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分科会第2回

第100回 地域における高齢者の諸問題を 多職種で学際的に取り組む

第100回 地域における高齢者の諸問題を 多職種で学際的に取り組む

高齢ドライバーによる交通事故がクローズアップされているが、単に道路交通法上の問題ではない。認知症やうつ病などに悩む高齢者や家族をいかに社会で支えるかが重要だ。日本老年精神医学会は多職種による学際的活動でその役割を果たそうとしている。

日本老年精神医学会はどのような学会ですか。
新井 日本では老年精神医学はあまり注目されてきませんでした。大学の講義も認知症については90分授業の中で15分あるかないかという状態でしたが、今や超高齢社会の中で認知症を患う人は462万人、軽度認知障害(MCI)も400万人ほどいます。合わせれば人口の10人に1人近くが認知症ということになり、そのケアがクローズアップされています。また、認知症の他にも老年精神医学が対象とすべき分野には、身体疾患に伴う精神障害や老年期に現れやすいうつ病や神経症、妄想症などがあり、社会心理的な要因も複雑に関わり合っていることが多くあります。症状の理解や治療の面で、一般の精神医学の延長ではなく、老年精神医学からの視点が必要だと考えられました。学会は、この領域に関心の深い人たちが集うという形で1986年に老年精神医学研究会として発足し,その後の改組を経て現在に至ります。

どのような姿勢で取り組んでいますか。
新井 認知症の病気だけを扱っているのではなく、地域でうまく包括的なケアが出来ないかを追究しています。認知症を克服するだけではなく、在宅を含めた高齢者を地域がいかに大事にできるのか、その仕組み作りに取り組んでいます。認知症に関しては他にも学会がありますが、我々はより広い視野で取り上げ、高齢者の権利擁護や虐待問題、さらには家族の支援や介護制度も含めた地域の諸問題を解決しようとしています。これは医師だけでできることではなく、看護師や心理士、介護福祉士などコメディカルを含めて多職種で連携している学際的学会です。より地域の現場に根差した高齢者の幸福を実現させるための学問といえます。

認知症の有無と運転能力は違う

2016年11月に「改正道路交通法施行に関する提言」を国に対して行いましたね。

新井 17年3月に施行される改正道交法では、75歳以上の認知機能検査に基づく対応が強化され、認知症の疑いがあれば医師の診察を義務付けることとされました。昨今、高齢者の運転する自動車の事故や高速道路の逆走などが大きく報道されていますが、認知症の早期発見により運転ミスによる事故を未然に防ごうという対策です。これに対する我々としての意見を提言という形にまとめました。核心は認知症と運転技能は別だということですが、4項目あり、二つは行政への要望、一つは運転免許を管理する公安委員会への要望、残る一つは我々医療者への自戒を込めた内容になっています。具体的には、まず、起こり得る事故の被害を最小限にするための「ハードウェアの整備」であり、通学路へのガードレール設置や高速道などでの逆走防止ゲートの設置などを求めました。二つ目は「運転免許の自主返納に対するQOL(生活の質)の保証」で、運転ができなくなった高齢者に対して地域に即した交通支援システムを開発・普及させる必要性です。三つ目は「高齢者講習会での実車テスト」の導入です。運転能力は認知機能検査でなく運転技能評価から総合的に判断されるべきです。四つ目は「認知症と一括されていることの問題点」です。認知機能の低下による運転不適格であることと、認知症と診断されていることは必ずしも同義ではありません。認知症と一括りにして運転を制限するのではなく、現実的な能力判断に根差した判断が必要だと考えます。そのためには、医学的エビデンスの集積と事故事例分析などによる検討が重ねられるべきです。

具体的な提言ですね。

新井 免許更新はもっときちんと見るべきです。若い頃に免許を取る時には運転能力と法律などの知識の試験に合格して免許証が交付されます。その時は知能については問いませんよね。更新も同じではないでしょうか。まずは、運転技能評価が一番大事です。認知症があろうが無かろうが、糖尿病や高血圧があろうが無かろうが、それは同じはずです。公安委員会には、本人の運転技能をきちんと見てほしいのです。それをしないで認知症の有無で免許更新の適否を判断するのは本来の姿ではないと思います。そして、その際に認知症が疑われたら、「医療機関で治してもらいましょう。医療機関を紹介します」というのが公安委員会の役目です。免許を取り上げるために「診断を受けて来なさい」というのは本来の在り方ではありません。そして、認知症にもいろいろな種類があるのですが、認知症として一括りにされているという問題があります。それぞれの認知症ごとの運転能力がどうかという研究は遅れており、データがありません。それは我々の責任で医学的な研究を進めていかなければなりません。

コメディカルや患者との連携が必要

この領域での医療側の課題は何ですか。

新井 専門医が足りないことが一番です。早期発見・早期治療といわれますが、地域の患者さんが「どこに行って、誰に診てもらえばいいか」という体制は整っていません。高齢者の運転だけがクローズアップされていますが、大きな視点で社会の仕組みを考えていくことが大切です。

老年精神学の今後についてお願いします。

新井 高齢者の虐待、家族の権利も含めた高齢者を巡る地域の諸問題を広く取り上げて、しかも医師だけではなくて医療チームに関わる多職種で学際的に取り組まなければなりません。それを担うのがこの学会です。より現場に根差した高齢者の幸福を目指した学問です。認知症になっても人生は終わりではない、ということです。私はいつも外来で説明しています。認知症が心配だったり、認知症になったりしても、人生を見つめ直すチャンスです。毎日を大事にするきっかけになります。終わりではありません。その気持ちを大事にしていくのがこの学会だと思います。

今後の展望をお聞かせください。

新井 描いている展望が三つあります。一つ目は、認知症やうつ病の病因や病態を医学的研究で突き止めて、根本的な治療薬を国際的な共同研究で開発すること。二つ目は、どれくらい地域医療で貢献できるかということ。病院や施設での療養でなく地域包括ケアが中心になる今後では、訪問診療をはじめとした在宅医療の充実です。三つ目は、多職種や家族との連携です。地域に根差した中でどう組み立てていくか、当事者である患者さん自身やご家族の意見を踏まえて現場のニーズに合った治療を提供していく必要があります。その中で専門医の役割は一番大事です。まだまだ取り組むべきことはたくさんあります。

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