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第101回 子宮頸がんワクチン集団訴訟で接種勧奨困難に

第101回 子宮頸がんワクチン集団訴訟で接種勧奨困難に

 子宮頸がんワクチンの接種による健康被害を訴える女性らが国と製薬企業に損害賠償を求める集団訴訟を起こした。厚生労働省は、同ワクチンを今も定期接種の対象に残す一方で、接種の積極的勧奨は中止するという苦肉の対応をとってきた。裁判では争う構えの同省だが、専門家のワクチンへの評価が分かれる中、省内からは「早期の勧奨再開は難しい」との声が漏れる。

 子宮頸がんワクチン接種をめぐる訴訟は、身体の痛み、視覚障害といった被害を訴える15〜22歳の女性63人が7月27日、国と製薬会社2社に総額約9億4500万円の損害賠償を求めて東京、大阪、名古屋、福岡の4地裁に起こした。女性たちが接種を受けた時期は2010年7月〜13年7月。当時中高生だった人が大半で、国は危険性を認識していたのに調査をせず承認し、接種を推奨した責任がある、と主張している。

 被害者の1人、埼玉県の大学生、酒井七海さん(21歳)は、高校1年の時にワクチンを2回接種。その後、身体にしびれが出て、歩くのが難しくなり、車いすが手放せなくなった。視野も4分の3ほどに狭まった。訴訟を控えた3月30日、他の被害者らと記者会見に臨んだ酒井さんは「なぜ自分が被害を受けたのか、それを知りたい。国やメーカーは問題の背景を明らかにし、被害を繰り返さないようにしてほしい」と訴えた。

 日本で子宮頸がんワクチンは09年に承認され、13年4月には小6〜高1が定期接種の対象となった。しかし、副作用の訴えが相次ぎ、厚労省はわずか2カ月で勧奨を中止、今に至っている。今年4月末現在、同省は約339万人の接種者のうち2945人からの副作用報告を受けている。

 厚労省の専門部会は14年、被害について、注射の痛みなどをきっかけとする「心身の反応」との見解をまとめている。ただ、同省は医療支援などの救済策には前向きで、塩崎恭久厚労相は「苦しんでいる方に寄り添った支援をしていくのが何よりも重要」と語る。

 同ワクチンは、世界的には「有効」との見方が主流だ。世界保健機関(WHO)は接種を推奨し、昨年12月には専門家委員会が日本を名指しで「若い女性が、予防可能ながんに無防備になっている」と懸念を表明している。

 日本でも、産科婦人科学会などはWHOと同様の見解を示している。ただ、「副作用はワクチンを原因とする新しい疾患」と主張する専門家もおり、決着はついていない。このため、同省は依然結論を示せないでいる。

 厚労省は、ワクチンと健康被害の関係について、接種を受けた人と受けていない人の間で発症割合に差があるかどうかを調べており、その結果に沿って結論を出そうとしている。それでも、時期は不透明で、ワクチンの有用性をめぐる主張は対立が続きそうだ。同省幹部は「国などの過失で危険なワクチンが出回って被害を受けたことを立証するのは難しいだろう」と裁判は国有利に進む、との見通しを示しながらも、「今の国の対応では、ワクチンを受けた方がいいのかどうか、分からない女性が大半だろう。とても悩ましい」と漏らす。

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