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政府による「オプジーボ・バッシング」の二律背反

政府による「オプジーボ・バッシング」の二律背反
医薬品産業の価引げをどうさせるか

 これまでの医薬品より治療成績が良く、画期的とされるがんの免疫治療薬、「オプジーボ」への風当たりが強まっている。患者1人分の1カ月の薬代が300万円を超すとあって、薬剤費の膨張による「亡国論」さえ言われる状況だ。そうした中、厚生労働省は、オプジーボに関しては2年に1度の診療報酬改定を待たず、緊急的に薬価を下げられるようにする仕組みを提案した。財務省はこれに乗じる形で診療報酬「本体」と薬価改定を切り離そうとしており、今の仕組みを維持したい日本医師会(日医)との攻防に熱が帯びてきた。

 幸野庄司・健康保険組合連合会理事「次の2018年度(薬価改定での引き下げ)を待たず、(定期外の)期中改定もあり得るということを検討すべきだ」

 中川俊男・日医副会長「18年度改定で何らかの措置をすることも選択肢だ。期中改定だけを前提に議論することは賛成できない」

 8月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会。事務局の厚労省はオプジーボの薬価の緊急引き下げを可能にする案を示し、年末までに結論を出すよう求めた。支払い側委員の幸野氏らは賛意を示したのに対し、診療側の中川氏らは慎重論に終始した。

 厚労省の提案は、緊急に薬価を引き下げられる対象として、①15年10月〜16年3月に効能の追加があり、②16年度の市場規模が当初予測の10倍を超え、かつ1000億円を超える——医薬品を挙げていた。①②に該当するのは、15年12月に新たな効能が加わり、これによって16年度の売り上げ見込みが当初予測(31億円)の40倍、1260億円に膨らんだオプジーボ以外、見当たらない。

 オプジーボは14年9月、皮膚がんの一種、メラノーマの治療薬として小野薬品工業が発売した。メラノーマの患者数見込みは年470人。少数にとどまり、薬価を高めに設定しないと採算が取れないとして、100㍉で約73万円の価格設定が認められた。ところが15年12月、切除できない「非小細胞肺がん」の治療薬としても保険適用が認められたことで、対象患者は一気に数万人に広がった。

薬価引き下げで財務・厚労が連携
 想定より市場が広がってよく売れた薬については、定期改定時に薬価を下げる制度がある。しかし、定期改定は2年に1度。予測を超す売れ行きになっても、すぐには減額できない。オプジーボの場合、肺がんへの適用拡大が決まったのが15年12月で、16年度の定期改定時の減額には間に合わなかった。今年8月には腎細胞がんへの適用も認められたが、今も当初の薬価が続いている。体重60㌔の患者の1年間の薬剤費は3500万円。医療費の自己負担に上限を設けた高額療養費制度があるため一般的な患者の自己負担は月9万円程度で、残りは全て保険料と税金で賄われる。

 「オプジーボの年間医療費は1兆7500億円」。財務省がそう言って財政難を吹聴する中、厚労省が緊急に薬価を下げられる仕組みを提案したのは、このままでは18年度の診療報酬改定まで薬価が高止まりし、国の財政を圧迫するとの危機感からにほかならない。

 現時点で、緊急値下げの対象はオプジーボに限られている。だが、小野薬品工業以外の医薬品メーカーは「今後、他にもとばっちりを受けるところが出るのではないか」と警戒している。厚労省の二川一男事務次官は「薬価改定サイクルを早めるべきだ」というのが持論で、同省が緊急に薬価を下げられる医薬品をさらに増やそうしている節がうかがえるためだ。

 16〜18年度の社会保障費の伸びを計1・5兆円に抑える方針に沿い、政府は17年度も医療、介護費を大幅に削ろうとしている。それでも、オプジーボの緊急値下げで浮く国費はせいぜい百数十億円程度にすぎない。永続的な社会保障費抑制策の一つとして、財務省は随時薬価を下げられる高額薬を増やしていき、「2年に1度」という薬価改定のルールを空文化させることを狙っている。

 「薬価改定(で浮く)財源を(診療報酬の)本体改定財源に充てるということが担保されるなら、期中改定も理解できるが、非常にリスキーであり、国民皆保険が崩れてくることにもつながりかねない。慎重にやらないといけない」。7月27日の中医協総会で、日医の中川副会長はこう指摘し、財務省の思惑をけん制した。

 医療機関や薬局が医薬品を購入する際、メーカーは通常、他社との競争に勝とうと値引きをするため、実際の取引価格は公定薬価より安くなる。そして医療機関や薬局は公定薬価で患者に処方し、仕入れ値との差額を利益としている。この差額分の多くは税や保険料で賄われていることから、厚労省は2年に1度の診療報酬改定時に薬価を実勢価格に合わせて引き下げている。

 財務省は薬価をさらに引き下げるよう求める一方で、浮いた財源の使い道に強い異を唱えている。従来、薬価の減額で捻出したカネは、手術代など、医師の収入源となる診療報酬「本体」の引き上げ財源に充てられてきた。しかし、財務省は「薬価と診療報酬本体に直接の関係はない」として、14、16年度改定では薬価の引き下げで浮いたカネの一部を本体に回さず、長年の慣例にくさびを打ち込んだ。

 これに加え、同省は緊急に薬価を下げられる医薬品を増やして事実上の「随時改定」とすることを目指している。薬価の見直しを2年に1度の診療報酬改定と切り離すことで、薬価の切り下げ分を診療報酬本体に回さずとも済むようにし、国の借金返済に充当しようと画策している。

イドラインでハードルを高くする
 高額の医薬品については、薬価だけでなく、使用量にも制限がかけられようとしている。厚労省は、新しいメカニズムを持つ医薬品には「最適使用推進ガイドライン」を作り、使用できる医師や患者を絞り込む意向だ。対象薬として、まずはオプジーボと、高コレステロール血症治療薬「レパーサ」などを俎上に乗せた。ガイドラインに沿わない使用法の場合は、保険適用が認められなくなる。

 「オプジーボの適正使用について」。7月、小野薬品工業による医療関係者向けの警告文は各方面に波紋を広げた。オプジーボと他のがん免疫療法を併用したところ、重い副作用が出て患者が死亡した、との報告だった。厚労省幹部は「(副作用で多くの患者が死亡した肺がん治療薬)イレッサを連想した。有望な新薬でも、熟練した医師、緊急時でも対応できる施設がそろわないと効果を発揮しない」と漏らす。

 安倍晋三政権が13年11月に打ち出した「日本再興戦略」の柱の一つは、医薬品産業の振興だ。国内メーカーが画期的な薬を創出できる環境を整備し、経済成長につなげる狙いがある。「国の財政危機を前に、背に腹は代えられない」(厚労省幹部)とはいえ、超高額薬の緊急値下げは政府の成長戦略と相いれない。

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