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健康ゴールド免許は「健康自己責任」へのアドバルーン

健康ゴールド免許は「健康自己責任」へのアドバルーン

小泉員会財務振り付
康ゴールド免許というのは絶対反対だ。『健康=自己責任』というのは極めて危険な考え方だと言わざるを得ない」

 自民党の厚労族ベテラン議員が、厳しい口調で批判した。

 「健康ゴールド免許」とは、運転免許証の優良ドライバー向け「ゴールド免許」を参考にした構想である。

 IT技術を使って、健康診断の受診履歴などを把握し、健康管理に一生懸命に取り組む人の医療・介護の自己負担割合を軽減しようというのだ。

 小泉進次郞衆院議員らを中心とした自民党若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」が10月末に社会保障改革の提言を公表したが、そこに盛り込まれた目玉というべきアイデアである。

 このベテラン議員は「これは健康な人の発想だ。『健康管理を徹底すれば予防や進行の抑制が可能』との決め付けがある。高齢者が病気になるのは仕方がないことだ。遺伝性の病気や生まれつき病弱な人もいる」と突き放すように語った。

病人や要介護者に「自助」押し付け
 別の自民党厚労族議員も、小委員会の提言書が、健康ゴールド免許の説明に「自助を促す自己負担割合の設定」とのタイトルを付けたことを問題視する。

 「『自助を促す』というのは、あくまで健康で暮らす人の話だ。社会保障の基本は『公助』であり、保険料負担を通じた『共助』だ。自分ではどうすることもできない病人や要介護者に『自助』の思想をあてはめようというのは、社会保障を全く理解していない証拠である」というのだ。

 さらに、「提言書には『自助で対応できない方にはきめ細かく対応↖する必要がある』とあるが、批判をかわすための言い訳だろう。小泉氏たちは、自民党の公約に反映させたいと言っているようだが、断固認めるわけにはいかない」と続けた。

 医療界にも批判の輪は広がっている。日本医師会関係者は「行き着くところは健康を金で買うという社会だ。それは日本の国民皆保険の否定でしかない」と解説する。

 「日本の国民皆保険が崩壊して一番喜ぶのは海外の民間保険会社である。小泉氏は米国留学の経験もあるそうだが、彼は新自由主義的な考えの持ち主なのか。どこかのフリーアナウンサーが人工透析患者のことを『自業自得』と語って世論の大反発を受けていたが、こうした考え方が広がっていけば、社会はおかしなことになる」との批判である。

 このように評判が芳しくない健康ゴールド免許構想だが、自民党の閣僚経験者は「党内の批判には若手議員へのやっかみもあるのだろう。だが、ネットでも批判的な意見は少なくない。ネット上で目立つのは『健康管理にお金を回せるのは高所得者であり、貧乏人を切り捨てるつもりか』といった批判だ」と語る。

 その上で、「将来の首相候補とも言われる小泉氏だが、社会保障政策について不勉強であることが露呈した。これでかなり評価を落としたと言わざるを得ない。健康ゴールド免許構想が批判を受けたことについて、小泉氏たちには反論や言いたいことが山ほどあることだろうが、社会保障政策は言い訳すればするほど墓穴を掘るところがある。今回の勉強代は高くついたということだろう」と手厳しい見方を示した。

 これに対し、医療政策に詳しい永田町関係者の見方は少々異なる。「小泉氏をはじめとする若手議員にばかり批判が集まるが、押さえておかなければならないのは、誰が彼らに『健康ゴールド免許』構想を振り付けたかだ」との指摘だ。

 厚労官僚OBは「報告書全体の振り付けは財務省だろう。かつて、ある財務官僚が『小委員会を最大限活用するため、われわれも弾込めする』と堂々と語っていた」と語る。「健康ゴールド免許構想までが財務省の入れ知恵だったかどうかは知らない。だが、報告書にはこれまで浮上しては消えてきた改革案がいくつも並んでいた。発信力のある小泉氏らを使って、もう一度、これらの案を議論の俎上に載せ、突破口にしたいということだろう。財務省の本音が透けて見えるようだ」と推測した。

 この話を裏付けるかのように、財務省と太いパイブを持つ政界関係者が「どこまでが財務省のシナリオなのかは分からない」と前置きをした上で、「本当に、財務省が医療や介護にまで『自己責任』を持ちだしてきたというならば、かなり切羽詰まってきたということだろう」との考えを披露した。

社会保障政策の方針ない安倍官邸
 こうした見方について、先の永田町関係者は「財務省もさることながら、責任の多くは安倍官邸にある」と言い切る。「安倍(晋三)首相は消費税増税を先送りしておきながら、財政再建計画の履行は求める。これでは財務官僚も厚労官僚も立つ瀬がない。危機感を募らせた財務省が、若手議員たちの功名心に取り入り、『自己責任論』についての〝バルーン揚げ〟をしたというのが、真相であろう」との見立てだ。

 厚労省の中堅幹部は「診療報酬と介護報酬のダブル改定に向けて厚労省内で議論を進めてきたが、首相官邸から社会保障費の伸びの抑制を求められる一方、解散風が吹くにつれて与党からは『負担増やサービスカットはするな』との圧力が強まった。これをどうさばくのか官邸のリーダーシップがなかなか見えず、われわれとしては動きようのない我慢の時期が続いた」と振り返る。

 自民党のベテラン議員が自戒を込め「財務省を追い込んでいるのは、政治家たちの姿勢の揺らぎだ。すべては、安倍官邸に社会保障政策に対する明確な方針がないために起こっていることである」と語った。

 「財務省は財政健全化が至上命題である。機会があるたびに安倍首相にその必要性を説き、安倍首相も『予定通りにやってほしい』と指示を出す。しかし、消費税増税が先送りされ、社会保障と税の一体改革は崩れている。この点を認めず、制度がいびつになっても構わないと言わんばかりに社会保障費を抑制しようとしている」というのだ。

 先の永田町関係者が引き取るように続けた。「一方で、安倍官邸は国政選挙への影響を気に掛け、国民の反感を買いそうな負担増策は避けたいというのが本音だ。与党に改革を骨抜きにする動きが出ても、積極的に調整に乗り出さないのはこのためである。むしろ、官邸サイドから『負担増は避けろ』との指示が出ることさえある。極めて無責任な態度だ」との説明を加えた。

 こうした場当たり的な対応がいつまでも続くとは思えないが、政界の一寸先は闇でもある。司令塔の腰が定まらなければ、「健康=自己責任」という考え方が、いつの日か現実のものとなるかもしれない。

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