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未来の会

アース製薬

アース製薬
大幸薬品との業務提携でささやかれる
駆除技術の低

 大塚グループ傘下の「アース製薬」は知名度の高い会社である。なにしろ、蚊やゴキブリ、ダニなど身近にいる「不快害虫」用殺虫剤のメーカーだし、宣伝も多いからだ。

 その上、ライバルのフマキラーやキンチョーとの競争が激しい業界で、お互いに「特許侵害だ」と訴えれば、「世間周知のものだ」と反訴し、〝場外乱闘〟騒ぎも起こった賑やかな業界のせいでもある。

 すでに秋が深まったことで殺虫剤の宣伝合戦は沈静化しているが、実は、これから来年5月までが新製品開発や来夏向け商品の製造に追われる繁忙期である。

 それどころか、2014年のデング熱に続いて、今夏はブラジルのリオデジャネイロ・オリンピックで大騒ぎになったジカ熱が世界的な問題になった。日本にジカウイルスが入ってくるのは、もはや時間の問題である。

 それも、ジカ熱は熱が出ても2週間程度で治ってしまうとされていたのが、妊婦が妊娠初期に感染すると、胎児が小頭症になることが分かり大騒ぎになったのは周知の通り。

 しかも、性接触でも感染し、男の場合は感染すると精子の数が減少するなどということも報告され、今後、不安は高まる。第一、治療薬やワクチンは開発途上で、最善の防衛策は蚊に刺されないことしかない。アース製薬にとってはまさに出番なのである。

 そのアース製薬の今年のトピックスは7月に発表した大幸薬品との資本業務提携だ。大幸薬品はラッパのマークでおなじみの「正露丸」のメーカーである。しかし、昨今は他社から整腸剤や下痢止め薬が多数登場し、大幸薬品は糖衣錠の「セイロガン糖衣A」に注力しても、売り上げは伸び悩みが続いている。

 そんな状況の打開策として力を入れてきたのが感染管理事業である。二酸化塩素分子でウイルスや細菌を除去する除菌消臭製品「クレベリン」を開発。正露丸に続く主力商品に育てるべく、宣伝販促活動に励んだ。

 その努力の結果、特許庁が新たに取り入れた新商標に、CMで流しているクレベリンのサウンドが真っ先に「音商標」として認められたように広く知られ、売り上げも増加した。

消費者庁から是正措置命令
 ところが、朝日新聞に載せた広告で「簡単、置くだけ! 二酸化塩素分子がお部屋の空間に広がります」とした文章が、消費者庁から「どのような環境下でも商品から放出される成分が部屋全体に同じように広がる、と誤解を生じかねない表現」として景品表示法に定める優良誤認表示に該当すると指摘、警告されたのだ。

 こうした例は大幸薬品だけに限らないのだが、大幸薬品は「社内だけでなく、研究室や一般家庭でも実験を繰り返し、成分の効果を確認した」と反論。ところが、新聞で「消費者庁にかみ付いた」と面白おかしく報道され、逆にイメージを落としてしまった。それだけに、除菌効果のある二酸化塩素分子を用いる商品をどうやって育てるかに苦心していた。そんな折に浮上したのがアース製薬との提携話だった。

 アース製薬は大幸薬品の技術を褒めたたえている。プレスリリースの内容をざっと紹介すれば、「人や蚊などが媒介するさまざまなウイルス感染症の脅威から、生活に関わる全ての分野において、感染予防と衛生管理に対する関心と需要が高まっております。このような環境の中、大幸薬品が保持する感染管理事業に関する特許技術などを高く評価し、二酸化塩素を用いた物体・空間除菌の重要性と、蚊の忌避効果などの新たな可能性を共有いたしました」という具合だ。この絶賛ぶりを見る限り、アース製薬は大幸薬品の技術を欲しがっているとしかみえない。

 実は、アース製薬も虫よけ製品を発売している。窓や玄関の軒下に吊り下げる形態の「バポナ虫よけネットW」「バポナ玄関用虫よけネットW」である。ベランダや玄関の軒下に吊るすだけで虫が来ないと謳う商品だ。もっとも、パッケージには「適用害虫 ユスリカ、チョウバエ」と書いてあるが、「つるだけ、おくだけでいやな虫をよせつけないネットタイプの虫よけ」と大書してあるのが受けてヒット商品になった。

 ところが、この虫よけ製品も消費者庁から景品表示法に基づく是正措置命令を食らってしまった。外に吊るした虫よけネットはいくら効果がある成分を含んでいたとしても、風が吹けば成分は拡散するし、120日間も効果が続くとは思えない。消費者庁にはいかがわしい商品と映ったようだ。

 その虫よけ、除菌では大幸薬品のクレベリンの方が格段に効果はある。アース製薬は、この大幸薬品が持つ二酸化塩素の技術を取り入れる以外に効果的な虫よけ商品をつくるすべがないと判断し、大幸薬品との提携を進めたようだ。だが、アース製薬はもともと、蚊やハエ、ゴキブリ退治なら得意のはずだ。いつの間に害虫駆除の技術が低くなってしまったのだろうか。

