとの配慮から、少しサービスが多くなったんじゃないかな」

 トランプ嫌いの多い野党内には、こんな見方もある。

 「共同記者会見を見てよく分かった。トランプ大統領は政策らしい話は何もしなかった。具体論を言ったのは安倍首相だけ。しかも、トランプ大統領は安倍首相や日本の記者が話している間、通訳のイヤホンも付けていなかった。おざなりな態度だ。あの人は、安倍首相とゴルフをしたかっただけじゃないの」

「狂人理論」でトランプが読める?

 このイヤホン問題はネット上で話題を呼んだが、親トランプを自認する自民党幹部は些末なことにとらわれる必要はないという。

 「首脳会談の最大の目的は相互の信頼関係を築くこと。個別の問題は閣僚や事務方が詰めればいい。その意味で今回の会談は大成功だ。これから様々な問題が持ち上がるだろうが、首脳間で太いパイプがあれば、解決の道筋は見つかるものだ。もう一つ、今回の会談の成果は、トランプ大統領の個性というか、行動パターンらしきものが分かったことだろうな。これは今後の大きな財産になる」

 この幹部が、トランプ大統領を紐解くキーワードの一つと踏んでいるのが「マッドマン・セオリー」(狂人理論)だ。耳慣れない言葉だが、「狂気」を装いながら、結果的に極めて合理的に振る舞うことらしい。「ディール」(取り引き)の手段として、常軌を逸した過激な言動を繰り返し、交渉相手国に要求や条件を呑ませる。これは、トランプ大統領が尊敬するニクソン元大統領がベトナム戦争で実践したことで知られる。

 「日本は為替を操作しているとか、日本車に高い関税をかけるとか。トランプ大統領は耳を疑うような発言を繰り返してきた。日本政府は慌てて、対応策を考え、政策パッケージを用意したが、首脳会談では新幹線の投資に関心を示した程度で、為替も関税も口にしなかった。米国内の支持層向けのアピールもあるのだろうが、日本に関して言えば、本当に自分と付き合うつもりがあるのかを試したんだと思うね」

 トランプびいきの発言だから話半分としても、もし、「マッドマン・セオリー」でないとすれば、トランプ政権は、米国の一部メディアが指摘するように、ただの噓つきのデマゴーグ集団ということになる。それは考えにくい。現状では、「狂人」を演じ、相手を心理的に揺さぶる手法も用いる大統領という認識が適当だろう。

中東政策こそが新政権の試金石

 ただし、米国の世論を二分し、司法当局と敵対している「入国禁止の大統領令」は多少事情が異なるようだ。

 外交政策に詳しい自民党の閣僚経験者は「強固な日米同盟を確認できたことは大きな成果」と誇らしげに語りながら、不安も口にした。トランプ政権の中東政策が読み切れず、「不安材料もある」というのだ。イスラエルにある米国大使館のエルサレム移転問題もその一つだ。米国を含む各国大使館は現在、テルアビブにある。エルサレムはユダヤ、キリスト、イスラム各宗教の聖地であり、イスラエルとパレスチナが帰属を争っているためだ。しかし、トランプ大統領は選挙選で大使館のエルサレム移転を表明し、世界に衝撃を与えた。中東に戦争の火だねを投げ込むようものとの激しい批判を受け、後から「時期尚早」と微修正したが、波紋は広がったままなのだ。

 「トランプ大統領の右腕とされるクシュナー大統領上級顧問はユダヤ系で、大統領の娘で妻のイバンカさん、その子供もユダヤ教徒。政権のご意見番であるキッシンジャー元国務長官もユダヤ系だ。イスラム諸国への対応は当然変更が予想され、中東情勢を大きく揺さぶる可能性がある。トランプ政権との関係が深まれば、日本も大きな影響を受ける」

 米国との付き合いには多かれ少なかれ安全保障上のリスクが伴う。それは過去に何度も経験している。しかし、安倍首相の下で、安全保障法制が整備され、集団的自衛権の一部行使も可能になった今、日本は今までに経験したことのない役割分担を求められるかもしれない。18ホールでは話が尽きず、エクストラの9ホールを2人で回ったドナルドとシンゾーの間でどんな話があったのかはつまびらかにされていないが、両国の「蜜月」は裏を返せば、「危険」の共有でもあることは胆に銘じておく必要がある。

 「始まったばかりだから、不安は当たり前。安倍首相だって最初は危うかったろ。それが今や長期政権だ。心配いらん」。自民党長老の楽観論に共鳴する政治家はまだ少ない。

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