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「内視鏡下手術」の経費削減策

「内視鏡下手術」の経費削減策
コストパフォーマスの悪さをいかに克服す

 群馬大学医学部附属病院では、2009〜14年、当時在籍していた医師による手術を受けた患者18人が相次いで死亡した。これが発覚してから、第三者による医療事故調査委員会(委員長=上田裕一・奈良県総合医療センター総長)が立ち上がり、最終報告書がまとまり、2016年7月末に公表された。

 報告書では、同院が、高難度の腹腔鏡手術を導入しながら、1人の医師が許容量を超える手術を行ったと指摘し、「極めて脆弱かつ異例」とその診療体制を断罪。病院のずさんな安全管理と、深刻なモラルの欠如ぶりが露呈した格好だ。

 かつての国立大学は2004年、国立大学法人の名の下に独立行政法人化され、国からの交付金頼みではない、自主的・自律的な大学運営が重視されるようになった。報告書によれば、独法化以後は、赤字部門だった医学部附属病院も採算性を確保しなくてはならず、「手術数増加が院是」となった。年間の手術件数は20年間で倍増し、病院規模に対する許容量の限界にまで達していた。とりわけ、この医師には、手術数増加のためのプレッシャーがのしかかり、過重な勤務を強いられていた。

 加えて、歴史の長い第一外科と、医師が所属していた第二外科との間には、医局間の対立があったとされる。15年度から二つの外科は「外科診療センター」として統一されたが、07〜14年当時は連携もなく、覇を競っていた。肝胆膵を専門とする外科医は、旧第一外科の3〜6人に対し、旧第二外科は1〜2人。しかし、手術は、旧第一外科が589件、旧第二外科も573件を行っていた。

 構造的に問題がある中で、この医師は、手術の力量不足という個人的な問題も抱えていた。09年度に、同医師の肝臓切除手術などを受けた8人が死亡している。また、医療事故発生時は安全管理部門に報告する制度がありながら、徹底されていなかった。当該医師は1例を除いて手術死を報告しなかったことで、病院側の把握が遅れた。さらに10年度に、難易度が高い腹腔鏡下手術が導入され、腹腔鏡下手術では8人が死亡している。

患者よりも経営を優先させた群大病院  報告書は、結論として、医療組織に規律を持たせ診療を統治する「クリニカルガバナンス」の不備を指摘。死亡症例検討会はほとんど行われず、記録もない。病院側が事故を把握し適切に対処していれば、その後の手術死を防ぎ得た可能性が示唆されている。教授は、死亡件数を過少に記載した論文を発表し、先進的な手術法の実績をアピールしていた。

 「患者中心の医療とは大きく乖離した」群大病院の医療は、患者優先を怠り、経営を優先させたことが根底にある。ただし、一連の問題について、第三者委は「全国の病院にも多かれ少なかれ存在する」としており、群大病院が信頼回復のための再発防止策を講じるのはもちろんとしても、全ての病院に自省を促す必要があるだろう。

 さて、内視鏡外科手術は、それほど病院にとってメリットがあるのだろうか。低侵襲であることで、早期退院・社会復帰がうたい文句であり、病床を効率的に稼働でき、回転率を向上させることが期待できる。速やかに手術を行って、術後の合併症を避けて速やかに退院させられれば、手術件数も増やせ、収入増加につなげられる。一方で、医療コストは従来の術式に対して膨らむ。

 日本内視鏡外科学会が2年に1度実施している「内視鏡外科手術に関するアンケート調査」では14年、1380施設(回答率48.4%)から、33万5000例(12〜13年)の報告が集まった。腹部外科、小児外科、呼吸器外科、産婦人科、泌尿器科、整形外科、形成外科の各領域において、内視鏡外科手術は、調査対象施設では右肩上がりに増加傾向にあった。

 この背景には、症例を集積するようなセンター化が進んでいる可能性がある。また、超高齢社会において、従来の術式では手術対象とならなかった患者も、手術の恩恵を受けることができるようになっているとすれば、喜ばしいことだ。

クリティカルパス導入と材料費削減  さて、腹腔鏡下手術は、日本では1992年に胆嚢摘出術が保険適用となったのを皮切りに、保険適用の対象となる臓器が広がっている。診療報酬は、従来の開放創手術と比べて高額に設定されている。2014年の診療報酬改定においても、腹腔鏡下手術は軒並み点数が引き上げられており、上昇率も開放創手術と比較すると高かった。

 腹腔鏡下手術は、高難度な手術であるため、もちろん技術料も加味されている。しかし、それ以上に、その増額分をコストに充当しなくてはいけない事情がある。胆囊摘出のような比較的単純な手術以外は、開放創手術に比べて手術時間が格段に延びるので、麻酔科医師や看護師など、手術スタッフの拘束時間が長くなる。手術室を専有する時間も長い。さらには、単回使用医療材料 (SUD、ディスポーザブル製品)を用いることで、医療材料のコストが膨らむ。

 コスト増は、医業経営においては、むしろマイナス要素となりかねない。米国では、入院期間短縮など低侵襲のメリットと、コスト面のデメリットを天秤に掛けた結果、内視鏡下手術の件数が頭打ちになってきている。

 日本では、こうしたコストパフォーマンスの悪さを克服するために、二つ考慮すべき経費節減策がある。まず、診断群分類別包括評価(DPC/PDPS)において、包括評価となる画像診断料、検査料、点滴など薬剤料を削減する工夫である。これは、クリティカルパスを導入し、しかも診療報酬の改定に沿って、見直しを図って運用していくことで、術後の検査・投薬の削減からコストを抑えることにつなげられると見られる。

 もう一つは、DPCに包括されず手術保険点数に含まれる部分で、内視鏡下手術時に使用される特定保険医療材料費の削減である。多くのディスポ製品の使用が、手術料の技術評価による増額分を食い潰す形になっている。ディスポ製品の価格は、再利用可能品と比べて約20倍と高額なだけでなく、医療廃棄物の点からも好ましくないはずだ。

 米国の包括払い制度(DRG/PPS)では、手術医療材料も包括の範囲に含まれる。また、米国では、ディスポ製品を再生した製品も米食品医薬品局(FDA)が承認しており、新品の50〜70%で用いることができるのだ。

 これは各医療機関の自助努力だけでは難しいが、日本も、仕入れ値と公定価格の差益などを期待するのではなく、もっと広い文脈で考えなくてはいけない。腹腔鏡下手術は適切に運用すれば、低侵襲であるメリットを最大限に享受し、患者を利するのみならず、病院の経営にも貢献できるのである。超高齢先進国の日本でこそ、機器を含めた技術革新の一手を期待したい。

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