SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

「新専門医制度」迷走の末、結局は「学会任せ」

「新専門医制度」迷走の末、結局は「学会任せ」

医師を大学病院に戻し「地域偏在」を加速する懸念  2017年4月にスタートする予定だった「新専門医制度」が迷走している。土壇場になって、病院団体などが「地域医療の崩壊を招く」と開始の延期を求めたことがきっかけだ。新専門医制度は当初、第三者機関の「日本専門医機構」が主導して専門医を認定する構想だった。それが混乱の揚げ句、17年度は各学会が認定する暫定案でしのぎ、全面実施は先送りされた。

 従来の「専門医」は、各学会が独自の制度に基づき認定してきた。しかし、基準がバラバラであることが問題視されてきたほか、「学会専門医」が増え過ぎて質を問われるようになった。こうしたことから、制度の統一と臨床医の能力向上を目指し、13年4月には厚生労働省の専門医の在り方に関する検討会が「専門医の認定は各学会ではなく、中立的第三者機関を設立して行う」「第三者機関は専門医の認定の他、養成プログラムの評価・認定を統一的に行う」などとする最終報告をまとめた。これを受け、14年に第三者機関として日本専門医機構が設立され、同機構や学会は17年4月の新専門医制度開始に向けて検討を進めてきた。

社保審医療部会で起きた「反乱」  新制度の先行きには、早くから暗雲が立ちこめていた。そして今年2月18日には、社会保障審議会医療部会という公の場で「反乱」が起きた。日本専門医機構の池田康夫理事長らが新専門医制度構想を説明したところ、「地域の医師不足に拍車がかかる」といった批判が噴出したのだ。

 部会の席上、池田氏らは基幹施設(大学病院などの大病院)と連携施設(中小病院など)が「研修施設群」をつくり、専門医育成に向けた研修は、各施設が作成するプログラムに即して進めること、研修を受ける医師の数は患者数や指導医の数に比例させることなどを説明したが、これに批判が続出。日本医療法人協会の加納繁照会長が「若手医師が大きな基幹病院にしか行くことができなくなり、中小病院からいなくなる」と切り込み、日本医師会の中川俊男副会長は「このままでは医師の偏在がより強まる。来年4月の開始は延期すべきだ」と踏み込んだ。

 批判を受け、医療部会長の永井良三・自治医科大学長は、部会の下に専門委員会を設置する考えを表明、専門委は3月から議論を進め、5月には「17年度は希望する学会に限り、『試行的』に新制度を導入する」との方針を示した。それでも議論は収束せず、6月7日には日本医師会(日医)と四病院団体協議会(四病協)が連名で「新たな専門医の仕組みへの懸念について」と題する文書を公表した。

 文書の中で日医と四病協は、日本専門医機構を「意志決定プロセスが透明性、中立性、社会的説明責任を欠いている」と酷評し、新制度について「ここは一度立ち止まるべきだ」「再検討の際はプロフェッショナルオートノミー(専門家による自律制)は尊重されるべきだ」と指摘。騒ぎを受け、塩崎恭久厚労相は「要望された趣旨を十分理解します」との談話を出すことを余儀なくされた。

 「18の違う文化の学会が集まり、無理かと思ったが、一つの理念と目的に向かって、よくここまで来たと感慨深い。それが無になることはないと確信している」。6月9日の日本専門医機構の合同委員会。小西郁生副理事長はこうあいさつし、新専門医制度は無事船出できる、との見通しを語った。

 それでもこの日、本来なら新専門医制度の認定役になるはずだった同機構は、17年度は認定に関わらず、学会に委ねる方針を打ち出した。同機構が養成を手がける総合診療専門医を除き、専門医養成の手法は事実上、基本診療領域の学会が担う。当初は診療科やプログラムごとに上限を設定することが検討されていた、新専門医制度の「専攻医」の募集定員についても、機構側は学会任せとする考えだ。

 新専門医制度に関する検討は、1990年に学会認定医制協議会が設置されて以降、長らく行われてきた。専門医の認定をする第三者機関として、日本専門医機構が発足した際には日本医学会や日医も構成員となり、その後、四病協なども加わった。自らも議論に参加しながら、制度発足直前になってブレーキをかけた日医や病院団体に、厚労省幹部は「二言目には『専門家の自律』と言うが、議論の過程でその自律を発揮する場面はたくさんあった。それができなかった結果ではないか」といらだちを隠さない。「結局は、自分たちの病院に医師が来なくなって経営不安に陥ることが怖いだけではないか」。

 迷走の末、17年度は「学会任せ」となったことで、学会側の対応も揺れている。「会内で制度を作り上げてきた」という日本小児科学会は合同委員会の席上、「新専門医の研修プログラムをスタートできる」と説明し、日本整形外科学会も「新プログラムで実施したい」との考えを表明した。

 日本内科学会は6月20日、理事長名で声明を発表。日医などが求めている協議の場が速やかに設定され、新制度への理解が進めば17年度から新たな専門医制度を開始したいとする一方、7月末までに開始のメドが立たない場合、同学会の現行制度を続ける意向を示した。日本産科婦人科学会も同23日、同様の声明を公表した上で、専攻医募集定員の制限はしない考えを明らかにした。

日医・病院団体と学会の同床異夢  日医や病院団体などが新専門医制度に慎重なのは、医師の偏在を招くとの懸念からで、この点は機構批判では足並みがそろう学会側と食い違う。当初案は専攻医の募集定員に上限を設け、大病院に専攻医が集中することを防ごうとしていた。この仕組みがどこまで機能するかは、学会任せとしたことで一層不透明となった。厚労省内からは「地域に散っている医師を基幹の大学病院に戻すことを想定したプログラムになりかねない」(幹部)との懸念が漏れてくる。

 専門医に認定されるまでに4〜5年かかることへの不安も根強くある。24歳で医師免許を取得しても、専門医に認定されるころには30歳前だ。東京都内の病院に勤務する若手医師は「研修中の十分な保障はあるのか。生活もあるし、専門医になることにはちゅうちょする」と漏らす。ある大学病院の教授は「研修医や指導医の人件費はどこから出るのか。この制度には無理がある気がする」と話す。厚労省幹部は「新制度は法律に基づいていない。カネ、ヒトを動かす上で、この点が最も弱い」と言う。

 6月末、日本専門医機構の理事長、理事は任期切れを迎えた。27日に選出された新理事には、新たな専門医制度を軌道に乗せるための組織立て直しが課せられている。同機構について塩崎厚労相は6月28日の記者会見で、「なんとなく不思議な存在だった。何かというと、みな小声で話をされる感じで、どういうことかなあと」と振り返った。「新しい体制ができたことは歓迎するが、学会の代表が混じっていたりして、暫定的な色合いがあるのかなと思う」と、どこか突き放した口調で語った。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top