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小野薬品工業

小野薬品工業
「オプジーボ」破格の薬価が招いた
「国家財政破綻」騒動

 2016年の医療業界で最も話題になったのは、間違いなく小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ(一般名はニボルマブ)だろう。何しろ、抗PD‐1抗体という新しいタイプの免疫療法剤であり、世界の抗がん剤開発の流れをPD‐1抗体をめぐる創薬へと変えた上、PD‐1の仕組みを発見したのが京都大学の名誉教授である。同時に、オプジーボの薬価が破格の高さになったことで、医療費が膨大になり「国家財政が破綻する」と騒動に発展した。

 100㍉㌘入りの一瓶が73万円という超高額薬価に決まった時、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の幹部が価格設定について「日本人が発見した抗がん剤だからご褒美の意味もある」と笑えぬ冗談を言ったが、本庶名誉教授には近い将来のノーベル生理医学賞が期待されている。

薬価毎年改定のきっかけに
 それでも薬価は高過ぎた。日本が世界最初の承認でもあり、ある程度は予想されたが、その後にオプジーボを承認した欧米との価格差も大き過ぎた。保険制度の違いがあるにしても、同じ一瓶がアメリカの25万円、イギリスの15万円と比べれば、どう見ても高過ぎる。

 薬価算出方法は、対象疾患の患者数に応じて、製薬会社が開発に投じた資金を回収できるように定めている。オプジーボの場合、最初に対象としたメラノーマ(悪性黒色腫)の患者数が全国で470人(予測)と少なく、ルールに従って薬価を決めたところ先の高額となった。

 それでもメラノーマだけに使用するなら、高くても年間31億円程度で済む。しかし、次に適用拡大された非小細胞肺がんの患者数はざっと10万人。その半分の患者に投与すると、年間1人当たり3500万円かかると見積られるから、総額は1兆7500億円にも上る。さらに、腎細胞ガン、頭頸部がんなどに適用拡大されているから、薬剤費は膨大な金額に上る。最初に患者数の少ないメラノーマで申請し、高額な薬価を取ったことに詐欺性はないのか。肺がんの適用申請までわずか半年だ。最初に肺がんで申請していれば、薬価は200分の1になる。

 この高額薬価問題は結局、17年2月から50%引き下げることで決着した。しかし、巨額再算定、毎年の薬価改定の導入など、多くの問題を惹起し、それに対して国内、外国製薬メーカー団体から批判が噴出。騒ぎは今も続いている。

 それはともかく、小野薬品はオプジーボ一剤で巨額の富を手にしている。17年3月期の売り上げ予想は前年の6割増の2590億円、営業利益では前年の2・4倍の725億円を見込む。オプジーボ発売半年後の決算である15年3月期は主要な医薬品が後発品に押されて営業利益は151億円にすぎなかったことから見れば、5倍近い利益を手にした。まさに「薬九層倍」であり、製薬業界全体のイメージを下げた。

 小野薬品は享保2年(1717年)に初代の小野市兵衛が大阪・道修町に薬種仲買として創業したのが始まり。今年は、創業300周年になる老舗中の老舗だが、元々は大阪の中堅製薬会社にすぎなかったが、研究開発型の製薬会社ではある。

 オプジーボが登場するまで稼ぎ頭は、末梢循環障害治療剤「オパルモン」や気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療剤「オノン」、慢性膵炎・術後逆流性食道炎治療剤「フオイパン」だったが、後発品に押され、主力品は毎年売上減に見舞われていた。

 この医薬品目を見ても分かるように、対象領域がバラバラで、小野薬品はどの領域を主力にしたいのか分かりにくい。

 ファイザーやメルク、ノバルティスのような巨大企業なら様々な分野の医薬品開発に励むが、中堅企業は血液なり消化器、あるいは、神経系など特定の疾患領域に特化したスペシャリティー製薬会社を目指し、特定の領域に研究開発資金を投下する傾向があるが、小野薬品にはそういうところがない。しかし、同社は「化合物オリエント」と称する独特の研究開発哲学を持っている。

 具体的に言えば、研究員が見つけた化合物が血圧だかアルツハイマーだか分からないが、何かの疾患に効果があるのではないか、という研究発想である。現在の、病気の仕組みを阻害する物質を探す創薬手法とは異なる。良く言えば柔軟、悪く言えば奔放だが、こうした発想から本庶教授のPD‐1抗体の仕組みを活用する抗がん剤開発の呼び掛けに、何か良い医薬品ができるのではないかと手を上げたという。小野薬品がオプジーボという宝の山を手にしたのは、その感性と日本の大手製薬の頭から免疫療法を馬鹿にした研究体質と違っていたことが功を奏したということだ。

株価はオプジーボの評価次第
 事実、政府の進める後発薬の使用促進策で、長期収載品に頼っていた多くの中堅製薬会社が苦境に陥った中、小野薬品も徐々に売上が減少していたが、状況を一変させたのはオプジーボだった。

 有り体に言えば、小野薬品は抗体医薬では素人同然だった。一緒に抗体医薬を研究してくれ、かつ教えてくれるパートナーが必要で、それが提携した米ベンチャーのメダレックスだった。

 同社は米大手製薬メーカーのブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)に買収されるが、買収後も提携研究が続いたことでオプジーボが誕生し、小野薬品は大金を手にした。この〝導出〟が恩恵をもたらしたにすぎない。

 オプジーボ誕生までに14年掛かっているが、その間、小野薬品は各種の新薬開発にも力を入れている。開発された新薬には2型糖尿病治療剤の「グラクティブ」と「フォシーガ」、骨粗鬆症治療剤「リカルボン」、関節リウマチ治療剤「オレンシア」、抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐治療剤の「イメンド」と「プロイメンド」、アルツハイマー型認知症治療剤「リバスタッチパッチ」、さらに再発性・難治性の多発性骨髄腫治療剤「カイプロリス」などがあり、そこそこ売れている。

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