SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第76回 LIXIL前社長の社外取締役登用で株価急落

第76回 LIXIL前社長の社外取締役登用で株価急落
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
LIXIL前社長の社外取締役登用で株価急落

 周知のように、国民の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、巨大損失を出している。今年1〜3月期の運用実績で、4兆7990億円の赤字。4〜6月期が、5兆2342億円の赤字だ。

 安倍晋三首相が、GPIFの資産運用の割合(ポートフォリオ)を変更し、国内外の株の比率を一挙に2倍の50%にまで引き上げたのが、2014年の10月末のこと。当時、それまで市場を潤わせていた円安株高のトレンドはすでに中間点を超えた時期にあたり、運用のプロならポートフォリオの変更をするには不適切な段階であったくらいのことは理解できていただろう。

 結局狙いは、安倍の株高維持=政権維持のためであったのは疑いないが、そのGPIFは7月下旬、保有している全株式の2037銘柄を公開した。うち、GPIFが実質筆頭株主の会社として、トップがオリックス(推定値9・3%。以下、同)。次いで三井住友トラスト(8・5%)、HDHOYA(8・1%)と続き、製薬業界ではアストラ製薬(7・3%)が9位につけ、武田(6・8%)が14位となっている。

 どのような基準でこの順位となったか不明だが、そもそも私企業の筆頭株主が政府の独立法人というのは、市場原理からしていかがなものか。GPIFの1兆数千億円という巨額なマネーが流れた以上、株安になって引き上げようものなら暴落の材料となり、売るに売れない。結局、買い支えることになるのだろうが、そうなると市場をゆがめることになりかねない。だが、それでも変動要因には事欠かないはずだ。

 武田の場合、今年で株価の急落が目立ったのは、5月11日の東京市場での、5289円が269円安となったケースだ。さらに6月2日には4550円まで下げ、当時は年来初の安値となって注目された。

 武田の株価は昨年11月に6000円を超えたものの、その後ズルズルと続落。今年6月には4000円を割りかける展開となり、今日まで5000円を超えていない。7月29日大引け後には、17年3月期第1四半期(4〜6月)の連結税引き前利益が前年同期比3・1倍の1496億円に急拡大したと発表して株価もいったんは続伸したが、8月にまた落ちている。

 やはり、根本的に武田は、今もって「国内事業を支えた大型品の特許切れ後の新たな目玉商品がなく、海外展開の今後の成果も見えにくい」(証券アナリスト)という評価を免れていないことが大きいだろう。

「プロ経営者」らしからぬ人物

 話を5月の急落に戻すと、この日前日の10日には、16年度3月期の連結決算が2期ぶりに黒字転換するという発表があった。それでも、国内医療用医薬品売り上げが前月比3・5%減となったことが影響したと考えられるが、実はもう一つのマイナスと思われる材料もあった。武田の、新任2人の社外取締役候補の発表だ。

 うち1人は、建築材料・住宅設備機器業界最大手であるLIXILグループの藤森義明・社長兼CEO(最高経営責任者)で、この時点ですでにM&A(企業の合併・買収)の失敗のために、同職からの退任が決定していた。もう1人が日産自動車の志賀俊之・取締役副会長だが、2人の招請は何と「海外でのM&Aについて助言を求めるため」(武田広報)という。

 志賀はともかく、市場が歓迎しなかったと思われるのは、だれがどう見ても藤森の新任にある。藤森といえば、すぐに「プロ経営者」という用語を思い出すが、日商岩井(現・双日)から米ゼネラル・エレクトリック(GE)に転じ、46歳の若さで上席副社長に昇進。その華やかな経歴を背負って11年8月、LIXILの経営トップに乞われて就任と前評判は良かったものの、そこでの実績が悪過ぎた。

 藤森は当初から海外の大型M&Aを展開し、衛生陶器の米アメリカン・スタンダード、水栓金具の独グローエなど、業界の世界的名門を次々と買収。だが、中国の水栓金具メーカー・ジョウユウをグローエ買収に伴い傘下に収めたことが、決定的な失敗となる。ジョウユウは上場していたドイツで破産を宣告され、LIXILは関連して660億円の損失を計上する結果となったのだ。経営トップの座を譲って藤森を招請した創業家の二代目である潮田洋一郎はこれで藤森を見限り、退任が昨年12月の取締役会で決議された。

経済同友会で長谷川とコンビ

 このように、M&Aの失敗で会社に660億円もの大損害を与えた「プロ経営者」らしからぬ責任者が、退任決定後半年も満たずに今度はM&Aの「助言」という理由で他社の社外取締役に就任するという例は、まれではないのか。だが、それがまかり通った理由は一つしか考えられないだろう。武田会長の長谷川閑史との関係である。

 長谷川が経済同友会の代表幹事だった時代、藤森は副幹事。任期切れ後、長谷川は藤森を自分の後継ポストに据えようと考えていたほど2人の間は親密だったが、14年に藤森を名指しで糾弾する怪文書が財界内で出回る。そこには、次のように書かれていた。

 「福島第一原子力発電所の機材はかつて米GEが製造し福島に設置したもの。2011年3月の事故当時のGEジャパンの責任者は藤森氏。GEは数億円の見舞い金を払ったが、事故の道義的な責任がある。これを全うするために藤森氏はGE本社を説得して数百、数千億円の被災者支援金を支給すべきだった。しかし、同氏は事故から数カ月後にこの重大事故の後始末を投げ出し十数万人の被災者を見捨てて住生活グループ(社名変更前のリクシル)社長に転身した」

 この真相はともかく、結局これで流れが変わって新幹事は三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光に落ち着くが、長谷川と藤森は共に、内閣府がサポートする「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」なる団体の、「女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる企業の男性リーダー9名」にも加わっている。

 何のことはない。長谷川が二言目には口にする「グローバル人事」どころか、これでは日本的「情実人事」そのものだ。2人は英語が堪能で大の米国びいき、熱心な原発推進論者という点でも共通しているが、肝心の藤森が武田で何をなし得るのかという点については未知数だろう。それでも例の株価急落は、とうにそれもお見通しだという証左かもしれないが。 (敬称略)

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top