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2年連続「医学部新設」がもたらすもの

2年連続「医学部新設」がもたらすもの
療ツリズきても、


2年続いて医学部が新設されるのは、医学界にとって極めて大きなニュースだ。

 1979年の琉球大学(沖縄県)を最後に、医学部新設は長く認められていなかったが、2016年に被災地復興支援の特例として「東北医科薬科大学」(東北薬科大学から改称、仙台市)が認可されたのに続いて、2017年4月には国家戦略特区事業の枠組みで、国際医療福祉大学(本部・栃木県大田原市)の成田キャンパス(千葉県成田市)に医学部が新設される。特区の成田市の医学部誘致に応じた国際医療福祉大と共に、医学部や病院の新設を共同提案したのが採択された形だ。

 医学部の設置される場所は京成線・公津の杜駅前で、2016年4月には一足先に成田看護学部・成田保健医療学部が開学している。その敷地内に医学部校舎を、そして2020年開院予定の新たな付属病院(640床)を成田市畑ケ田地区(成田駅南東約5km・成田空港駅南西約8km)に、それぞれ建設中である。

国際性豊かな教育と私大医学部最低の学費
 同医学部の定員は140人と多く、うち20人は東南アジアを中心とした留学生を受け入れる。目指すのは、国際的に活躍できる高度で総合的な診療能力を身につけた医師の育成であり、日本語だけでなく、英語の高いコミュニケーション能力と国際標準の診療能力を持たせるという。このため、グローバルスタンダードに対応した国際性豊かな医学教育体制を敷く。

 講義の大半は英語で行われ、6年次には全員が4週間以上の海外での臨床実習に参加する。また、成田キャンパスには、5000㎡を超える世界最大級の医学教育シミュレーションセンターを設置。教員は300人以上で、うち、他大学では類のない専任教員25人で構成される「医学教育統括センター」も設けている。

 これだけ力が入っているにも関わらず、学費は6年間合計で1850万円と、全国の私立大学医学部では最低額に設定されている。

 同大は四つの付属病院に加え、臨床医学研究センターという位置付けのグループ関連病院・施設を多数持ち、臨床実習施設は既に豊富にある。しかし、校舎や新病院と整備費用はかさむ。

 これには、成田市の負担分も少なからずある。成田市は、かつて犠牲者まで出して開港した国際空港があり、空港による固定資産税などで裕福な財政事情である。このため、医学部、病院の用地は、市が約33億円で土地を取得・造成し、大学に無償貸与する他、校舎建設にも45億円を補助する予定になっている。

 将来的に医師が過剰になると見越し、国は一貫して医師抑制策を採り続けてきた。しかし、医師不足・地域医療崩壊が叫ばれるようになったことで、2008年度から医学部入学の定員増に転じた。当時の民主党は、そのマニフェストの中で、「医師を1.5倍に増やすことを目標に、医学部学生を増やす」と掲げた。厚生労働省が公表した「必要医師数実態調査」で、勤務医の絶対数不足とともに、地域や診療科ごとの医師

偏在が明らかになったことを受け、文部科学省では、医学部新設の是非を論議するための専門家会議を設置した。

 新規計画中の医学部がまず目指すべきは、臨床に強い意欲を持つ医師の養成だった。特に事情が深刻な北海道では、北海道医療大学、公立はこだて未来大学が、地方出身者を重視して、地域に貢献する医師づくりを志した。JA長野厚生連佐久総合病院も農村医科大学の誘致を目指していたとされる。また、聖隷クリストファー大学や国際医療福祉大学も非常に意欲的だった。

 その中で、1995年開学の国際医療福祉大学は、医療福祉系総合大学で、四つの付属病院を含む9病院をグループ内に抱え、薬剤師、看護師、放射線技師、理学療法士、作業療法士などと、医師以外のほとんどの医療スタッフを養成する学部を持つ。

 医師も自前で育てたいと、2010年に医学部設立準備委員会を発足。新設医学部の定員は120〜125人と大型の医学部を計画し、場所の候補も複数照準を定めていたようだ。偏在解消には、奨学金セットの地域枠を用意した上で、入学試験との合わせ技で、医学部キャンパスを置く地域の医療に貢献できる人材の輩出に応えられるようにする意図もあったとされる。

人口1000人当たり医師数はワースト3の千葉
 しかし、今回は「国際性」をメインに打ち出す医学部・病院で、メディカルツーリズムには貢献し、学生・教職員・患者を含めた経済的波及効果には期待できても、明確な地域医療への貢献を表すものはない。

 約4300万人が住む関東地方には24の医学部があるが、人口約620万人の千葉県には千葉大学の医学部があるのみである。これに対して、人口約380万人の四国には四つの国立大学医学部がある。

 人口1000人当たりの医師数は1.8人で、埼玉県、茨城県に次ぎ最下位グループに位置している千葉県からは、「国際性」より「地域医療」の担い手への期待がかかるのは、当然とも言えるだろう。養成した医師の一定割合は千葉県に残るかもしれないが、それより以上に、千葉県の地域医療へ貢献する志も求められるのではないだろうか。

 医学部新設には、日本医師会、全国医学部長病院長会議をはじめとして、反対の声も根強くある。入学定員増だけでも医学生の学力が下がったとの認識もあるようで、医師の質低下に対する懸念が大きい。

 日本医師会の推計では、同年齢のうち医師になる割合(医師国家試験合格者数/25歳人口)は、1976年に437人に1人、2014年には162人に1人、現在の定員が継続すれば2030年には132人に1人と予測。2025年の人口1000人当たり医師数は現在の約1.4倍になると推計している。さらに、教育の担い手を確保するために地域の病院から中堅医師の引き剥がしが起こると危ぶむ声もある。

 養成人数を考えれば、医師過剰時代は確実に到来する。新設医学部を創れば、医師数をコントロールできなくなるのではないかという懸念も出される。全国の「地域枠」での入学定員は、この7年ほどで1500人以上増加した。これは医学部を15校創ったのに匹敵する規模だ。既存の医学部の定員増のみで医師不足をしのいだならば、医師数が充足する将来は定員を減らせば対応できると見られる。

 しかし、医学部自体を増やせば、廃止することは難しい。歯学部は今、それにあえいでいる。そして、法科大学院は続々と創られたが、司法試験の合格率は低く、合格しても弁護士の仕事には限りがあるといった厳しい環境から、既に数校が廃止を決断した。

 こうして批判の声を乗り越えて、医学部を創って良かったと思える日を期待する他ない。

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