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第78回 悪しき過重労働の旗振り役・長谷川閑史

第78回 悪しき過重労働の旗振り役・長谷川閑史
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行

 広告代理店最大手・電通の新人女性社員が2015年末に過労死自殺し、翌16年9月に労働基準監督署によって「自殺は長時間の過重労働が原因」と労災認定された。この事件は、日本の企業社会の暗部を示すものとして依然波紋を投げ掛けている。

 11月には厚生労働省の東京労働局などが電通本社を強制捜査。社会的反響の大きさからか、同社は12月になって、過重労働問題の是正に専従で取り組む執行役員を置くと発表した。

 過労死がここまではびこってしまっている原因の多くは、企業経営者の利益優先姿勢による労働法規の軽視と、社員の人権無視の姿勢にある。その典型の一人は、疑いなく武田製薬会長の長谷川閑史だろう。

 長谷川は、今でこそメディアに登場する機会が限られているが、以前は経済同友会の代表幹事として、さらには内閣設置の産業競争力会議の雇用・人材分科会主査として、露出頻度が高かったのは記憶に新しい。だが、そこで長谷川が演じたのは、振り返れば今回の悲劇に通じるような、悪しき過重労働の旗振り役であったことは否定できないだろう。

 建前であれ、「230年にわたり命の大切さを見つめ続けてきた」などと美辞麗句を並べる製薬会社の会長が、「命の大切さ」どころか、「命」を削ってまで働かせるに等しい、先進国では恥ずべき過労死の蔓延する社会に道を開く施策の実現に執心している様は、ブラックユーモアにもならない、実に異様な光景ではないだろうか。

「グローバル」持ち出し長時間労働推奨
 長谷川が同主査として、「長谷川ペーパー」と称される「個人と企業の成長のための新たな働き方〜多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて〜」という提言書を発表、世の注目を集めたのは、14年4月のこと。そこで長谷川は、「グローバルに通用する『働き方改革』に早急に取り組むことが求められている」と主張しているが、この人が「グローバル」がどうのこうのと言い出すと、大概ろくな内容ではない。

 要するに言いたいことは、「業務遂行・健康管理を自律的に行おうとする個人」を対象に、「労働時間と報酬のリンクを外」して、報酬は労働時間ベースではなく、成果ベースの労働管理を基本とし、「職務内容や目標達成度等を反映して」支払われるべきだということだ。これが「世界トップレベルの雇用環境」を実現することになるというのだから、お笑い草だ。「世界ボトムレベル」の間違いだろう。

 これでは、「1日8時間、1週40時間」という労働基準法で定められた労働時間の上限がなくなり、何時間働いても賃金は変わらなくなる。「成果」が上がるまで、長時間の残業タダ働きがさらに広がるだけだ。安倍内閣が成立を狙っている、財界の従来の「成果主義」という主張に沿って「労働時間」の概念を取り払う「労働基準法改正案」=「残業代ゼロ」法案と、中身にほぼ大差はない。

 前述の過労死自殺した女性社員は、1カ月の時間外労働が労基署認定分だけでも約105時間となり、過労死ラインとされる80時間を大きく上回った。長谷川の思うような労働環境になれば、こうしたケースがさらに横行し、自殺しても「自己責任」呼ばわりされかねない。

 だが、長谷川は10月に都内で開かれた働き方改革を探るシンポジウム「働く力再興」に出席し、電通社員の自殺事件などどこ吹く風で、「『高度に知的な仕事をする人まで働いた時間で評価するのはナンセンス』と指摘。労働時間でなく成果で評価する脱時間給制度の導入を訴えた」(『日経』10月13日電子版)という。

 長谷川がいまだ、こんなことを吹聴しているところを見ると、会社員が過労で健康を損ねたら、「アリナミンゴールド」だの何だの、自社製品がより売れる「ビジネスチャンス」になるとでも思っているのだろうか。これが、「人々の健康 と医療の未来に貢献する」などと掲げている製薬会社の会長の言動としてふさわしいのか。

 厚生労働省の15年度「過労死等の労災補償状況」によると、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況は、請求件数795件に達し、このうち死亡は283件となっている。労災の支給決定件数は251件で、死亡は96件。精神障害の労災補償状況では請求件数が1515件と過去最多を記録し、勤労者の過労による健康悪化が深刻な現状を浮き彫りにしている。これで労働時間の上限を取り払ったらどうなるかといった程度の想像力さえ、長谷川にはなさそうだ。

 武田は、あの電通と同じく 「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けている。だが、武田の残業時間協定は、何と過労死ラインをはるかに超える月120時間だ。こんな労働基準法違反を堂々とやっている企業は「くるみん認定」以前に監督省庁の是正勧告が先決問題のはずだが、そうならないのは行政の怠慢以外の何物でもない。

社員に犠牲を強いて会社は特権享受
 もともと企業が社員の「評価」を専権的に行える限り、社員は格別強要されずとも「成果」を上げるため、「残業代ゼロ」でも働かざるを得なくなるのは必至だ。一方で社員には過労死の危険を冒してまで働かせようとしながら、企業は例外的な特権をちゃっかりと享受している。

 例えば、15年度に支払った法人税、法人住民税、法人事業税の負担率で見ると、武田はわずか1・2%という異常な低さだ。長谷川は他の財界人と同様、日本の法定の法人税率32’・1%は「高過ぎる」などと批判しながら、試験研究費に対して税額が控除される研究開発税制等の大企業だけの優遇税制を利用し、この程度の税負担で済ませているのである。

 また武田はケイマン諸島に、判明しているだけで12年末までに12の子会社を持ち、資本金額は649億円にのぼる。無論、狙いは租税回避で、12年4月には大阪国税局から、タックスヘイブン絡みの脱税的行為と判断され、1223億円の追徴課税処分を受けている(後に977億円が還付)。

 何のことはない。長谷川は会社員から労働基準法による保護を外し、残業代ゼロで済む雇用関係を強いようとしながら、自分の会社は既得権を利用してうまい汁を吸っているのだ。こうしたエゴ丸出しの人間が公的な諮問機関を通じ影響力を発揮する現状は、長谷川で打ち止めにすべきだったのではあるまいか。(敬称略)

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