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第94回 政界の主要テーマに「世代交代」が浮上

第94回 政界の主要テーマに「世代交代」が浮上

 参院選と東京都知事選、内閣改造、さらには天皇陛下のお言葉……。この夏、政界は大きな出来事が相次いだ。通例は終戦記念日を中心とした「鎮魂の季節」となる盛夏は、生前退位の意向をにじませた天皇陛下のビデオメッセージにより、戦後の諸制度の在り方に思いをめぐらせる季節となった。キーワードは「世代交代」。次の時代への引き継ぎが大きな政治テーマとして浮かび上がった。

陛下のお言葉めぐる与野党の思
 天皇陛下が熟慮を重ねたメッセージの正式名称は「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」という。ポイントは「お務め」にある。在位するだけではなく、役割を果たすことによって象徴天皇は成立しているのだという基本思想が、この言葉に凝縮されているからだ。天皇陛下の真面目で勤勉な人柄を反映したとみられるが、「お務め」に込められた積極的な意志と、その発信は、憲法や皇室典範、歴代政権の想定を超えたものであり、大きな波紋を呼んだ。それは高齢社会における皇位継承の在り方というパーツの問題ではなく、戦後体制の根幹に関わる問題だったからだ。

 憲法上の制約から、政界の反応は「重く受け止めている」(安倍晋三首相)、「謹んで受け止め、思いを深くしている」(大島理森衆院議長)、「お気持ちに応えていく必要がある」(岡田克也・民進党代表)など、差し障りのない内容になっている。しかし、お言葉が政界に与えた衝撃は相当なものだった。

 与党幹部が語る。

 「陛下のビデオメッセージは東日本大震災の際にもあったが、あの時は弔意を示し、被災者を励ますものだった。今回は象徴天皇という憲法上の基本問題に関し、個人的としながらも、積み重ねた理論を提示されている。こうしたやり方は、終戦を宣言した昭和天皇の『玉音放送』以来のことだろう。憲法が禁じている天皇の政治関与も考慮の上で、ぎりぎりの線で決断されたのだと思う。畏怖すら覚えるお言葉だった」

 自民党の若手からはこんな声も出ている。

 「当たり前のことのように思っていた象徴天皇制に多くの問題が内在していたことを知った。日ごろ、接点が薄いとはいえ、不勉強を恥ずかしく思った。同時に天皇の存在の大きさを再認識した」

 「内閣支持率は40%程度、メディアによると天皇のお言葉は8割以上の国民に支持されている。陛下に対する支持は9割以上だろう。戦前とは異なるが、天皇は明らかに一つの大権だ。いずれかの勢力が政治利用しようとすれば、大変なことになる。歴史をひもとくと、生前退位には政争が付き物だった。よほど慎重に考えていかないといけない」

 野党幹部はこんな見方をしている。

 「お言葉は、改憲まっしぐらの安倍政権に対するけん制ではないか。私には『安倍よ、そう事を急ぐでない』というメッセージに聞こえた。陛下は『象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じる』と述べられている。象徴天皇とは、つまり、戦後の平和主義のシンボルだ。憲法9条(平和主義を規定)改正への警告、そう感じる」

 ややうがった解釈ではある。しかし、陛下のお言葉に沿った議論が本格化すれば、優先順位の高い政治課題となるのは必至。安倍首相の政権運営にも少なからず影響が出てくる。改憲に向け、項目を整理する衆参両院の憲法審査会で象徴天皇制が議題に上れば、他の改憲テーマは後回しにせざるを得ず、安倍首相が目指す改憲スケジュールに狂いが生じる可能性も出てくる。

 「陛下の声を直接聞くことができる国民はごくごく一部だ。その中で、今回、全国民が等しく陛下の率直なお考えを直に聞くことができた。終戦から71年、戦後体制も節々が傷み、ちりやほこりも積もった。これを機会に、来し方行く末をもう一度、じっくりと考えてみようということじゃないか」。自民党の長老は、お言葉の真意をそう捉えている。

輪郭くっきり、ポスト安倍の構図
 皇位継承問題の浮上で、すっかり印象は薄くなってしまったが、政界ではこの夏、与野党共に「世代交代」に向けた胎動が始まった。以前から、たびたび取り沙汰されてきた「ポスト安倍」問題は内閣改造で輪郭がクリアになり、野党では低迷する民進党の新党首選びが始まった。

 内閣改造の目玉は、稲田朋美防衛相だ。自民党政調会長を経験したとは言え、当選4回での閣僚就任は異例であり、安倍首相が有力後継者の一人として指名したに等しい。米国でヒラリー・クリントン氏が女性初の大統領に就任する可能性が高いことや、東京都の小池百合子知事誕生という「女性の時代」に呼応した抜てき人事と言える。

 あおりを食ったのが、閣内に残留した麻生太郎副総理と岸田文雄外相だ。いずれも「ポスト安倍」に意欲を示すが、新世代の女性有力候補の登場によって世代交代の流れは強まり、自転車事故で幹事長を退いた谷垣禎一元財務相ともども劣勢を余儀なくされている。

 旧世代の首相候補をいらつかせているのが総務会長から横滑りした二階俊博幹事長の言動だ。

 二階氏は就任の記者会見で現在、連続2期6年までと規定している自民党総裁任期の延長について「議論する場をつくることが大事だ」と言及。発言の真意を問われたテレビ番組でも安倍首相が3期目を目指して立候補できるよう党則を改正することも視野に入れていると明らかにした。安倍首相が3期目を成し遂げれば世代交代論は一層強まるに違いない。安倍首相とほぼ同年代の首相候補は行き場を失いかねない。

 「二階さんは、自分と同じ旧世代の力をそぎ、キングメーカーになろうとしているんじゃないか。安倍さんが長期化すれば、ポスト安倍は稲田さんなど新世代に移る。若手に対する二階さんの求心力は当然高まる」

 自民党中堅議員はそう読み解くが、二階氏がけん制する本当の相手は、閣外に出て、巻き返しをもくろむ石破茂元幹事長だといわれる。二階氏と石破氏は、かつて小沢一郎氏が率いた野党・新進党に所属した。旧知の間柄だが、折り合いは悪く、いつしか互いに毛嫌いする関係になった。二階氏は田中角栄元首相や金丸信元副総裁らかつての実力者の傍らで政治の機微を学び、自民党を熟知している。安倍首相で行けるところまで行き、その後は一気に世代交代を進める腹づもりとみられている。

 民進党は、岡田代表の後継を選ぶ代表選が9月15日に行われる。毎度、民主党発足以来の幹部のたらい回しで、新鮮味が乏しい代表選びだったが、今回は蓮舫代表代行の就任が有力視されている。新世代の女性党首で心機一転、巻き返しを図れるか。正念場を迎える。

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