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病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

第18回未来の会

ツムラ

ツムラ
方薬専業が孕む
ル・限界

 長期経営ビジョンで「グローバル・ニッチ」を謳う「ツムラ」には、「成長鈍化」という言葉が似合う。ニッチとはいっても、医療用漢方薬で8割のシェアを握る独占状態であるにもかかわらず、業績がパッとしないからだ。

 2017年3月期の第3四半期累計決算では、売上高こそ1・6%増の879億円だったが、営業利益は139億円、経常利益は146億円と、どちらも前期比10%を超える減益だ。 

 年間予想でも、売上は1154億円と微増だが、営業利益は145億円と26・9%減の大幅減益となる見込みだ。ここ数年、売上は微増ながらも大幅減益続きの決算に「成長がピークに達したのではないか」という声さえ聞こえてくる。勿論、ツムラが手をこまぬいているわけではない。

 加藤照和社長は16年5月、16年度から21年度までの6カ年「新中期経営計画」を発表した。芳井順一前社長から引き継ぎ、12年に制定した「2021年ビジョン」なる長期ビジョンの第2期、第3期に当たる経営計画だ。

 しかし、中身は病院、開業医、診療所へのプロモーションであり、①漢方市場の拡大と安定成長②収益力の継続強化とキャッシュフローの最大化③中国における新規ビジネスへの挑戦という三つの施策を掲げたもの。今まで進めてきた2021年ビジョンをそのまま継承してきたにすぎない内容に、不満の声が株主から上がった。

 加藤は風間八左衛門元社長と共に旧第一製薬からツムラに移り、経営を建て直した芳井前社長の〝秘蔵っ子〟と言われ、12年にバトンを受け継いだ。就任した時に芳井前社長の路線から、さらに一歩進んだ積極的な経営を期待されていたのだ。

 もちろん、この医療機関に対するプロモーションや漢方医薬教育支援が無意味というわけではない。ツムラは08年に、1930年から取組んできた入浴剤の「バスクリン」事業や家庭用品事業を売却、医療用漢方薬専業に舵を切って以来、「抑肝散」「六君子湯」「大建中湯」の3処方を中心にプロモーションを続けてきた。その甲斐あって、薬価切り下げがあっても売上を微増させてきた実績がある。高齢者ほど漢方を好む傾向があり、近年、漢方医が診察する診療科が増え、それなりに賑わっている。

 25年には団塊の世代が75歳以上に達するというのにもかかわらず、医療用漢方薬を独占するツムラの業績が伸び悩むのは、なぜなのか。

3代目社長が起こした特別背任事件

 ツムラは、奈良県から上京した初代の津村重舎が明治26年(1893年)に東京・日本橋に「津村順天堂」を開店、奈良に古くから伝わる民間伝承薬に改良を重ねて販売したのが始まりだ。

 その時に売り出した婦人保健薬「中将湯」が馬鹿当たりして成功。1900年には中将湯を精製する時に出るカスから作った入浴剤「くすり湯浴剤中将湯」で再び大当たりを取る。くすり湯浴剤中将湯は改良を重ねて「バスクリン」になるが、これが日本初の入浴剤で、ブームを作った。

 しかし、ツムラはバブル崩壊後、一気に倒産の危機に見舞われる。薬価引き下げに耐えるため、雑貨販売、美術品の輸入販売、化粧品進出など多角化を進めたが、バブル崩壊でこれらの事業が赤字になったのだ。

 津村昭が3代目社長に就任したのは76年。この年に医療用漢方製剤は保険収載となり、「バスクリン」と共に「漢方のツムラ」として急成長を遂げた。だが、趣味人としても有名な津村は、次第に趣味に明け暮れるようになり、自宅を改造して地下に音楽室を作り、ギター三昧に耽っていく。揚げ句の果てにバンド仲間を役員に登用するなど、公私混同の経営が続いた。

 また、会社の資金を湯水の如く新規事業に投入していった。後に元関連会社を舞台にした70億円に上る乱脈経理で東京地検特捜部により特別背任で逮捕される事件を起こす。

 この窮地を救ったのが、津村のいとこに当たり、当時、旧第一製薬常務だった風間八左衛門の社長就任(95年)だ。同時に、風間の部下だった芳井が取締役として加わり、経営を建て直した。第一製薬と三共が合併し、第一三共となった時、ツムラもこの両社の合併に加わるという話もあったが、第一製薬の反対もあり実現することはなかった。

 新経営陣の下、ツムラはバスクリン事業をはじめ、生薬分包機事業や生薬によるリサイクル堆肥、植物活性剤などの農業資材事業、さらに陰圧式勃起補助具などという医療機器事業も売却し、医療用漢方薬事業一本に絞った。

 同時にコンプライアンス重視を掲げ、二度とトップによる公私混同経営が出ない組織作りを打ち出したことで信用も回復した。

 加えて、追い風も吹いた。漢方薬ではライバル会社に成長していた旧カネボウが乱脈経営で破綻したことだ。主力の化粧品は花王のものとなり、医薬品や日用品はファンドの手に渡った。今は「クラシエ」の社名に変わり、漢方薬市場で成長しているが、旧カネボウの破綻で、ツムラは医療用漢方薬市場で独占的地位を占めた。