会社更生法適用で大塚グループ傘下に
 アース製薬は明治25年(1892年)に木村秀蔵が大阪・難波で創業したという老舗だ。昭和4年(1929年)に家庭用殺虫剤「アース」を発売したのを皮切りに、蚊取り線香「アース渦巻」などを売り出した家庭用殺虫剤メーカーである。戦後も殺虫剤「アースエアゾール」を発売し、ダニや蚊、ゴキブリなどの殺虫剤のメーカーとして知られる。社名も昭和39年(64年)に製品にちなんで「アース製薬」に変更したほどだ。

 だが、昭和40年代に経営が傾き、昭和44年(69年)に会社更生法を申請して倒産する。翌年、大塚製薬が資本参加して再建し、その後は次々にヒット商品を生み出していく。

 例を挙げれば、液体式電気蚊取り器「アースノーマット」や肌に直接、または服の上からスプレーする虫よけ剤の「サラテクト」、腰に付ける「おそとでノーマット」、あるいは強力ゴキブリ殺虫剤の「ゴキジェット」などである。

 中でも大ヒットになったのは、再建から3年後に発売した「ごきぶりホイホイ」だ。アース製薬といえば、ごきぶりホイホイの会社と思われているほどである。

 ライバルは大日本除虫菊(キンチョー)とフマキラーだ。渦巻蚊取り線香ではキンチョーの牙城を崩せなかったが、アース製薬は智恵と技術で火を使わない「アースノーマット」を開発。一般家庭に浸透させ、技術力を見せつけた。

 さらに、害虫駆除剤だけにとどまらず、家庭用品にも進出する。入浴剤やオーラルケア商品、練り歯磨きなど日用品、家庭用品、園芸防虫剤まで幅広く扱うメーカーに成長した。

 だが、大幸薬品との提携を耳にした殺虫剤業界や日用品メーカーの間から「アースは技術力が落ちているのではないか」という声が上がっている。アース製薬は大正5年(16年)に日本で初めて炭酸マグネシウムの国産化に成功した会社として知られているし、「アース」を発売して殺虫剤メーカーの基礎をつくった。大塚グループになった後にも「ごきぶりホイホイ」を開発したし、渦巻蚊取り線香に対抗して「アースノーマット」も発売した。ライバル社に先を越される商品を売り出されても、技術の蓄積と発想力でそれを上回る新商品をつくったものだ。

〝買収まがい〟の手法で企業・商品を入手
 その一方で、アース製薬は〝買収まがい〟の手法で企業ごと、あるいはブランドを築いた商品を手に入れようとする傾向がある。

 その代表例がライバルのフマキラーとの紛争だ。2008年初頭にフマキラーの株式を買い集めていたことが判明。その後も「純投資」名目で買い集め、発行済み株式の約11%を占めるまでになった。殺虫剤メーカーの間では「フマキラーは東南アジアへの進出が早く、知名度も高い。海外進出に遅れを取ったアース製薬が買収したかったのだろう」と語られている。

 しかも、その最中に起こったのが特許紛争だ。アース製薬が「おそとでノーマット」を発売すると、2カ月後にフマキラーが類似の「どこでもべープ」を発売したことから、アース製薬が特許侵害として訴訟を起こした。

 製品の違いは単3乾電池か単4乾電池か、薬品の排気口が上下か、横かといった程度のものだったが、それまでこの業界ではどこかのメーカーが良いものを売り出すと、ライバル社が必ず類似商品を発売するのが常で、どの会社も同じことをやっているため、お互い様というのが暗黙の了解だった。ところが、そんな業界で突然、特許侵害騒動である。口さがない殺虫剤業界では「買収の側面攻撃」などと言われた。

 しかし、知的財産高等裁判所で争っている間に特許庁がアース製薬の特許を取り消したため、裁判自体が消滅。その後、アース製薬はフマキラー株を売却し、騒動は収束した。

 その後も、アース製薬は知名度のある商品を次々に手に入れてきている。具体的に挙げれば、投資ファンドからバスクリンの株式を買い取り、入浴剤「バスクリン」を手に入れ、民事再生法を申請して倒産した白元の再生スポンサーになり、カイロを除く商品を譲り受けて、防虫剤に進出した。また、米ブロックドラッグ(現グラクソ・スミスクライン)と提携し、それまで小林製薬が販売していた入れ歯殺菌剤「ポリデント」や歯磨き「シュミテクト」などを手に入れ、サンスターが販売していたオーラルケア製品「アクアフレッシュ」も販売権を手にした。さらに、英レキットベンキーザーとも提携し、消臭芳香剤「エアーウィック」の販売も入手した。

 新しい分野に積極的なのはいいとしても、多くが有利な条件で提携し、知名度のある商品の販売権を横取りしているという。こうした人気商品の〝横取り〟はアース製薬に技術力がなくなったせいなのだろうか。

 もちろん、アース製薬の開発技術力は、決してフマキラーやキンチョーに負けているわけではない。兵庫県赤穂市にあるアース製薬の研究所では、今でも100万匹のゴキブリ、1億匹を超えるダニを飼育して日夜、殺虫剤、防除剤、忌避剤などの研究を続けている。

 だが、提携で害虫駆除技術をカバーするようでは、来夏にもジカウイルスを媒介する蚊を撃退する商品を生み出せるか、心もとなくなる。

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