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第18回未来の会

第97回 高度肥満治療の効果を上げるため 患者の心理的側面を支える体制を作る

第97回 高度肥満治療の効果を上げるため 患者の心理的側面を支える体制を作る

肥満は世界的に増加し、特に高度肥満は様々な合併症を引き起こし、しばしば突然死に至る深刻な病態だ。真に肥満を改善する治療には何が必要かを、日本肥満症治療学会の白井厚治理事長に伺った。

肥満症に関する最近の動向を教えてください。
白井 まず高度肥満は軽度、中等度肥満、あるいはメタボリックシンドロームの延長上にある病態というより、高度肥満自体が一つの病態と把握し直す必要があります。高度肥満には糖尿病、高血圧、脂質異常症の重症化に加え、別の合併症も多く、重篤状態になって初めて病院を訪れる人が少なくありません。例えば、腎不全、心不全、運動器障害(膝、腰関節症)などがあり、突然死もよくみられます。ですが残念ながら、高度肥満者は一般健診を受診しない傾向があり、正確な実態調査がほとんどない状態です。透析患者は昔は痩せた人が多かったのですが、最近はBMI(肥満度を示す体格指数)が高い(25以上)肥満体型の人が増え、3分の2に及びます。糖尿病で腎臓が悪くなる例はよくありますが、肥満はそれ自体が腎臓に負担をかけ、腎不全を進行させていることが分かってきました。

肥満症による弊害が起きるのですね。
白井 一般社会の肥満に対する認識は、勝手に食べて太っているのだから病気でないとし、医療上、病気としてまともに取り上げられていないのが現状です。使える抗肥満薬はほとんどありません。しかし、今、肥満が糖尿病の原因となったり、その合併症の増悪要因となったりしている例が非常に増えています。最近、体重220㎏で重篤な腎不全と心不全を起こした患者さんが受診しました。引き受けてくれる病院がなく、当院で何とか受け入れたのです。透析をし、蛋白保持超低エネルギー食の療法を行ったところ、1カ月ほどで改善し始め、体重も減って、1年後100㎏を切り、順調に回復しています。このように医学的に正面から取り組めばうまくいく例がありますが、日本にはまだ高度肥満を診る体制が整っている病院がほとんどないのです。

肥満医療が発展していない?
白井
 はい。内科的治療は、中には良くなる人もいますが、ほとんど絶望的といってよいでしょう。肥満外科が最近導入され、特に腹腔鏡下胃バイパス手術や袖状胃切除手術が行われ始め、急速に進歩しつつあります。一時的には確実な減量効果が見られますが、一方で、アメリカでは術後2年以上経つと、中にはリバウンド、主にうつ病や自殺者が増えたなどの報告が2003年に出ています。それを契機に診療体制が見直された経験を踏まえて、今、わが国では、肥満外科に対する総合的支援チーム体制を各地につくりつつあるところです。

肥満症外科難民をつくらない医療

手術で肥満が改善されたのに、次は心の疾病?
白井 肥満の原因はもちろん栄養が主体ですが、実は心の問題も大きく関わっています。肥満症になる人は、“悩みやストレスを食べることによって解消し、自分自身で精神療法をしている”ようなものです。食べるとホッとして落ち着く。それが手術をしたことで取り上げられてしまうわけですから、本人は行き場がなくなってしまうわけです。従って、手術をしただけでは、抜本的な問題解決にはならないことが分かりました。アメリカで勃発した、急速に増加した肥満外科に対する問題は、肥満外科手術だけを行い、術後ケアを十分にしなかった結果、うつ病などの精神疾患や自殺者が多発したというわけです。当然の帰結です。

それが学会の方針のきっかけに?
白井
 このアメリカで起きた、2003年問題をきっかけに、当学会の方針はより強固なものになりました。性格的なところを改善していかないと、根本的な肥満治療にはならないわけです。従って、外科と内科治療に加え精神科的な療法も同時進行することが望まれます。学会自体は1983年から活動をしていましたが、最近の肥満症外科治療が増加傾向にある中、行き場所のなくなった肥満外科治療受診者が難民化しないように、外科医に加え、内科医と精神科医、臨床心理士がチームとなり、患者さんを一生診ていく覚悟で当たるべきです。患者さん自身は、減量の成功体験を人生のさまざまな場面で生かしていってもらいたいものです。

具体的にはどのような活動をしていますか。
白井 肥満治療に対して、内科的治療、外科的治療を推し進めるにあたり、外科、内科、精神科、臨床心理士、臨床栄養士も含むチーム医療を行うよう、学会から発信し続けています。2003年問題を教訓として、手術をする際はまず内科で全身状態をチェックし、手術後も内科、精神科がチームとしてフォローし、予後調査の義務付けもしています。手術をして終了ではなく、内科、精神科領域に及ぶ本質的な治療を目標にしていきます。そのための研修セミナーも継続しており、全国的に体制が整ってきています。

肥満症はパーソナリティー障害の検証が鍵

肥満改善には心の問題が大きいのですね。
白井
 そうです。当学会のメンタルヘルス部会で今年9月に『肥満症治療に必須な心理的背景の把握と対応〜内科的・外科的治療の効果を上げるために〜』という本を発行しました。肥満のみならず、メンタルケアは一般の病気にも同じことがいえます。一人ひとりの認知力・行動力の位置付けを検証した上で、患者にアプローチしていくというものです。それには、パーソナリティー分類が肝要と提唱しています。肥満症患者に、心理検査であるロールシャッハ・テストを行うと、ハイラムダ型(問題解決を回避し、物事を深刻に考えず楽しい方向に持っていき、他人任せで頑固)が多いことが判明しました。つまり自分の問題を自発的に解決しようとしません。中には子供時代に、家庭内暴力や孤独感などを体験し、自分の行き場がなかった人たちが多く、そうした人は食に執着する傾向が高くなることも明らかとなりました。以上から、医療者は肥満外科治療はもとより、それを支える体制整備の重要性を理解する必要があります。

今後の取り組みをお聞かせください
白井 高度肥満症治療では、医療者と患者の「協働的な関係」が不可欠で、それを実現するための方法として、「エンパワーメント」といった相互の行動様式が大切になってきます。つまりは真の思いやり医療、全人的医療が実現される場でもあるのです。減量がうまくいくと顕著な代謝改善はもとより、性格的にも良い方向に変わる事例を多数経験しています。この分野のさらなる発展のため、多職種の医療人が関わり、互いに成功体験、失敗経験の情報を交換しつつ、より良い治療法の確立を目指したいと思っています。

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