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第18回未来の会

第80回 相次ぐ海外企業買収は先行きに光明見えず

第80回 相次ぐ海外企業買収は先行きに光明見えず
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 武田薬品は1月9日、がん治療薬に強みを持つとされる米国製薬ベンチャーのアリアド・ファーマシューティカルズ(マサチューセッツ州)を買収することで合意したと発表した。

 1株24㌦で株式公開買い付けを行い、全株を取得。株式取得金額は、約54億㌦(約6300億円)にも達する。米国では製薬ベンチャーの買収費用が高騰しているためで、資金は借入金と手元資金で賄う。株価の約75%のプレミアムとされるから、買収相手のアリアドの株主にとっては悪くない話だろう。

 武田の社長クリストフ・ウェバーは、現在のポジションに就いてから最大規模となった今回の買収について、「血液がん領域をより強化し、固形がん領域に足場を持つことが出来、武田の戦略に合致している」と説明し、買収額は「企業価値や製品価値から見て正当化出来る」と述べている。

 確かにアリアドは、慢性骨髄性白血病・特定の急性リンパ性白血病を対象とする有望な治療薬を有している。また、非小細胞肺がんの治療薬も臨床段階にあるという。

久々の大型買収でも東証は冷ややか

 だが、武田にとっては今回、2008年の米ミレニアム・ファーマシューティカルズ(約7200億円)、11年のスイス・ナイコメッド(約1兆1000億円)に次ぐ久々の大型買収であるにも関わらず、東証の反応は冷ややかだった。発表翌日の10日には一時、前日(前週末)比で85円上昇したが、終値は結局、プラス1円というささやかさ。1月いっぱいでも武田の株価は低迷を余儀なくされ、今回の大型買収が市場で好材料と受け止められた形跡はない。

 当然だろう。アリアドの15年12月期の売上高は1億1880万㌦だが、営業損益は2億1727万㌦の赤字を計上しているのだ。常識的に考えて、売上高130億円程度の赤字会社に、あえて約6300億円を投じるなどというやり方はあまり例がないのではないか。

 実際、9日の発表直後から、あまり芳しくない評価が出回っている。「約6300億円というのはすごい額だが、いくら何でも高過ぎでは。そこまでやる意図がよく分からない。しかも最近の傾向だと、プレミアムはせいぜい50%程度。それが75%というのだから、武田はいつもの高値づかみをやらかしたのではないか」(証券アナリスト)——。

 しかも、買収は現金で行い、最大40億㌦の新規負債と手元資金で充当するという。配当方針に影響はなさそうだが、買収資金の約54億㌦のうち、8割が借り入れということになる。資本負債構成に影響がないはずはなく、そのためか、格付け投資情報センター(R&I)とムーディーズ・ジャパンは10日、武田の発行体格付けを格下げ方向で見直すと発表した。

 それでも、買収によって今後結果を出せれば文句を言われる筋合いではないのだろうが、武田が期待を寄せている肺がん治療薬が、今後の成功を占うカギとなる。

 今回の買収の大きな狙いとされたのが、アリアドが申請中のALK陽性非小細胞肺がんのセカンドラインに用いる第二世代低分子ALK阻害薬「ブリガチニブ」(17年に承認予定)とされる。ウェバー社長は「今回のバリュードライバーのキーになる」と期待を寄せ、年間ピーク時売り上げを10億㌦以上と見込んでいる。

 だが、ALK阻害薬には他社の有力な競合薬がいくつかある。米ファイザーの「ザーコリ」、スイス・ノバルティスの「ジカディア」、同・ロシュの「アレセンサ」だ。そこでどの程度拡大できるかは、現段階では未知数に近い。

米薬価政策に振り回される懸念

 しかも、買収発表から2日後の11日、トランプ新米国大統領は記者会見で薬価を巡り、新たな入札制度を導入し、費用を圧縮すると強調。「我々は世界最大の医薬品の買い手であるにもかかわらず、適切な価格設定が出来ていない。入札を開始し、数十億㌦を削減する」と、直後に軒並み製薬会社の株価が大幅低下に見舞われるほどの爆弾発言を放った。今後、武田の「10億㌦以上」という見込みが、絵に書いた餅になりかねない想定も現実味を増す。

 結局、武田は今回、大きな賭けに踏み切った形となったわけだが、こうした海外企業の買収路線が、果たして武田の近年止まらぬ地盤沈下からの脱出策として有効なのかどうか。この路線に舵を切った会長の長谷川閑史によるミレニアムの買収以来久しく、この問いについては結論が見えていないのも確かだろう。

 すでにこの路線が開始されてから9年が経過しようとしているが、明らかな成果は未だ出ていない。連結営業利益の過去最高を記録したミレニアム買収前年の07年3月期は4585億円を計上していたが、17年3月期予想は1350億円に留まり、実に3分の1以下に縮小している。無論、主力だった大型自社開発薬(ブロックバスター)の特許が相次いで切れていき、国内市場が安価なジェネリックの登場で収益性が低下しているという構造的要因も無視できないが、これほどまでの惨憺たる後退は、長谷川が「グローバル経営」と称して自ら手掛けたミレニアム、ナイコメッドをはじめとする買収が、必ずしも期待ほどではなかったと見なす以外、説明は付かないはずだ。

 ミレニアムについては、多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」が主力商品として成長したのは事実だが、年内に特許が切れる。一時、無名ながら「新興国で成長が期待出来る」とされたナイコメッドも、「期待したほどの新興国の売上高押し上げ効果をもたらさなかった。円安の影響が大きいとはいえ、昨年度の売上高は減少した」(ロイター1月10日配信記事)という有様。おそらく今回のアリアド買収発表でも株価が好転しなかったのは、市場がそうした武田の「グローバル経営」の実情を見極めているからに違いない。

 ウェバーの「戦略」は、がん、消化器、中枢神経系の3領域にパイプライン(開発品一覧)を集中させることだとされているが、一方で湘南研究所の研究員大幅削減が打ち出された。武田の研究開発も含めた将来の「戦略」展開は、海外企業買収しか基本策が残っていないように思える。そしてその策は、繰り返すように未だ有効なのかどうか答えを出してはいないのだ。
(敬称略)

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