 そんな環境下でも業績が伸び悩む状態では、「成長のピークを超えた」と言われてしまうのも無理からぬことだ。

漢方原料価格の高騰と円安で減益

 ツムラが営業利益減の理由に挙げるのは、薬価引き下げと漢方原料の高騰、円安による為替差損の三つだ。

 一つ目の薬価だが、ツムラはかつて、漢方薬は薬価改定にふさわしくないと、厚生労働省に引き下げをしないように求めたことがある。無論、厚労省は無視。漢方薬の引き下げ幅は他の医薬品の平均と比べてはるかに低く、影響が少ないからだ。

 減益の残りの要因は原料生薬の高騰と円安だ。漢方薬の多くは中国から輸入されているが、中国での原料生薬は10年ごろから投機も加わって価格が高騰している。漢方薬で使用量が多いのは「甘草」や「芍薬」だが、甘草は砂漠地帯で生育しているので、原料生薬の価格が上がると乱獲が始まり、それが収穫減を招き価格が上がる。そこに投機が加わり、さらに中国政府が輸出を制限していることで、原料価格が乱高下を繰り返してきた。

 ツムラは安定供給のために北海道夕張市で国内栽培を手掛けた。現在は10種類、700㌧程度の生産だが、20年には倍の二十数種類2000㌧に生産量を引き上げ、使用する生薬原料の25%程度を国内生産にする計画だ。

 だが、生薬は栽培が難しい。気候や土壌によって成分が異なり、天候に大きく左右される。

 年1回の採取だけに、土壌を改善し栽培法を確立して安定した品質を維持出来るように育てるには、少なくとも10年近くはかかる。その上、人件費が高い日本での栽培、生薬製造コストが輸入原料の価格に対抗できるかは難しい。生薬原料価格は当分、売り手市場が続きそうであり、ツムラにとっては高値輸入を強いられる状況にある。

 加えて、日本銀行の異次元の低金利政策に伴う円安の影響が大きい。一時的に円高に振れても、アベノミクスの基本は円安である。麻生太郎内閣とそれに続く民主党内閣時代では1㌦=80円台だったが、安倍晋三内閣になると、1㌦=120円まで進んだこともある。生薬原料の輸入はドル建てで行われるから、8割を輸入する漢方薬メーカーは原料高に見舞われる。

 一方、ツムラのような医療用漢方薬メーカーは薬価制度で価格が決められているため、値上げが出来ず、利益は薄くなる。アベノミクスが続く限り、ツムラは売り上げ微増でも減益を強いられる。

 もう一つ付け加えるとすれば、米国子会社が漢方処方の科学的エビデンスを得るために行っている種々の研究に費用がかかっていることだ。

 しかし、この窮状にツムラも手をこまぬいているわけではない。原料が高くなる分、製造工程の効率化を図ってきた。例えば、製造工程にロボットを導入して省力化を進め、24時間操業を行うと共に、ビッグデータを解析し、原料の在庫を適正化して、原料相場の高騰に備えている。

刻み生薬市場に漢方製剤を売る困難

 さらなる対策として、中国の広東省深圳市と四川省に生薬原材料を調達する子会社(同省は非連結子会社)を持ち、上海には両社が調達した生薬エキスを乾燥・粉末化してツムラに送る製造・販売会社を持っている。

 生薬原料の調達システムについても、16年5月に上海に新たに中国子会社の統括会社設立を決議した。統括会社は単なる持株会社ではなく、生薬を配合した顆粒の漢方製剤化に取り組んでいる。人件費が安い中国で漢方製剤にすることで、コストを下げる作戦だ。

 同時に、上海の統括会社は新中期経営計画で掲げる中国での新規ビジネスを担う。本場である中国の中薬(漢方薬)市場は、世界の漢方薬市場80億㌦の10%、ざっと8億㌦(約8800億円)市場と言われている。巨大市場だが、中国では症状や体質に合わせて数種類の乾燥生薬を刻んで煎じて飲む「刻み生薬」が普通だ。ツムラのようにメーカーが生薬を配合して製品化する漢方製剤を刻み生薬が多い市場に売り込もうという戦略は、刻み生薬に慣れきっている中国人の市場にどのくらい食い込めるのか、全くの未知数だ。

 ある商社マンは「富裕層の多い都会ではある程度食い込めるだろうが、庶民は安い刻み生薬を選択するだろう」と話す。

 日本ではプロモーションの効果で、漢方を処方する医師や漢方医が診察する漢方診療科を設ける病院も増えている。また、医療用漢方薬市場をほぼ独占するツムラ1社の努力で、同社の売り上げが1150億円まで拡大した。

 しかし、それで万全ではない。東日本大震災の折、被災地では漢方薬の提供が一時途絶えた。被災地のある医師は「普段は漢方薬も処方していたが、災害に見舞われた緊急時に必要なのはインスリンや喘息薬で、『漢方薬がない』と騒ぐ医師も患者もいなかった」と言う。

 「グローバル・ニッチ」のツムラの飛躍には限界があるようだ。    (敬称略)

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