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「大胆な経済政策」で実質「ヘリマネ」に突入

「大胆な経済政策」で実質「ヘリマネ」に突入
財政律の緩と財政拡大がく破滅への

 歴史のアナロジーが、最近目につく。この種の話は大概ネガティブな過去の経験が題材にされるが、それだけ現状にまとわりつく行き詰まり感が深刻なのかもしれない。

 中央銀行がほぼ無制限に札を印刷し、それを元手に政府が国民にカネを配るという、市場関係者が熱く期待を寄せているらしい「ヘリコプター・マネー」は、敗戦直後のハイパーインフレの元凶となった1930年代の「高橋財政」(高橋是清蔵相の財政政策)を想起させる。

 また、世界の戦史で無謀な軍事目的を設定し、当然ながら失敗した作戦の典型として悪名を残す「インパール作戦」(太平洋戦争時、日本陸軍による補給線を無視したずさんな作戦)が、円安と株高の固定化と、消費者物価前年比上昇率2%の「物価安定の目標」という、今やどう考えても実現不可能なことを、「追加の金融緩和」を日本銀行にさせ、性懲りもなく実現しようとしている安倍晋三の姿とダブって見えるという指摘もなくはない。

 財政の後先も考えず、支持率優先と政治的打算しか頭にない安倍の政策は、目先の「敵に一撃を食らわす」という願望だけに捕らわれ、戦略不在のまま果てしなく戦線を拡大した末に破綻した日中戦争のいきさつも、おそらく「歴史の再現」という意味でアナロジーが可能だろう。

 安倍政権は8月2日の臨時閣議で28兆1000億円の経済対策を決定した。第2次安倍政権発足後の最大の事業規模というが、国政選挙終了を見計らったように大型経済対策を打ち出すというのは、歴代自民党内閣でもまれな例ではないのか。

 参議院選挙期間中、安倍は本音の改憲について何も触れないまま、繰り返し「アベノミクスの成果」なるありもしないウソ話を散々吹聴していたのだから、その後にあえて大型経済対策というのは明らかに矛盾している。経済がうまくいっているのなら、深刻な財政難の折、これほどの規模は必要ないはずだからだ。

参院選での関係者への〝返礼〟か
 もっとも永田町界隈では、「選挙で自民党がお世話になったゼネコン・土建屋への返礼」(自民党担当全国紙記者)という受け止め方もあるが、当たらずといえども遠からずというところだろう。何しろその内容たるや単に借金を増やすだけのバラマキ予算で、安倍自身が口にする「大胆な経済政策」とはほど遠い内容だ。

 そもそも数字上は「最大の事業規模」だが、民間の支出や融資などの金額を引いた純粋な政府支出(真水部分)は約6兆円で、地方を合わせても7・5兆円の規模にとどまる。6兆円といっても当面の9月編成の2016年度2次補正予算で対応するのは約4兆円。残り2兆円が手当てされるのは、翌17年度からになる。

 14年度の補正予算は3・1兆円で、15年度のそれは3・3兆円だったことを考慮すれば、この1〜2年の経済対策と比較し、格別「大型」と呼べるわけではない。これではどうひいき目に見ても、景気対策の効果は限定的なものとなろう。

 しかも安倍は選挙期間中、野党に対して社会保障財源に関し、「赤字国債頼みは無責任」などと批判していた。ところが、28兆1000億円のうち、税収増で賄われるのはせいぜい1兆円だ。財投債を発行しての財政投融資が約6兆円で、建設国債も数兆円発行するから、「無責任」と呼ばれるべきは安倍本人だろう。

 中身もひどい。「大型クルーズ船向けの港湾整備」や「TPP(環太平洋連携協定)対策の農産物輸出拡大」、果ては自衛隊の「弾道ミサイル攻撃への対応」まであるメリハリのない各省庁の要求項目羅列型だ。『日経』ですら「このままではハコモノ優先の対策になりかねない」と、見出しに「実効性は未知数」(8月3日付電子版)と打った。

リニア新幹線整備に安倍支援者・葛西
 最も問題なのは、「21世紀型のインフラ整備」と称した「リニア中央新幹線」の大阪までの開業を、45年から最大8年前倒しにするという類いだ。これまで何度も経済浮揚の効果がないことが証明されている不要不急の大型プロジェクトの典型だが、そもそも「前倒し」といっても、名古屋以降の大阪までのルートはまだ未決定で、いつ決まるのかさえ不明だ。当然、工事がいつ着工されるかも皆目見当がつかない。

 加えて、①既存の新幹線との競合と人口減を考慮しての採算困難性②南アルプスの巨大トンネル工事で予想される建設残土廃棄場所の不確定③発生する低周波騒音や電磁波被害などへの対策不明——等々、そもそも「リニア中央新幹線」が本当に必要なのかという論議自体、煮詰まっているとは到底言えない状態だ。

 これほど景気対策とは程遠い民間会社の「事業」に、なぜ予算を投じるのか。恐らく唯一説得的な理由として考えられるのは、例の「返礼」と同様の情実だろう。事業主体のJR東海には低利融資する財政投融資が適用されるが、同社名誉会長の葛西敬之といえば「リニア中央新幹線」の最大の旗降り役であると同時に、安倍を支援する財界人の集まりである「四季の会」や「さくら会」の中心人物として知られ、ブレーンとも目されている。

 恐らくこのままだと、「リニア中央新幹線」は日本の財政悪化に一層の拍車を掛ける最悪の元凶の一つとなる可能性が高い。しかも、それが情実によるものだとしたら、何やら「インパール作戦」失敗の主犯である無能で狂信的な精神主義者の牟田口廉也中将が実行部隊の第15軍司令官に選ばれたのが、ビルマ方面軍司令官の河辺正三中将(後に大将)の情実人事であった事実が思い浮かぶのはアナロジーのし過ぎだろうか。

 さらに、「政府から独立した中央銀行」という日銀の建前すら念頭にはないらしい総裁・黒田東彦も、過去の戦争とのアナロジーを促す。黒田はデタラメな28兆1000億円の経済対策と一体であるのを事実上認め、「極めて緩和的な金融環境を整えていくことは、政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」(7月29日の金融政策決定会合)などと語っているが、やっていることは財政法で禁止されている日銀による政府借金の直接引き受けに等しい。

 日銀は、政府の借金証書に等しい長期国債の保有残高が毎年80兆円増えるよう銀行から国債を買い取っているが、今や日銀が保有する長期国債は全体の33%に達している。禁じ手のはずの政府の赤字穴埋めだが、こんな「ヘリコプター・マネー」に等しいことを続けていれば安倍の財政放漫を助長し、最終的に破綻的状況をもたらしかねない。

 結局は出口も見えないまま円安と株高のために、「極めて緩和的な金融環境」という名の日銀の借金引き受けで、野放図な放漫財政を続けているのだ。財政破綻で歴史のアナロジーは完結するが、その時は遅い。

 さらには、実態がなく単なる金融政策にすぎない「アベノミクス」とやらを仰々しく持ち上げるだけ持ち上げたマスメディアの姿も、「暴支膺懲」を叫んで中国との戦争をあおり立てた、かつての各紙のそれを想起させるのに十分ではないのか。

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